蝶人物見遊山記第355回
音楽家にたとえるとモーツアルト、シューベルトに匹敵するほどの天賦の才に恵まれながら、スペイン風邪によってたった28歳で夭折したエゴン・シーレ。その薄命の無念を思えばコロナに罹ったにもかかわらず死ななかった私は、なんと幸運な人間だったことだろう、と思わすにはいられない展覧会でした。
シーレの同時代の師匠格のクリムトや孤絶派のココシュカ、あるいはウイーン分離派の表現主義の仲間たち、さらには当時画家を目指していたイトレルなどの作家の顔色なからしめたシーレの天賦の才は、それこそ一目瞭然です。
エゴン・シーレの植物画や風景画も素晴らしいが、彼の得意ちゅうの得意は、対象に肉薄しての、その存在の本源を引きずり出した人物像、とりわけ女性の肉体のスケッチに内蔵されているのではないでしょうか。
私は、裸の女を描いた大胆な輪郭線にさりげなく添えられた緑のあえかさこそ、絵画詩人エゴン・シーレの美の極まりに他ならない、と極言したい衝動に駆られるのです。
なお本展は来る4月9日までシャンシャンの居なくなった上野動物園の傍で開催中なり。
長島は下らないことしかいわないが野球についてはいいことをいう 蝶人