照る日曇る日 第1874回
米国の奴婢として嬉々として奉仕する腐敗堕落した政権を打倒し、自主独立の主権国家、「中立国日本」を、今更ながら敗戦直後の原点に立ち返って夢想する作者による、ああ堂々の超現実的にして超幻視的な虚実皮膜の実験的大河全体小説である。
右翼やファシストからは「お花畑の空想」と片付けられかねないメインテーマを終始一貫して堅持しながら、複雑に連鎖するプロットを、それなりのリアリティの膠で接着しつつ、にゃんとかきゃんとか巧みにゴールインする蛮力は、天晴見事じゃ!と讃えたい。
感心するのは、全体よりも細部の至る所に転がしてある「本当らしさ」で、殊にCIAというスパイ組織の内部活動をば、まるで自分が見てきたように微に入り細に亘って精確に描写し、既存権力の多種多様な反逆者たちを、まるで仏陀のように、見えない巨大な掌の上で自在に操る作者の超能力と剛腕には、舌を巻くほかはない。
ただ「サーカス」という言葉は再三登場するが、「パンとサーカス」という表題の意味を解き明かす文章は、「郵便配達は二度ベルを鳴らす」と同様、膨大な本書のどこにも描かれていないのが残念だった。
山々に山桜咲き里山に染井吉野咲き我が家には大島桜咲く 蝶人