上野駅から南下すると観光客でいっぱいのアメ横商店街や、昼から酒呑みが集まるガード下の酒場など、人がごったがえしている。そんな雑踏のど真ん中にありながら、蕎麦好きが愛して止まない名店がここ「上野藪そば」。創業は明治25年(1892)というから、数ある藪蕎麦の屋号の中でも、最も早く本筋の「かんだやぶそば」から暖簾分けされた歴史ある店。建物はビルになっているので風情はないが、店先に掲げられた屋根付きの灯篭看板が渋い。伺った時間は午後遅い時間とあって、店内に客はまばら。しめしめ、この様子なら心置きなく蕎麦前が楽しめるというもの。カウンターに囲まれた麺打ち場を眺めることの出来るテーブル席に腰を下ろした。中は改装されたばかりのようで、特に老舗らしさはないのだが、妙に落ち着く雰囲気。力みが無く、自然体。観光客の多い上野だけに外国人客の姿も。給仕の女性は慣れたもので、ゆっくり丁寧に説明している。最近はみな箸使いも慣れたもので、なかなか上手に手繰っていた。啜らない(啜れない)ので旨そうには見えないが。
まずは菊正宗の「「みぞれ酒」を注文。文字通り凍らせたお酒で、陶器の片口に入れられ、塗りの升と一緒に運ばれた。蕎麦味噌の他に塩も付いてくるのがうれしい。汗ばむ陽気だったので、冷たいお酒としゃりしゃりした口当たりが堪らない。他にも頼んでおいた焼き海苔が登場。専用の蓋付き木箱(焙炉・ほいろ)に入れられた海苔の下には、しっかりと火の熾った炭片が入っている。これで海苔はパリパリの状態が保たれるという仕組み。一枚づつ海苔をつまみ、山葵をのせたり、醤油をつけたりして口の中に放り込む。そこへすかさず冷たいお酒をグイッと…。天国。麺打ちの作業を眺めつつ、ゆっくりと楽しんだ。もちろん呑んだあとは蕎麦を追加。こちらには酒呑みに嬉しい、量が少なめの「さくらせいろう」がある。蕎麦はしっかり締められ、喉越しもいい。つゆは藪らしい辛汁。キリッとしていて蕎麦が引き立つ。銅の色をした小さいやかんに入れられた蕎麦湯はサラッとしたタイプ。温かい蕎麦湯を辛汁に足していただくと冷えた胃の中が落ち着いてとてもいい按配。場所柄昼どきは混むんだろうけれど、外の喧騒から逃れて素晴しい時間を過ごすことが出来て、幸せ。(勘定は¥1,800程)
↓ 「上野駅」の駅舎は昭和7年(1932)に完成。約2年の工期には「上野戦争」の遺品が多く掘り出され、工事が始まると事故が相次ぎ、あわてて供養を行ったら事故が無くなったとか。
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東京都台東区上野6-9-16
( 上野 うえの 上野薮そば うえのやぶそば 上野藪蕎麦 上野薮蕎麦 かんだやぶそば 神田薮蕎麦 みぞれ酒 ほいろ 焙炉 海苔箱 )