中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2022「高坏」「隅田川千種濡事」 (3月15日 一宮市民会館)
コロナ禍になって、ずっと地方巡業は中止されたままだったが、第6波の真っ最中とはいってもだんだんスケジュールが組まれるようになってきた。ただし公演によっては途中で中止なんてこともあり、まだなかなか完遂することは難しい。この勘九郎・七之助の巡業も、前半の4公演は関係者に具合を悪くした人が出たとかで中止になってしまった。自分がチケットを買った日はどうなのかと気を揉んだが、無事開催されることに。会場は自分の居た2階席は少なかったが、まあまあの入り。
一幕目の「高坏」は、以前に菊之助で観たことがある演目。自分はやはり十八代勘三郎のイメージが強い。背景の満開の桜が今の季節にぴったり。次郎冠者の酔っぱらったコミカルな動きと、下駄で奏でるタップダンスのようなスピーディーな流れが楽しい。こういうにっこり笑顔の”人たらし”みたいな役柄は勘九郎にはピッタリだ。やはり親子、しっかりその血を受け継いでいる。
二幕目はトークコーナー。女性アナウンサーと共に、まず七之助と、父勘三郎の部屋子だった売り出し中の鶴松の3人がステージに立ち、来場者の質問を基に進行していく。他の地方会場でもよくあるのだが、名古屋市内でない周辺の会場でも、役者もアナもここが名古屋だという認識で話が進む。まあ名古屋圏には間違いないし、市内からの客も多いようだが、いつもそんな大きな括りにしなくても、と引っ掛かるのだが…。途中で着替えの終わった勘九郎と、これから三幕目の準備をする七之助が交代。鶴松は全くの一般人からこの特殊な世界に入り、昨年には異例の歌舞伎座での主役を務めたという逸材だ。でもトークは苦手とみえて、いつもちぐはぐな答えで会場から失笑が漏れる。もう27歳になるんだけれど(笑)。
三幕目の「隅田川千種濡事」は、通称「お染の七役」と言われる早変わりが見ものの演目。抜粋なので四役だが、七之助の早変わりを手っ取り早く楽しむことが出来る。前幕のトークコーナーで七之助が演じる役を説明してくれているので客も分かり易かったろう。でなければ七之助も言っていた通り、パッパッと早変わりして何のことかさっぱり分からなかったに違いない(演目を端折ってもいるので)。早変わりするたびに会場からどよめきが起こる。でも早変わりよりも、気のふれたお光の物悲しい表情と舞、それに大勢を相手に立ち回る男勝りのお六のかっこよさが際立っていたと思う。
一、高坏(たかつき)
次郎冠者:中村勘九郎
大名某 :中村小三郎
太郎冠者:中村仲侍(夜)
高足売 :中村鶴松
二、トークコーナー
中村勘九郎
中村七之助
中村鶴松
『於染久松色読販』より
三、「隅田川千種濡事」(すみだがわちぐさのぬれごと)
中村七之助四役早替りにて相勤め申し候
許嫁お光/油屋娘お染/丁稚久松/土手のお六:中村七之助
猿回し夫婦
長三:中村いてう
お作:澤村國久