
以下の内容の要望書を、山中、押谷、長谷川、大曲の4氏が日本新聞協会と日本民間放送連盟に提出しました。
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日本新聞協会会長 山口寿一殿
日本民間放送連盟 大久保好男殿
-みんなで共に、走っていこう-
新型コロナウィルス感染症対策に関する、研究者・臨床家から報道機関への要望書
現在、世界は新型コロナウイルス感染症の世界的流行に見まわれており、日本でも、多くのかたが感染し、
また、外出自粛の影響で生活が困窮するなどの社会的影響にも苦しんでいます。
このウィルスは未知であるがゆえに、人々の不安や分断を引き起こし、感染者に対する差別や偏見が高まっています。
特に、もっとも感染リスクの高い医療従事者が、差別や偏見を受けるという残念な状況も起きています。
また、そのような差別を恐れるゆえに、看護師が集団離職するなどの例もあり、医療崩壊の危険、特に地域医療における危機に拍車をかけています。
2002年のSARSで多数の死者を出した台湾や香港などでは、同じような経験から、このような新しい感染症が起こった時に、
政府や専門家がどう国民に情報を伝え、またそれをマスメディアがどのように報道して国民の連繋を高めてゆくか、という仕組みを構築してきました。
しかし日本社会は、SARSなどを免れた幸運ゆえに、
「感染者の情報を社会がどのように取り扱い、報道機関がどのように報道し、差別や偏見を助長せずに危機を乗り越えるべきか」という議論を
持つ機会がありませんでした。
新型コロナウィルス感染症の克服には、社会の強い連繋が必要であり、政府・国民・医療従事者・報道機関など、みなが当事者として、
共に課題を担いあうことが必要です。
山中、押谷、長谷川、大曲は、研究者・臨床家として新型コロナウィルス感染症に関わる中で、感染者への差別や偏見、特に医療従事者への差別や偏見を
防ぐことが急務と考え、この要望書を出すことを決意しました。
社会の連繋を強め、この未知の脅威に共に立ち向かうために、報道機関各社の皆様のご協力を仰ぎたいと願っております。
具体的には、以下を要望いたします。
・感染者によりそい、誰もが当事者になりうるという観点から、感染者に対する差別や偏見を防ぐための方策を、共にご検討頂きたい。
・とくに、診療を通じた医療従事者の感染や院内感染は、予防や対処がとりわけ難しい。
というのも、すべての患者が知らずに感染している可能性があり、また医療従事者や患者が気づかぬまま感染し院内に拡大する危険があるからである。
医療従事者や医療施設に対する差別や偏見を防ぐための方策を、共にご検討頂きたい。
・日本新聞協会・日本民間放送連盟および会員社で、今回の新型コロナウィルス感染症および将来の新興感染症の報道に関するガイドラインを作成して頂きたい。
・研究者や臨床家が、報道機関と具体的にどのように協力すればよいか、ご提言を頂きたい。
2020年4月24日
山中伸弥(京都大学教授)
押谷仁(東北大学教授)
長谷川好規(名古屋医療センター院長)
大曲貴夫(国立国際医療研究センター国際感染症センター長)
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あまり見たことのないような要望書です。
ほっておけないという危機感の表れですね。
お読みいただきありがとうございました。