開巻劈頭、ベートーヴェンの「運命」が何の衒いもなくジャジャジャジャーンと鳴り響いたのには驚いたというより恐れ入った。
衒いがないというと偉ぶらないとか気取りがないといった類義語があるが、ジョン・ギールグッドがまあ偉そうというより実際に偉い、気取りが身についているのが役にも当人にも当てはまる。
むかし指揮者のギールグッドがクリスティン・ヤンダ(「大理石の男」)の母親に言い寄っていて、ヤンダは今は彼の指揮下のオーケストラでヴァイオリンを弾いている。
夫アンジェイ・セベリンは何をやっているかというと何やっていいのかわからないでいるところにギールグッドの代役で臨時で指揮をやらされ、ほとんど錯乱状態になってオーケストラの団員の信頼も何もなくしてしまう。
ギールグッドが颯爽と背筋を伸ばしてステッキを振りながら列をなしている庶民に紛れるあたり、エリート意識を見せないエリートっぷりが板についている。
で、ラストも「運命」で締めくくられる。画面が黒くなってもしばらく鳴ってるからいつ終わるのだろうと不安になった。