平城遷都1300年を記念して、表記の展覧会が、日本橋の三井記念美術館で開かれている。法隆寺、東大寺等、奈良の十いくつかの古刹の、芸術的にも評価の高い(多くが重文、国宝もある)仏像さんたちが、おみえになっている。加えて、會津八一の歌も添えられ、それぞれ詠まれた、お寺が目に浮かぶようで、まるで奈良に行っているような感じにさせてくれる。
ぼくは奈良が好きで、ここ毎年のように訪ねている。でも、仏像さんに関しては、東大寺では三月堂、興福寺(今回の展示には入っていなかったが)では国宝室というふうに、有名な仏像さんしか観ていないことが多い。だから、今回、こうして、初見の多い(あるいは、みていてみてない)、奈良の仏像さんたちがお集まりになってくださるのは、大変ありがたいことである。
展示室1、2では、菩薩半跏像(東大寺)、菩薩立像(法隆寺)等、小さな、金銅仏(銅の仏像に金メッキしたも)がずらりと並ぶ。たぶん、ほとんど観ていないものばかりだ。仏壇に置いて拝みたいような、サイズの尊いお姿をした仏像さんが多かった。薄い銅板に仏像を浮き出させた、”押出”の仏像さんも4点ほどあり、これもなかなか趣のある仏像さん達だった。
菩薩半跏像(岡寺)と菩薩立像(法隆寺)


展示室3、6には、會津八一の歌書や書が並んでいた。八一を歌人としてしか知らなかったが、書もやり、美術史の専門家であるとのことだった。ここでは、和歌は展示されておらず、それぞれの、お寺の仏像さんの展示場でみることができる。それらは、最後に示そうと思う。歌碑拓本もあったが、今年みてきた唐招提寺のものだった。
そして、お待ちかね、展示室4(東大寺、西大寺、唐招提寺、薬師寺)と展示室7(長谷寺、當麻寺、橘寺、法隆寺、大安寺、秋篠寺、元興寺)には麗しい仏像さんたちが待っていた。どれも良かったが、順不同で、とくに印象に残ったものだけをいくつか挙げてみたい。
まず、今年みたばかりの唐招提寺のトルソーとして名高い、如来形立像。すけすけルック(もう死語かな)のような衣をつけ、うつくしいプロポーションはお色気さえ感じさせます。よく日本橋までおいでくださいました。長い道中おつかれだったでしょうと、ぼくは何度も繰り返し、拝観させてもらいました。カヤ材の一木造で、今回の展覧会では最も知られた仏像さんでしょう。また、来年、(もしかしたら、この秋にでも;汗)奈良でお会いしましょうね。
西大寺の”塔本四仏像”も良かったです。品格のある優しいお顔とお姿。それぞれ合掌の仕方がちがい、まねをして手をあわせているご婦人がいました。もと西大寺の東塔に安置されたと伝えられています。四体が一堂に会するのは20年ぶりだということです。ここだけ、八一の歌も添えます。この仏像さんのことを詠っているのだと思いますから。
ガラスどにならぶ四はらのみほとけのひざにたぐいてわがかげはゆく
東大寺の”五劫思惟阿弥陀如来坐像”。”五劫”というのは、仏教用語で長期間という意味だそうです。だから長期間、思惟している仏像さんです。だから、髪が伸び放題、でもパンチパーマみたいですね(笑)。目を閉じ、眠っているような静けさが印象的でした。修行していて、あまりご飯も食べていないはずですのに、でっぷりしていました。ぼくと同じに、この猛暑でビールを飲みすぎてしまったのでしょうか(汗)。ヒノキ一本造りの親しみやすい仏像さんでした。

そして、トリを務めていただくのは、ポスターに採用された、国宝、観音菩薩立像さま(法隆寺)。夢違(ゆめちがい)観音の異名もあります。悪い夢を良い夢に変えてくれるそうです。夢にうなされる方は、三井記念美術館においでください。奈良までの電車賃が節約できます。ただ、寝違いで首を痛めた方には効果ありません。冗談はさておき、小柄な、とても、麗しい素敵な仏像さまでした。

もうひとつの国宝、室生寺の釈迦如来座像は前期のみ展示で、お目にかかれず、残念でした。秋篠寺の天女のようにお美しい伎芸天さまとも再会したかったのですが、今回は別の仏像さまでした。まだまだ、いろいろ紹介したいのですが、この辺でおわりにします。あと、會津八一の和歌をメモしてきましたので、奈良の古寺の雰囲気を味あってください。
。。。
(法隆寺)
あまたみし てらにはあれど あきの日に もゆるいらかは けふみつるかも
(東大寺)
おほろかに もろ手のゆびを ひらかせて おほきほとけは あまたらしたり
(唐招提寺)
おほてらの まろきはしらの 月かげを つちにふみつつ ものをこそおもへ
(薬師寺)
すいえんの あまつをとめが ころもでの ひまにもすめる 秋のそらかな
(當麻寺)
ふたがみの てらのきざはし 秋たけて やまのしずくに ぬれぬひぞなき
(秋篠寺)
あきしのの みてらをいでて かへりみる いこまがたけに ひはおちむとす
(2年前訪れた秋篠寺)