18日と昨日で(上)(下)二回の「奨学金を考える」の連載です。
いつもながらの精力的な記事にうれしくなりました。
2012年10月25日 中日新聞
そうそう、ちょっと前に文化面で三品信さんの署名記事も見つけました。
2012.10.23 中日新聞
「脱原発」出版人の信念 鹿児島「南方新社」向原祥隆さん
もう一息で世の中変わる 知事選に出馬 20万票の健闘の記事。
ダブルでうれしい思いです。
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奨学金を考える(下) 進まぬ給付型導入 2012年10月25日 中日新聞 就職しても低賃金だと返還が難しくなる奨学金。返還の必要がない給付型が主流になれば、利用する側はありがたい。が、日本では、国や自治体の財政難から公的な奨学金のほとんどは貸与型だ。一部給付の独自の奨学金制度を導入した香川県の事例や海外の事情を基に、「貸与か給付か」を考えた。 (白井康彦) 「反響はかなりありました」。香川県教育委員会高校教育課の中村禎伸課長補佐は、こう振り返る。これまで県独自の奨学金制度はなかったが、低所得世帯の学生を支援するため新設。二〇一一年秋に初めて利用者を募集した。 一二年春に大学、短大、大学院などに入学する人が対象で、学力や世帯収入の基準を満たすことが条件。募集人員は約百人。これに加え、特別に一一年春に入学していた学生も約百人募集した。計約二百人の募集枠に約八百人の申し込みがあった。 今年三~四月は、一三年春の入学者を対象に二回目の募集を行い、約三百五十人が応募した。 人気の要因は、県内就職者への一部返還免除だ。免除されるのは、一万五千円に奨学金の利用月数を掛けた金額。奨学金を四十八カ月利用していた場合は、七十二万円を返還しなくて済む。 この奨学金を利用しても、卒業後に県内で就職するとは限らない。中村さんは「県内就職は半分ぐらいと見込んでいる」と説明する。年間利用者約百人のうち五十人が県内で就職すると仮定すると、一部返還免除の合計は毎年三千六百万円になる計算。県の財政はその分だけ持ち出しになる。 浜田恵造知事は、一〇年の知事選で奨学金制度の創設を選挙公約に掲げた。財政難の中で一部給付の奨学金が実現できたのは、知事主導だったからだ。 ◇ 国の予算が使われる独立行政法人「日本学生支援機構」(東京)の奨学金はすべて貸与型。給付型は、個々の大学が学業優秀者に支給するほかは、多くの自治体が医師確保策の一環で医学部生へ奨学金を出しているのが目立つぐらいだ。 欧米諸国では状況が大きく異なる。教育関係の労働組合などでつくる「奨学金の会」が、経済協力開発機構(OECD)が編集した「図表でみる教育OECDインディケータ」(一〇年版)を基にまとめた資料を見てみよう。家計の教育費への公的補助に占める給付型奨学金の割合を示したものだ。日本は0%だが、フランスやイタリアなど欧州の十一カ国は100%で、OECDの平均でも58・5%。欧米では給付型が主流だ。 ◇ 「奨学金の返還負担の重さを考え、貧しい世帯では大学進学をあきらめる人が多い」。こういった声が教育界で強いため、文部科学省は日本学生支援機構の奨学金に給付型を導入しようとした。 文科省の概算要求で、高校生向けの奨学金については一〇、一一、一二年度に、大学生など向けも一二年度に給付型の新設を求めた。大学生など向けは二万一千人を給付対象に、一人当たり平均で年間七十万円を給付する案だった。 しかし、国の財政が厳しいことを理由に財務省や与党が給付型の導入に反対し、結局、給付型は導入されなかった。文科省は、一三年度の概算要求では給付型を求めなかった。 実現が遠そうな給付型。低賃金の非正規労働の割合が上昇し、給与所得者の平均収入は減り続ける。奨学金の返還を将来長く背負わされる若者はつらい。 奨学金問題に詳しい中京大国際教養学部の大内裕和教授は「日本の教育予算の割合は海外諸国に比べて低く、大幅にアップさせる必要がある。給付型奨学金を導入するなどして、若者に希望を持たせねばならない」と話している。 |
奨学金を考える(上) 返還に苦しんで 弁護士らへ相談 2012年10月18日 中日新聞 非正規雇用などで収入が不安定のため、奨学金の返還に苦しむ若者や親が多い。背景には、貸与中心の奨学金制度など構造的な問題がある。各地の法律家らは、奨学金返還についての相談活動に力を入れ始め、この問題に取り組む労働組合と、制度見直しを求める運動にも力を入れる構えだ。二週にわたり、奨学金の返還問題について考える。 (白井康彦) 奨学金の返還や労働相談に乗る首都圏なかまユニオン、日本学生支援機構労働組合(学支労)などの労組と各地の法律家らが、九月二十九日に開いた「奨学金返済ホットライン」。全国五カ所で計六十件の相談が寄せられた。 東海地方に住む主婦も、悩みを電話で法律家に伝えた。「子どもの奨学金返還の負担が重く、家計がピンチ。子どもも将来展望が見えません」 夫は六十歳で定年退職した後も会社勤めをしているが、年収は以前に比べ大きく減り、二百万円ほど。子ども二人は私立高校から私立大学に進み、下宿生活を送った。共に就職し、一人は正社員だが、もう一人は契約社員の扱いで、約一年勤めたものの諸事情から退職、今は求職活動中だ。 二人とも、日本学生支援機構の奨学金を高校生のときから利用。貸与総額は一千万円を超えた。現在は、失業中の子どもの返還を親が肩代わり。住宅ローンと合わせると、毎月十万円ほど返している。貯金は底をつきかけており、必死で節約する日々だ。 ホットラインの相談の大半は、親からの相談だった。「子どもが就職に失敗した」「就職はしたが、非正規労働で低賃金」「子どもが精神疾患になった」といった事情が目立つ。奨学金は子どもに支給されるが、通常は親が連帯保証人になる。 奨学金ホットラインは、これまでは労組が中心になって東京都や大阪市、那覇市で行っていたが、今回は全国各地の弁護士や司法書士に協力要請し、初めて名古屋市や札幌市でも開設した。 奨学金でシェアが大きいのは日本学生支援機構。同機構は、低所得などで返すのが困難な人向けに返還猶予制度を設けており、なかまユニオンなどは、相談を受けた際に「返還猶予制度を使えば、返還を一時的にストップできる」とアドバイスする。 ただ、奨学金の返還に迫られ、消費者金融なども利用して多重債務に陥った人も少なくはない。そうした場合などは、法律家に頼んで債務整理することが必要だ。 日本弁護士連合会貧困問題対策本部に所属する岩重佳治弁護士は、各地の弁護士や司法書士に協力を要請した結果、「全国の五十人ほどの法律家に協力してもらえることになった」と説明。「今後は各地の弁護士会にも協力を呼び掛ける予定。制度改善に向け、弁護士会としての提言なども検討してほしい」と話している。 ◆「非正規雇用で延滞」増 日本学生支援機構が持つ債権のうち、3カ月以上返還が延滞している分の金額は、2011年度末で2647億円。12年前の約2.8倍の水準=グラフ。学生への仕送り額が減少し続けるのに伴って、奨学金利用者が増え、比例して延滞債権額が伸びた。 非正規雇用労働者の割合が高まったことを反映し、今は延滞者の半数以上が非正規雇用や失業中の若者だ。全体の債権額の伸びが大きいので、今後も延滞債権額は伸びていく見込みだ。 労組幹部は同機構の奨学金制度にも問題があると指摘する。学支労の岡村稔書記次長は「返還が不要の給付型を導入すべきだし、貸与型については無利子タイプのものを拡充しなければ」と訴える。「大学の学費そのものを抑えるべきだ」という意見も、労組や法律家には強い。 |
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