熟年新米弁理士のひとり言

平成18年に59歳で弁理士試験に合格した企業内弁理士です。弁理士試験、企業での知的財産業務について、気軽にお話します。

差し止め請求とクロスライセンス

2008-01-04 22:31:59 | Weblog
経済ニュースで、差し止め請求とクロスライセンスの二つの記事が掲載されていました。

差し止め請求についての記事は、「ニューヨーク(ウォール・ストリート・ジャーナル)通信機器用半導体メーカーの米ブロードコム(Nasdaq:BRCM)が無線通信技術大手クアルコム(Nasdaq:QCOM)を相手取り「携帯電話機向け半導体の特許権を侵害された」と提訴していた問題で、カリフォルニア州サンタアナの連邦地裁がクアルコムに差し止め命令を出したことについて、クアルコムは2日、「短期的な影響が直ちに現れる」との見通しを示した。」です。

特許権ライセンス交渉に関係する仕事をしていた経験から言えることは、ライセンス交渉で最も注意を要するのが、「差し止め請求」です。
攻撃する立場からすると、最も強力な武器であり、防衛する立場からすると、最も警戒しなければいけない武器だからです。

上記の記事に記載されているように、「差し止め請求」が認められると、ビジネス上のインパクトが直ぐに現れ、その大きさもかなりなものになります。

そのため、ライセンス交渉担当者は、常に「差し止め請求」を受けないように細心の注意を払っています。
通常、企業間でライセンス交渉を行っている場合、互いに相手企業の商品を攻撃する特許権を複数有していますので、双方の企業とも、簡単に「差し止め請求」の武器を使用することはできません(企業にとって、両刃の剣になる)。

そこで、クロスライセンス契約(双方の特許権を互いに使用することができるようにする契約)を締結するという和解が成立することになります。

このクロスライセンスについての記事が、「米フィルム・写真関連大手イーストマン・コダックは28日、松下電器産業、日本ビクターと争っていたデジタルカメラに関する特許侵害訴訟で、お互いが持つ特許を利用できるクロスライセンス契約を交わすことで和解が成立したことを明らかにした。」です。

個人的には、ライセンス交渉は、訴訟に至らずに解決することが重要だと考えています(訴訟は、双方にとって負担が大きく、勝者がいない裁判となる可能性が高い)。

以上の観点から、クロスライセンス契約を締結するという和解を成立させた、コダック・松下・ビクターが妥当な判断をしたのではないかと思われます。

米ブロードコムは、地裁で勝利を収めましたが、この後、CAFC、最高裁と長く続く戦いが待っており、最も恐れる消耗戦に突入する可能性も否定できません。
つまり、勝者のいない戦いとなる訳です。

ライセンス交渉の目的が何かを考えて、適当なところで和解するという柔軟な姿勢が必要だと思うのですが。
最もこのような考え方は米国人には理解されないかもしれません。
以前、大学院で米国特許弁護士と和解について議論したことがありますが、彼は、有利な条件で和解をするために訴訟をするので、訴訟をしない和解は考えられないと言っていました。
異文化間で交渉を進めるのは難しいものだと感じたことを覚えています。

2つの記事に記載された企業・技術・製品について、今後の展開を注目していきましょう。
果たして、どちらが勝者になるのか。


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コメント (3)
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