寒の月しきりに雲をくぐりけり
久保田万太郎の名吟である。気温が低くくなって、月は冴えわたり、月に添える雲の動きも急である。秋の月は多くの人から見られてきたが、冬の月を見る人は多くない。それだけに、うっすらと山の端を照らし出す月光は、孤高というか気高い感じがする。
大寒に入ってから、テレビに流れる天気予報が妙に気になる。この季節には、道が凍てつき雪が降り積もることなど当たり前なのに、大雪にご注意を、とさも台風がくるときのように注意を促している。爆弾低気圧などあまり経験しない注意を要する異常気象と冬であれば当たり前な寒気の張り出しなどの現象が同列に扱われているような気がする。
新古今の歌人、藤原清輔も寒の月を詠んでいる。
冬枯の森の朽葉の霜の上に落ちたる月の影のさむけさ
冬枯、森、朽葉、霜と厳冬のイメージが幾重にも重ねられ、その上に落ちる月影は氷と化した月光の結晶であろう。
大寒の満月を眺めながら、俳人や歌人の自然を見る目に心打たれる。厳しい季節ではあるが、その季節を生きる人間のなかに流れる熱い血が感じられる。