残暑のない今年の秋は、一気に進んでいく。台風18号が成長しながら、日本列島の南岸へコース取りつつある。この台風が過ぎれば、秋は一段と深まっていくらしい。10月8日は24節気の寒露である。「雀海に入りて蛤となる」という信じがたい言い方が暦にある。空を飛ぶ雀は陽の生物が、陽気が陽から陰に変わる季節に、陰の蛤に姿を変えるという俗信である。羽と殻の色調と斑点がどことなく似ているからこんなことが信じられたのかも知れない。
中唐の詩人韋応物の詩に「秋夜寄丘二十二員外」というのがある。丘二十二は丘家の兄弟、いとこなどを年齢順に示した呼称である。員外は役所。働き先と兄弟の順番で名前を呼ばれる。員外朗で働く、丘の22番目。不思議な呼び方だが、実際にこうした呼び方行われたのである。
懐君属秋夜 君を懐うて秋夜に属す、
散歩詠涼天 散歩して涼天に詠ず。
山空松子落 山空しうして松子落つ、
幽人応未眠 幽人応に未だ眠らざるべし
君と幽人は丘二十二を指している。幽人と呼ぶことで、丘二十二が浮世を捨て、人のいない山に隠棲していることを示している。詩人は秋の夜、丘二十二君を思いながら秋の夜、涼しい夜風に吹かれながら、詩を詠じている。君の住む、人けのない山中では、松かさの落ちる音に、起きて耳をそばだてていることだろう。
この詩には井伏鱒二の名訳がある。そちらを読みながら詩の深さを読みとって欲しい。
ケンチコヒシヤヨサムノバンニ
アチラコチラデブンガクカタル
サビシイ庭ニマツカサオチテ
トテモオマエハ寝ニクウゴザロ
井伏は丘二十二に代わりにケンチを出した。これは文学仲間の友人であった。友人とは文学談義に興じ、別れた後の眠られない夜が詠まれているが、原作の舞台を日本の文壇に置き換えて
詩を自由に意訳している。
日記・雑談 ブログランキングへ