義母が家にきてから、食事のときは一緒にテーブルを囲む。ベッドから立つことも、歩くことも介護なしにはできないが、食事だけは自分で茶碗と箸を持って食べる。会話もそれほどあるわけではないが、「おいしい?」と聞くと「うまい」と答える。口に入れて咀嚼して呑み込むと、ひとりごとのように「うまいな」と言う。妻はそれを聞いて満更でもないらしく、「よかったね」と相槌を打っている。
うまい、と言うのは昔は男の使う言葉であった。いし、は女房言葉である。字をあてると、美し。丁寧に上におをつけるから、「おいし」、「おいしい」と言うようになった。女の子が父親のまねをして、「ああ、うまかった」というと、母親は注意して、「だめですよ。女の子はおいしい、と言いなさい」と叱ったものである。
いしいしと言うのは、「美し」を重ねたもので、おいしいものの代表として団子のこという。樋口一葉の『十三夜』に、「今宵は旧暦の十三夜、旧弊なれどお月見の真似事に団子(いしいし)をこしらへてお月様にお供へ申せし、」と書いて、団子にいしいしと読み仮名をつけている。田舎育ちの義母は、女房言葉を知るはずもなく、「うまい、うまい」と男の使う言葉をそのまま使っている。
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