万葉集で、秋の七草を詠んだ山上憶良の有名な歌がある。
その一 秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
その二 萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花
この歌は天平2年のころ、山上憶良が筑前の国司として筑紫に赴任していたころの作である。この年憶良は72歳。野に遊ぶ筑紫のこどもたちをまえにして、七草の花の種類を教えていたものと推察できる。指折りは、ここではくだけて「および折り」と読む。
秋の野にいっぱい花が咲いているいるな。いいかこうやって指を折って数えると、七種の花、そら七種(ななくさ)の花があるんだぞ。(その一)
憶良は大勢の子どもたちを前に、両手を上げて、指を折りながら花を数えて見せた。
ひとつ萩の花、ふたつ尾花、みっつに葛の花、そうそういつつにはなでしこの花。ここで片手は拳になってしまう。もう一方の手で、むっつ藤袴、ななつ朝顔の花。そうだよ全部で七種の花なのさ。こうして満面の笑みを浮かべて子どもたちと語る好々爺の憶良の顔が浮かびあがる。
憶良には、子等を思ふ歌がある。これも子を憶良の愛する心情を吐露した歌として有名である。同じく筑前国司であったときの作である。
瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものぞ まなかひに
もとなかかりて 安寐し寝さぬ
反歌
銀(しろばね)も 金(くがね)も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも
行き過ぎた子への愛着、愛執。それは仏教の戒めるところでもあった。それを突き抜けた憶良の絶唱である。
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