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12月に入って今日までは温かい。青空に向かって山茶花が咲いているが、この花には少し合わない感じがする。同じ青空でも気温がもっと低く北風のなかであればぐっと季節感がでる。冬のある日、「山茶花は冬の寒い日に咲いて哀れだな」とつぶやくように語ったのは志賀直哉である。花の少なくなった季節に、北風のなかで咲く山茶花は人にそんな感慨を起こさせるのかも知れない。
志賀直哉は『山鳩』という小品を書いている。志賀のもとに出入りしていた福田蘭堂が、猟銃で小寿鶏、山鳩、鵯など打って料理して食べたことがあった。今では許されないことだが、戦後の食糧の不足の時代には、珍しいことではなかった。
「翌日、私は山鳩が一羽だけで飛んでいるのを見た。山鳩の飛び方は妙にきぜわしい感じがする。一羽が先に飛び、四五間あとから、他の一羽が遅れじと一生懸命に随いて行く。毎日それを見ていたのだが、今はそれが一羽になり、一羽で日に何度となく、私の眼の前を往ったり来たりした。(中略)幾月かの間、見て、馴染になった夫婦の山鳩が、一羽で飛んでいるのを見ると余りいい気がしなかった。」
番の鳩が連れ合いを失った姿は哀れであるが、その原因が自分にあるのではと思うと気が咎めたのであろう。