夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『やわらかい手』

2008年11月06日 | 映画(や行)
『やわらかい手』(原題:Irina Palm)
監督:サム・ガルバルスキ
出演:マリアンヌ・フェイスフル,ミキ・マノイロヴィッチ,
   ケヴィン・ビショップ,シヴォーン・ヒューレット他

「やわらかい手」の意味するところは、
すなわち「手コキ」に最適な手。(^^;

ロンドン郊外の町。
数年前に夫を亡くしたマギーは、最愛の孫オリーの難病に苦しんでいる。
息子夫婦は治療費の工面のために家まで手放し、心身ともに疲労困憊。

ある日、豪州の病院で最新の手術を受けるよう、
医師から指示を受ける。しかし、問題はお金。
英国の医療制度により、豪州での手術自体は無料だが、
渡航費、滞在費などはすべて患者側の負担なのだ。

絶望する息子夫婦を前に、マギーは何とかなると言い、
こっそりと仕事を探しに出かける。
だが、職歴も資格もない60歳過ぎの彼女に、仕事の口など見つからない。

落ち込む彼女の目に映った「高給・ホステス募集」の文字。
店のオーナーに面接を申し込んで仰天。
その店は紛れもない風俗店で……。

主演のマリアンヌ・フェイスフルは、
40年前、アラン・ドロンと共演してブレイク。
その歌声は妖精と呼ばれ、ミック・ジャガーをも夢中にさせました。
還暦を超えた彼女は、昔の清楚なイメージはどこへやら、
堂々たるおばちゃんぶりで、「やわらかい手」の持ち主を演じています。

実生活の彼女は、あらゆるスキャンダルを醸してきた人ですから、
「手コキって何?」なんて言おうもんなら、
何をカマトトぶってるねん!っちゅう感じですが、
これがカマトトには見えなくて、
マジで知らなそうに見えるんだから、たいしたもの。

オーナーが東京の店を真似たというその店のサービスは、
壁に開けられた穴に男性がアソコを突っ込み、
こちら側の個室にいる女性が手でイカせるというもの。
客は60歳過ぎのおばちゃんにさすられているなんて夢にも思わず。

マギーの手はいつしかゴッドハンドと呼ばれ、行列までできるように。
最初は嫌悪感をあらわにしていたマギーが、やがて自信を持ち、
それまでうつむき加減だった歩き方も、少しずつ変わってゆきます。

母がどのように稼いだかを知り、激怒する息子。
それまで姑を嫌っていたのに、理解する嫁。
これがとても対照的。
風俗店でお金を使うのは男なのに、怒るのは虚しさを感じるから?
もっと明るくお店に通ってもイイと思います。(^^)

手コキのしすぎで腱鞘炎。
テニス肘ならぬペニス肘、スゴイです。

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『譜めくりの女』

2008年11月03日 | 映画(は行)
『譜めくりの女』(原題:La Tourneuse de Pages)
監督:ドゥニ・デルクール
出演:カトリーヌ・フロ,デボラ・フランソワ,パスカル・グレゴリー,
   グザヴィエ・ドゥ・ギュボン,クロティルド・モレ他

フランスの作品。
カトリーヌ・フロは、無邪気と無神経紙一重の女性を
いつも見事に演じる女優です。
『女はみんな生きている』(2001)や『地上5センチの恋心』(2006)では、
無邪気さがみんなを救う主婦。
本作では、無神経さが祟ってこんな目に遭うピアニスト。

少女メラニーの夢はピアニストになること。
先生からも太鼓判を押され、パリ国立音楽学校の入学試験に臨む。
ところが、メラニーの演奏中、
審査員を務める著名なピアニスト、アリアーヌが、
サインを求めて入室した者に応じたことから、
メラニーは心を乱され、散々な結果に終わる。

十数年後、弁護士事務所に実習生としてやって来たメラニー。
物静かで、そつなく仕事をこなす彼女は、上司の評判も良い。
所長が息子の子守を探していると知り、
メラニーはごく控えめに、その役を買って出る。
郊外の所長の豪邸に、休暇中住み込むことになるのだが……。

極端なほど状況説明が省かれているのですが、
登場人物の表情を見れば説明不要。
恐ろしいくらい読み取ることができます。

入学試験のシーンの後、唐突に十数年後のシーンに。
ここで、普通は「何年後」みたいなテロップが入りますが、
そんなものがなくても、すべてが明らかです。
あの後、メラニーがピアノをあきらめたことも、
何か狙いがあってこの弁護士事務所にやって来たことも。

所長の妻はあのアリアーヌで、
もちろんメラニーのことなんか、これっぽっちも覚えちゃいません。
交通事故に遭ってから情緒不安定だというアリアーヌに、
子守として近づいたメラニーは、
昔、ピアノを弾いていたことをそれとなく匂わせ、
アリアーヌが望む完璧なタイミングで譜めくりをしてみせます。
それによって、すぐさま勝ち得たアリアーヌの信頼。

笑みを浮かべながら淡々と進められていく、メラニーの復讐劇。
アリアーヌにしてみれば、なぜこうなってしまったのか、
まったく理由がわからないまま、何もかも失います。

どのシーンも冷え冷えとしていて、心理的にゾクゾク。
アリアーヌの態度も無神経だけれど、
「試験に落ちてもピアノを続けていいよ」という父親の言葉もどうだか。
不用意に子どもの心を傷つけないよう、肝に銘じましょう。

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