夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ゴーストライター』

2011年10月14日 | 映画(か行)
『ゴーストライター』(原題:The Ghost Writer)
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ユアン・マクレガー,ピアース・ブロスナン,キム・キャトラル,
   オリヴィア・ウィリアムズ,トム・ウィルキンソン他

前述の『ツレがうつになりまして。』から劇場を移動してハシゴ。

フランス/ドイツ/イギリスの作品です。
ロマン・ポランスキー監督は、名匠でありながら、
1977年の少女への淫行事件が尾を引き、以降アメリカへは入国せず。
『戦場のピアニスト』(2002)でアカデミー賞の監督賞を受賞したときすら。
淫行事件の8年前には、妊娠中だった奥様で女優のシャロン・テートを
カルト教団に惨殺されていますし、まさに波瀾万丈の人生。

そんな監督も御年78歳。もう相当なジジイなわけですが、
本作を観てやはり凄い監督だと思いました。
ミステリーとしてもサスペンスとしてもアラは目立つのに、
無駄な描写のない128分間で、かつ余韻はじゅうぶん。

ゴーストライターを生業とする男のもとへ、
英国の元首相アダム・ラングの自伝執筆の話が舞い込む。
ゴーストライターとしての前任者でもあるラングの補佐官は、
つい最近事故死を遂げており、嫌な予感がしつつも引き受けることに。

ラングが滞在する米国東海岸の孤島へと向かう“ゴースト”。
到着後すぐに本人と対面、インタビューを開始する。
ところが、ラングが首相在任中、テロリストへの拷問に加担していたとの疑惑が浮上。
孤島にマスコミや人権擁護派が押し寄せて大騒ぎに。

少し離れた宿に泊まっていたゴーストは、
騒ぎのせいでラング邸と宿の行き来が困難になり、
ラング邸の前任者が使用していた部屋にとどまる。
ラングは女性秘書を連れて島を脱出。
夫人とともに残ったゴーストは、執筆を進めるうち、
国家的な陰謀があることに気づくのだが……。

どんよりした空、吹きすさぶ風、荒涼たる海と、自然描写がお見事なのに加えて、
使用人など謎めいた人物たちの不可解で不気味な描写。
しかし、『スターウォーズ』のユアン・マクレガー、『007』ピアース・ブロスナン
『セックス・アンド・ザ・シティ』のキム・キャトラルといった俳優たちを
主立った役柄に起用して、不気味な雰囲気の中にもある派手さ。

ユアン・マクレガー演じる“ゴースト”が、
自転車で砂利道を走るさいによろけるシーンや、
ラング夫人の色仕掛けに「やめとけ」と鏡の中の自分に言い聞かせるシーンでは、
客の間からくすくす笑いが漏れていたのが楽しくて、
これもまた劇場で映画を観る醍醐味でした。
ちなみにゴーストはその後あっけなく誘いに応じます(笑)。

CIAが絡んでその抜け具合はないやろ!など、突っ込みどころはいろいろあれど、
「映画を観たぁ!」という満足感いっぱい。
おしゃれなラストと言っては顰蹙を買いそうなラストにも
名匠の遊び心を感じて、ニヤリと笑ってしまいました。

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『ツレがうつになりまして。』

2011年10月11日 | 映画(た行)
『ツレがうつになりまして。』
監督:佐々部清
出演:宮崎あおい,堺雅人,吹越満,津田寛治,犬塚弘,
   田山涼成,山本浩司,中野裕太,大杉漣,余貴美子他

この間、「アオイ」なら、宮崎あおいより蒼井優派だと書きましたが、
宮崎あおいちゃんが嫌いなわけではありません。
ただ、彼女のさびしげな笑顔を前面に打ち出した出演作よりも、
どこかたくましさを感じる作品のほうが好きなのです。

『NANA』(2005)や『好きだ、』(2005)のときは、
けなげな少女役がぴったりで、本当に可愛いなぁと思っていました。
『初恋』(2006)のときもその感想は変わりませんでしたが、
『ただ、君を愛してる』(2006)の辺りで見飽きてしまい、
『ソラニン』(2010)になると、もうお腹いっぱい。
『少年メリケンサック』(2008)の啖呵を切る彼女は大好きでしたけれど。

『オカンの嫁入り』(2010)では、大竹しのぶ演じる型破りな母親のことが
心配でたまらない娘役で、けなげながらもビシッとしていました。
先週末公開の本作は、それに近い感じですが、さらに上を行きます。
このあおいちゃんは好きだ~。

あおいちゃんの話が長くなってしまいましたが、あらすじを。

売れない漫画家のハルさん。
5年前に結婚した夫のことを「ツレ」と呼ぶ。

サラリーマンのツレは、とても几帳面な性格。
毎朝自分のお弁当を作り、そのお弁当には曜日毎に異なるチーズを入れる。
そして、曜日毎に着けるネクタイも決めている。
髪の毛には寝癖がついたままのことが多いが、ゴミ出しも怠らず、
ハルさんが漫画に専念できるのもツレがツレだから。

ところが、近頃ツレの様子がどうもおかしい。
ゴミ集積場のゴミを見ては何やら悲しそうにしているし、
食欲もないようで、お気に入りのチーズすら残す。
これではさすがのハルさんもちょっと心配。

病院へ行ってみると、典型的なうつ病の症状だとの診断。
それでも会社に迷惑がかかるからと休めないツレ。
ハルさんから「会社を辞めなければ離婚する」と言い放たれ、
ようやく退職を決意するのだが……。

予告編でも流れる、「ツレがうつになりまして、仕事をください!」。
こりゃ泣けます。
それ以上に泣かせてくれるのが、余貴美子演じるハルさんの母。
ラスト近くのツレが公園で電話するシーンは、
電話の相手である余貴美子の声しか聞こえていないのにボロ泣き。
私はこの人にはいまや「日本の母ちゃん」の印象を抱いていて、
その昔、甲斐バンドのアルバムジャケットのモデルを務めていたことを忘れそうです。
いや、いまも艶っぽさはある人ですけれど。

それと、地味なところでは出版社の編集者役、山本浩司が気になります。
別に見ていたい顔ではないのに(笑)、いつも不思議な味があって。

うつ病に対する理解を深められたか。
それはむずかしいけれど、知るきっかけにはなると思います。

割れずにここにいることが大事。

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喋る人、喋らない人。

2011年10月07日 | 映画(番外編:映画と読み物)
映画なら、女性が涙を流しているシーンよりも、
男性が涙をこらえているシーンのほうにグッと来ます。

それと同じなのか何なのか、もともと私は男なのか(笑)、
本に関しては女性作家よりも男性作家のほうが好みです。
そう思って読んでいるわけではないのに、
読み終わると「なんだかなぁ」の感想を抱いてしまうのは女性作家のほう。

今月に入ってから読んだのは、
沼田まほかる(♀)の『九月が永遠に続けば』と海堂尊(♂)の『ブラックペアン 1988』。

『九月が永遠に続けば』は、ホラーサスペンス大賞の受賞作。
高校生の息子・文彦とともに暮らすバツイチ、41歳の佐知子。
別れた夫の雄一郎は精神科医で、患者だった亜沙実と再婚。
その亜沙実の娘・冬子は、文彦と同じく高校生で、誰もが振り返るほどの美少女。
車の教習所に通い始めた佐知子は、若い教官に熱を上げる。
その教官の意中の人が冬子であると偶然知った佐知子は、ちょっと邪悪な思いもあり、
みずから教官に誘いをかけて関係を持つ。
ホテルからの帰り、文彦に見られたような気がしないでもない。

ある夜、ゴミを出しに行った文彦がそのまま失踪する。財布も携帯も持たずに。
翌朝、教官が電車のホームから転落死。
文彦が教官を押したのではないか。そんな考えも頭をよぎる。
近所に住む文彦のガールフレンドとその父親の助けを受け、
佐知子は文彦を探し始めるのだが……、という物語です。

500頁ほどの文庫本で、かなりグロい描写もあるのですが、
終盤近くまではぐいぐい引き込まれます。
亜沙実の忌まわしい過去が強烈だし、登場人物の信じがたい一面もあって、
どう決着をつけるのかが気になって仕方なく、一気に読みました。

が、最後の最後がこれかよ~とガクッ。う~ん。
全然関係のない人を犯人に持って来たとまでは言いませんが、
さんざん振り回しておいてそのオチはないなぁ。

それに対して『ブラックペアン 1988』。
東城大学医学部付属病院に赴任してきた講師が、食道癌手術の新兵器を導入。
これが嵐を巻き起こし……という、ごく簡単な説明で失礼。
『チーム・バチスタの栄光』で描かれていたバチスタ・スキャンダル。
そこから遡ること20年。本作の講師というのが、のちに院長となる高階で、
映画版では私の大好きな國村隼が演じていました。

“チーム・バチスタ”シリーズをすべて読んでいたこともあって、
楽しく読むことはできたのですが、途中の感想は、「まぁ普通」。

が、最後の最後にやられました。ガツンと。
その裏話は衝撃的で、「え、え、え~っ!」と泣きそうに。

あっちでもこっちでもで喋らずにはいられない女と、
誤解を受けていたとしても自己防衛のためだけには喋ろうとしない男。
最後の直前までは前者のほうが圧倒的に面白かったのに、
読み終われば後者に感動させられていたのでした。

ところで、“ソーシャルライブラリー”、ご存じですか。
http://www.sociallibrary.jp/
私はmixiのアプリとして知りました。
読んだ本や買った本を忘れてしまうことがたまにあるので、
メモ代わりに使用しています。
本棚を見るのが楽しくてオススメです。

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『スリーデイズ』

2011年10月04日 | 映画(さ行)
『スリーデイズ』(原題:The Next Three Days)
監督:ポール・ハギス
出演:ラッセル・クロウ,エリザベス・バンクス,ブライアン・デネヒー,
   レニー・ジェームズ,オリヴィア・ワイルド,タイ・シンプキンス他

『モテキ』や『セカンドバージン』と同じ日に公開され、
何を観ようか迷った私が選択したのは、前述の『僕セカ』とこれでした。
どちらも興行的には上の2作品に差をつけられているようで、ワロてしまいました。
これもオススメなんだけどなぁ。

お盆休みに観て興奮した(笑)、『この愛のために撃て』(2010)。
その監督による『すべて彼女のために』(2008)をハリウッド・リメイクしたのが本作で、
オリジナルの公開時のタイトルは“ラスト3デイズ”。
このリメイク版の原題が“The Next Three Days”であるのがおもしろい。

大学教授のジョンは、妻のララと息子のルーク、3人暮らし。
幸せで穏やかな毎日を送り、笑いの絶えない家庭。
上司と合わないらしいララは、クビになるかもしれないと笑顔でぼやく。

そこへ突然警察が押しかけてくる。
何事が起きたのかわからないまま、ララが逮捕されてしまう。
昨晩、ララの勤務先近くの駐車場で、上司が殺されたらしく、
駐車場から車を出すところを同僚に目撃されたララが犯人と断定されたのだ。

妻の無実を信じ、奔走するジョン。
しかし、圧倒的に不利な証拠ばかりが並び、裁判でララの有罪が確定する。

刑務所で自殺を図るララを見たジョンは、脱獄させることを決意。
綿密な計画を練り始めるのだが……。

『この愛のために撃て』は、拉致された妻を救うために命を懸ける夫の話でした。
本作も拉致されている理由と場所はちがえども、
妻を救いたい一心で必死のぱっちになる夫という点でほぼ同じ。

ジョンが教えを請う脱獄のスペシャリストとして、
リーアム・ニーソンがほんの少し顔を出しているのが嬉しい。
とにかく観察せよと言われて、注意深く見ていれば、隙はあるもの。
脱獄してから何分間で包囲網が敷かれるかという話が非常におもしろかったです。

この話のミソになっているのは(単にいいなぁと思ったことですが)、
ジョンがララのことを一瞬たりとも疑わないということではないかと。
ララのコートに付着した被害者の血液、凶器である消化器に付いた指紋。
これだけ決定的な証拠をつきつけられても、
ジョンがララのことを犯人ではないかと疑うシーンは皆無です。
そういう表情すらないものだから、観ている私もその疑念を抱きませんでした。
冒頭ではちょっぴり激情的なララの一面を見せられていたにも関わらず。
ララから「殺したのかどうか、なぜ一度も聞かないのか」と泣きながら言われて初めて、
「え、犯人の可能性があるの?」とビビりました。

これで「本当は犯人でした」で終わったら、ごっつ嫌な話です(笑)。
けれど、実際にどうだったか、はっきり明かされるわけではありません。
こうじゃないかな的な示唆があるのみ。そうだったらいいなぁ。

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