二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

影の王国(ポエムNO.76)

2012年08月08日 | 俳句・短歌・詩集


すでに伐採されてしまったはずの木々が
風になびいてざわめいている。
いまこの空の淵を満たしている不思議な明るさ
・・・暗さといっても ほとんど同じだけれど。
本という名の印刷物にとじこめられたこころを解き放ち
夜へと傾いたいちにちの斜面をすべり落ちてゆく。
水をたたえた田のそこかしこを
眼には見えないずぶ濡れのコウモリが 飛び回って。

世界の終わりがこんなに静かであっていいのだろうか?
ねえ だれかぼくに教えて。
そこの葉うらに止まったカミキリムシの名前を。



酒瓶をならべたように 夜の都会が輝いている。
つかのまの陶酔 
にぎやかなありふれた悪夢のイルミネーション。
飲み疲れた人たちが 一夜のこころを
空瓶の中に捨てて立ち去ってゆく。
消えてしまった人びとは二度と現われない。

世界の終わりがこんなに美しくていいのだろうか?
ねえ だれかぼくに教えて。
伐採された木々の行方を。



こころのへりのほうに深々とひろがる沼地のあたりで
眼の赤いゴイサギが啼き騒ぐ。
不安にかられたぼくが デジカメのシャッターを押す。
過去も未来も 希望や悔恨や侮蔑でギラギラと泡だっている。
その泡立ちはまもなくしずまるだろう。

世界の終わりがこんなにバカげていていいのだろうか?
ねえ だれかぼくに教えて。
何者かに手錠をかけられて戸惑っているそこのきみ。



もうひとりのぼくは影の王国に住んでいる。
・・・と書いてから ぼくはそやつの正体を知らないことに気づく。
銀河の涯のような遠い場所からはるばる旅してきた
しっぽのない黒い牛がぼくの横を宇宙船ように通りすぎる。
その牛の背にまたがって
ぼくもこの世から たったいま立ち去ってもいいのだけれど。

世界の終わりがこんなに淋しくていいのだろうか?
ねえ だれかぼくに教えて。
草をまくらに寝そべっていたのが山頭火その人だったのかどうかを。



※夕空に散らばる黒ごまのようなものは、よごれやゴミではなく、数羽の鳶の群れです。

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