
いまなすべきことがあるだろうか
とかんがえはじめると
なにもかもが霞んで
どんどん遠ざかって。
ああ手がとどくもの
なんてなにもないじゃないか。
なにもない。
ぼんやりしているのが心地いいよ。
年をとって 日がな一日
ぼんやりするにも飽きてしまい
今日はなつかしいブラームスとつれだって
アンモナイトの太古の闇をぐるっく ぐるっく散歩した。
ぐるっく ぐるっく
すぐに行き止まりになるから
ぐるっく ぐるっく戻ってくる。
行きつ戻りつしながら
ブラームスもきみも
内心はとても上機嫌。
「よし コーヒーを一杯飲んで帰ろう」
ふーん。
帰るべきところなんてありゃしないのに。
「年をとるってこういうことだったんだね」
「ようやくわかったかね?」
ブラームスは半信半疑できき返す。
アンモナイトの渦巻きを行きつ戻りつしているうちに
冬から春へ 春から夏へと
季節は移って
結局一杯のコーヒーを飲みほすのに
何ヶ月かかったのだろう。
ぐるっく ぐるっく
アンモナイトの内側で季節がまわり
ブラームスの音楽がぐるっく ぐるっくまわる。