塩の湖なんて見えはしないのだけれど
突然部屋の外からキジバトの声が聞こえてきて
向きあったパソコンのディスプレーから気がそれる。
数分でその声は聞こえなくなってしまう。
いつものように。
ぼくがキジバトならウイグルまででかけていって
碧(みどり)の眼をした少女に恋ができるのに。
人が人であるとは きっと因果な運命を甘受しなけりゃなんない
・・・ということだね。
「もうこれ以上は前にすすめない」
そうおもえたら高野山へいくのがいいだろう。
空海の衣にふれながら
千年の時空をひとっ飛びに越えていくんだ。
いま きみの悩みは何色をしている?
ネジを巻かれて 巻かれて
油ぎれで
頭の中のバネはぎしぎし音をあげている。
これじゃ キジバトにすらなれやしない。
眼をとじると石段を登る僧侶たちの跫音がまぶたに反響する。
涙のようなものがにじんで
・・・眼にするものすべてが滲んで。
塩の湖なんて見えはしないのだけれど
ことばの地形図のなかで塩の湖はあふれそうになってる。
深海のultramarineを満々とたたえる天空のラピスラズリな気分になって
ぼくはいま ここには存在しない出口をさがして
あの世へと吹いていく風にこころをのせてまき散らす。
そのひとひらを
もうすぐ きみのディスプレーが映し出す。
ほら 見ててごらん
眼をつぶって。