二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

時間のしっぽ(ポエムNO.52)

2011年09月07日 | 俳句・短歌・詩集


ことしも南方から台風がやってきて多くの災害をもたらした。
柿の木の下にツクツクホウシの死骸がころがっていてね
それは太古からくり返されるこの地方の紙芝居の背景なのさ。
自然現象という地球規模の循環サイクルが
この島に住みついた人びとを数千年間悩ましている。
終わったはずの夏のかけらども。
風景からその傷が癒えるために
どれほどの歳月が必要なんだろう?

明治三十九年九月十九日。
病苦とたたかいつつ 「仰臥漫録」を残しひとりの男が死んだ。
鶏頭の花を見ていると
ついにだれの耳にも到達することのない叫びが
天にむかって身をよじっているのがわかる。
やろうとしていたことと
じっさいにやったことのあいだに存在する
めくるめくほどの落差!
履き古した靴が一足 二足
その懸崖から闇の底へと落下していく。

三丁目の角の木陰でぼろぼろの記憶の帆にもたれて
歯のない禿頭の老人がうたた寝している。
そのそばに妖艶な幽霊のようなものがやってきて
ため息をついては立ち去っていく。
死んだのかとおもっているとどっこい生きていて
ぼくが一時間後にもどってみると彼の姿はどこにもない。
写真を撮っておけばよかったなあ やっぱり。
そうしたら時間のしっぽくらいはつかまえられたろう。

やろうとしていたことと
じっさいにやったことのあいだに存在する
めくるめくほどの落差!
履き古した靴が一足 二足
その懸崖から闇の底へと落下していく。
“揚羽の蝶来る 倉皇として去る”
ほら ほらね。
こうして時間はつかまるだろう。
ことばの連繋の中に永遠がかすかに
かすかににじんでいて。



※カッコ内は正岡子規「仰臥漫録」からの引用。

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