(浅草寺近くの居酒屋にて)
カメラを手にしながら
はじめてやってきた 地元の寺院。
ベンチにすわり
少年時代のおぼろげな記憶のほうへ屈むと
どんぐり のイメージの中に歯のないおじいさん
背をまるめた弱々しそうなおばあさんが
話し込んでいるのが見えた。
カメラを手にしながら
河川敷を歩いていると
東の空に 色の少し足りない虹がかかっていた。
散歩にはフィルムカメラがのぞましいけれど
そればかりに頼っていると
お財布がパンクする。
そういう時代。
「ぼくは十五歳年下の彼女に
コロっていう犬みたいな渾名をつけたんだ。
だって・・・
ワンと鳴いてごらん
といったらワンと鳴いたから」
友人はブラックコーヒーをすすりながら
にやりともせずにしゃべる。
しゃべる。
男のくせに
ほんとうによくしゃべるから
ぼくは耳の穴をふさいでいる。
彼にはわからない方法で。
しばらくたって 彼がぼくを見つめている
・・・ことに気がついた。
凍りついたような表情で。
カメラを手にしながら
旧い町並みがいくらか残った界隈をさまよっていると
ぼくの後頭部を軽くなでて通りすぎたものがあった。
Yさんの思い出。
売れないミュージシャンだった知り合いだけど
四年前か 五年前に死んだ。
葬式にはいかなかったな なにか
なにかのっぴきならない用事があってね。
出かけるときは
たいていカメラを手にしている。
ぼくのクセ・・・悪癖といってもいいけど
それだといいすぎ。
Yさんのステージ写真をずいぶん撮った。
むろん フィルムの時代。
そういう時代がまもなく終わろうとしている。
自分の右手のさきが
途方もなく遠くに見える。
「ああ いまこの瞬間シャッターを押さなくては!」
ぼくは昨夜 夢の中でもがいた。
カメラのこちら側と向こう側。
遠くの人差し指がなにごとかそっと囁く。
カメラを手にしながら
はじめてやってきた 地元の寺院。
ベンチにすわり
少年時代のおぼろげな記憶のほうへ屈むと
どんぐり のイメージの中に歯のないおじいさん
背をまるめた弱々しそうなおばあさんが
話し込んでいるのが見えた。
カメラを手にしながら
河川敷を歩いていると
東の空に 色の少し足りない虹がかかっていた。
散歩にはフィルムカメラがのぞましいけれど
そればかりに頼っていると
お財布がパンクする。
そういう時代。
「ぼくは十五歳年下の彼女に
コロっていう犬みたいな渾名をつけたんだ。
だって・・・
ワンと鳴いてごらん
といったらワンと鳴いたから」
友人はブラックコーヒーをすすりながら
にやりともせずにしゃべる。
しゃべる。
男のくせに
ほんとうによくしゃべるから
ぼくは耳の穴をふさいでいる。
彼にはわからない方法で。
しばらくたって 彼がぼくを見つめている
・・・ことに気がついた。
凍りついたような表情で。
カメラを手にしながら
旧い町並みがいくらか残った界隈をさまよっていると
ぼくの後頭部を軽くなでて通りすぎたものがあった。
Yさんの思い出。
売れないミュージシャンだった知り合いだけど
四年前か 五年前に死んだ。
葬式にはいかなかったな なにか
なにかのっぴきならない用事があってね。
出かけるときは
たいていカメラを手にしている。
ぼくのクセ・・・悪癖といってもいいけど
それだといいすぎ。
Yさんのステージ写真をずいぶん撮った。
むろん フィルムの時代。
そういう時代がまもなく終わろうとしている。
自分の右手のさきが
途方もなく遠くに見える。
「ああ いまこの瞬間シャッターを押さなくては!」
ぼくは昨夜 夢の中でもがいた。
カメラのこちら側と向こう側。
遠くの人差し指がなにごとかそっと囁く。