二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

早春のエレジー(ポエムNO.2-51)

2015年03月08日 | 俳句・短歌・詩集
例年になく寒かった冬が終わりかけ
陽が勢いを取り戻しつつあるシーズン。
そろそろカワヅザクラも咲きはじめるだろう。
メジロやシジュウカラが蜜をもとめていっぱい集まってくる。
銀色のキツネがさっと雲のへりを走り抜けていったな。
ぼくも巣穴(それが巣穴だったとして)から顔をもたげ

キョロキョロとあちこちを見回す。
おしゃべりだけど気の小さいスズメ。
節くれだらけの手をした農夫。
浚渫船がきみの胸を横切っていくね。
さらいきれないものが ザラメのように残ってしまって
きみの夢に 女からの甘いささやきを蘇らせる。

ああ この冬はなにを なにをしていたんだろう。
いいお天気の日には探鳥に明けくれ
塩漬けとなっていた過去から
ぷんぷんと臭う記憶を掘り起し。
ぼくではないがよく似た男が 利根川の対岸でなにか叫んでいる
・・・が その声はだれにも届かず。

なんだか狭苦しい世界のようで
底の底は 推し量ることができない昏い夜更けへと通じている。
キョロキョロとあちこちを見回す。
おばかなふりをしているネコヤナギ。
虚空から無数の宝石輝石を降らすヒバリ。
まだ静まり返っている 満州の広大な麦畑。

春の浚渫船がぼくの胸をさらっていく。
そうさ 胸の深度がいっそう深さをまして
六十をすぎたぼくの肩にのしかかる。
よろけそうになっている。
息切れしながら 遠い日の坂道を登っている。
父が北支のあたりでなくした黄ばんだ手拭いで おでこの汗をふく。

“ぼく”という一語がうさぎのように駆け出していくね。
あれはだれが放った胡弓の矢なんだろう
とても追いすがるなんてできやしない。
風にゆれるホトケノザ ピンクのカーペット!
いまここにいる“ぼく”が立ち上がって泥を払い落とし
この春の水蒸気の簾の向こうへ歩き出す。

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