二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

感染症とどう向き合うか!?

2020年08月01日 | 座談会・対談集・マンガその他
■「ウィルスVS人類」(文春新書 2020年6月20日刊)を読む


つぶやきで取り上げたように2本の座談会を収めた新書を読み、“新型コロナウィルス”について、少しお勉強させていただいた。
母屋にはTVがあるが、わたし自身はTVを卒業してしまったので、新型コロナウィルスについても、最小限の断片的な知識しかなかった。

今日は何人が感染した、今日は何人が・・・と、こうるさいほど報道されている。
しかし、重症化率が低く、本人が気がつかないため、水面下ではいったいどのくらいの人たちが感染しているのか判らないのである。
それがこのウィルスの厄介なところ。撲滅するどころか、これ以上拡散しないよう封じ込めるだけでも困難。
政府の緊急事態宣言をうけて外出禁止要請、休業要請が出された。
経済的な打撃、景気の後退も、かつてない規模になりつつある。
いまのところ、明確な治療薬もないし、ワクチン開発も未知数。
われわれは、これまでの常識が通用しない“新局面”に直面している、日本だけでなく、全世界的に。

これまでわたしは「これほどの事態」という認識がなかった(>_<)
半年か、遅くとも年内には終息する、あるいは終息はしないとしても、局所的なものになるだろうと、漫然と予想していた。ところが、そうではない。そのうえ経済的な打撃は、とどまるところを知らない状況がすすんでいる。
そのため、信頼できる専門家から、わかりやすいことばで、最新知識を語ってもらいたかった。
事態は時々刻々と変化し、重大局面がつづいている。
本書の内容は2020年6月20日現在の進展状況に基づく。

書評ではない、学習したいだけ。

座談会に出席したメンバーのリストを念のため掲げてみよう。
第1部「未知の敵と闘うために」
◆瀬名秀明(せな・ひであき)
小説家、東北大薬学部出身。
最先端の科学的知識をバックグラウンドとした多くの小説を著す。
◆押谷 仁(おしたに・ひとし)
東北大学大学院微生物分野教授。
2002年にはSARSへの対応を手がけ、2020年2月、厚生労働省の新型コロナウィルス・クラスター対策班。政府の専門会議メンバー。医学博士。
◆五箇公一(ごか・こういち)
ヒアリの研究等で知られる生態学者。
現在、国立環境研究所生物・生態系環境研究センター室長。農学博士。
著書「終わりなき侵略者との闘い 増え続ける外来生物」など。

第2部「ワクチンと治療薬」
◆岡部信彦(おかべ・のぶひこ)
川崎市健康安全研究所所長。
政府の新型インフルエンザ等対策有識者会議会長代理、新型コロナウィルス専門会議メンバー。医学博士。
◆河岡義裕(かわおか・よしひろ)
東大医科学研究所感染・免疫部門ウィルス感染分野教授。同感染症国際研究センター長。
インフルエンザ、エボラウィルスの研究者。
獣医学博士。
◆大曲貴夫(おおまがり・たかお)
国立国際医療研究センター国際感染症センター長。
感染症一般の臨床、病院内外の感染防止対策、感染症に関する危機管理を専門としている。
医学博士。

第3部「パンデミックと総合知」(エッセイ) 瀬名秀明

このほか、NHK解説委員 中村幸司さんが司会者として加わっている。

本書を読んで知り得た知識のうち、おもだったものを箇条書きしてみる。

1.もっとも多いのが、無症候の人びと。周囲の人も、本人も罹患しているのがわからない。

2.巨視的にみるならば、生態系というのは常に生物同士の足の引っ張り合いで、すべての生物が利己的にみずからの遺伝子を増やす戦略を取っている。人間は人間で増えようとし、ウィルスもウィルスで増えようとしている。今はその競争の中でウィルスが優勢だといえるかもしれません。(五箇)

3.人類の命を最も奪ってきたもの。それは戦争でも自然災害でもなく、ウィルスや細菌の感染爆発=パンデミックだ。
14世紀、ヨーロッパで大流行したペストは1億人を死に至らしめた。当時の世界の人口は4億5千万人とも推計され、人口の2割以上が命を落としたことになる。(中村)

4.今回のコロナウィルスは、去年(2019年)の11月ぐらいに動物からヒトに入ったんだと思うのですが、おそらくヒトへの導入はこの1回だけだと思われます。あとはずっとヒト-ヒトへの感染しか起きていない。ヒトからヒトに容易に感染する、特に軽症者から容易に感染するという意味では、SARSともまったく違うウィルスだ。(押谷)

5.そこで重要なのは、今日の真実が明日も正しいとは限らないということです。事態の変化、新たな情報にきちんと向き合って、常に最適を目指す努力が必要不可欠。(押谷)

6.今回の自粛ムードで、気分がふさがるとか不安であるとか、あるいは同調圧力が強すぎる、この空気は全体主義ではないのか、という声もあるかと思いますが、僕自身は、まさにいまこそ想像力の働かせどころではないかと思うのです。(瀬名)

7.新型コロナウィルスは感染経路が見えないので、エボラやSARSのような封じ込めは絶対にできないウィルスなんです。
しかし、社会活動をある程度制限して、クラスターをつくらないようにすることで、確実に感染拡大のスピードを落とすことはできます。(押谷)

8.今、日本でもフードロスが環境問題の一つになっているように、無駄に資源を消費し、ゴミとして排出してしまっている。それが繰り返されて、自然への負荷が必然的に増大していきます。その中から、新型ウィルスや、環境汚染といった問題が、人間社会にリスクとして降ってくる。
その悪循環を断つためには、自然共生という、自然の摂理に準じた生き方は何かを今から探っていかないと、人間社会は持続性を保てなくなって、崩壊しか道筋がなくなってしまう。(五箇)

9.この新型コロナウィルスに対しては、まだワクチンがあるわけでもなく、治療薬もないので、一からの探索ということになります。(河岡)

10.<ワクチンが功を奏し、ほぼ撲滅した>天然痘ウィルスはDNAのウィルスですね。それに対して、今回の新型コロナウィルスはRNAウィルスです。<したがって遺伝子レベルの変異が起こりやすく、毎年インフルエンザのように流行する可能性がある>。(瀬名)

11.今回のウィルスの場合「根絶」はワクチン開発の目標にはならない。もし罹っても、多くの人を軽症化に向かわせるくらいのレベルのワクチンでも良しとしていくべき。(岡部)

12.不顕性感染者(症状の出ない感染者)がいるということ、上気道感染であるということを考えると私もこの新型コロナウィルスの根絶は難しいと思っている。(河岡)

13.一つだけ確実なのは、今回の新型コロナウィルスは、我々人類が経験する最後のコロナウィルスではないということです。(河岡)

14.私自身の実感でいっても、あの感染症の患者さんを実際に診ていて、やはり恐ろしい病気だと実感しています。わたし自身、かかりたくないと心から思います。(大曲)

15.現在いわゆるソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)が必要で、なかなか人にも会えない厳しい状況ではあります。しかし、感染しないようにできるだけ距離を維持するという、一見、古典的にみえる手法が、ウィルス対策に効果があることがわかってきたのも、今回の流行を通じてのこと。(大曲)


ほかにもいくつかの論点が検討されているが、大枠としてはこんなところ。
付け加えておくと、わたしはこの感染症は、大都市病だとかんがえていた。そのかんがえは、いまもそれほど変わっていない。
日本でいえば、大きな脅威があるのは東京・横浜、大阪・神戸、名古屋など、巨大都市に限る。過疎地とまではいかないが、ヒト-ヒトの距離が大きくならざるをえない地方では、感染はすぐに終息に向かう。
その意味ではこの新型コロナウィルスは、現代文明と、人間社会のひずみを衝いているのだ。
デフォーの「ペスト」では、金持ち階級は都市から避難する。被害は簡単に避難することができない中・下層民に集中する。
ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)は、ライフスタイルの変更を迫るものであろう。過密都市がもつ恐るべき陥穽。

だれもが関心をもっているのは、ワクチンや治療薬は、いつごろ完成し、世界的に流通するようになるのか!? ということだろう。
本書を読むかぎり、年内(2020年)はまず無理。はやくて2021年後半に、あるいは2022年になるのではないかと予測されている。
今後の推移次第で、経済的なダメージがどれほどとなるのか見当がつかない。
数年後には新型コロナウィルスのRNA遺伝子が組み変わって、新・新型コロナウィルスが発生する可能性すらある。

いまさらのように分散型社会の安全性に目が向けられてきた。
わたしの“田舎”は、この分散型社会である。大都市の利便性の裏に潜むリスクを見限って、地方都市の退屈だが安全に暮らせるメリットに目を向ける。
とはいえ、大多数は都市から離れることなど、考えてはいないだろう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 萩原朔太郎complex (その5/... | トップ | あやしい暮し(ポエムNO.3-99) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

座談会・対談集・マンガその他」カテゴリの最新記事