二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「資本主義の終焉、その先の世界」水野和夫/榊原英資著(詩想社新書)レビュー

2016年08月16日 | エッセイ(国内)
「本屋の散歩」は、わたしにとっては欠かすことの出来ない“散歩”である。いったいどんな本がわたしを待っているのか?
それはカメラ片手に、街の中を、被写体を探して歩く行為と、共通の基盤を持っている。わたしはつねに何かを「探して」いる。生きることの半分は、何かを探す行為なのである、といっても、さほどいい過ぎにはならない。

さて本書。
新書「新刊コーナー」で手にとって立ち読み。
わたしは新聞の経済欄にはほとんど関心を持たない、経済人というには、ほど遠い人間だけれど、水野和夫、榊原英資のお二人が、国際的に(ということは英語圏でもということだが)通用するすぐれたこのジャンルの論客であることは知っていた。
まずは本書のタイトル、つぎに目次に眼を通して、クラッとなった。

水野和夫
■ 第1部 資本主義がいま、終わろうとしている
第1章 近代の秋……近代という幻影
第2章 すべては1971年から始まった
第3章 21世紀の新中世主義…「資本主義」後の世界はどうなるか
榊原英資
■第2部 パラダイム・シフトを迎えた世界経済、日本経済を読む
 第1章 先進国が突入した低成長、格差拡大の時代
 第2章 フロンティアの消失で曲り角を迎えた近代資本主義
 第3章 「成熟」先進国・日本がもつ大きな可能性
対談:榊原英資×水野和夫
■第3部 資本主義はどこに向かうのか
 第1章 日本、アメリカ、中国、欧州…世界経済は今後どうなる
 第2章 時代遅れとなった「成長戦略」

mixiには本書のレビューはゼロだが、Amazonには16個のレビューがUPされている。
読みながら興奮にかられ、つぶやきでも書いたように、ほぼ一気読み。塩野七生「フリードリッヒ二世の生涯」「ギリシャ人の物語Ⅰ」と、沢木耕太郎「キャパの十字架」「キャパへの追走」以来の出来事となった。

本書の内容紹介をあげておく。
《「わたしたちはいま、歴史的な大転換を目撃している!!」
ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』著者・水野和夫と、「ミスター円」こと榊原英資。
ともに近代資本主義がいま、最終局面に入っていると見る二人が、
資本主義の先にはどのような世界が待っているのかを解き明かす。
「より速く、より遠くに、より合理的に」といった近代の行動原理では
立ちいかなくなった私たちの社会。
グローバリゼーションの進展でフロンティアは消失し、先進各国は低成長時代に入った。
もはや資本を投資しても利益を生まない超低金利が長期にわたって続く「利子率革命」が
先進国の大半で進行し、各国の中間層は破壊され、国民国家は「資本国家」へと変貌するに至っている。
はたして終局を迎えた資本主義の先には、どのような世界が待っているのか。
ポストモダンの新潮流を読み解く。》

本書の要旨は、この紹介の通り。
わたし自身が、仕事や日々の生活の中で漠然と感じていたことを、多くのデータや図版を掲げて、じつに見事に腑分けしてみせている。
日本ばかりではない。フロンティアを喪失した国際社会には、経済成長はない・・・ではどうしたらいいのか?
その処方箋をさぐろうとする試みというわけだが、それに対する説得力は十分ある。

不満がまったくないわけではないから、二点だけあげておこう。
まず水野さん。引用が多すぎ、視点がややぐらついている。歴史的発想の中心部分は、欧米における過去の評論に負っているのが結果として見えすぎる。まあ、正直といえばいえるが・・・。
明治以降これまで、わが国の批評家の多くは、出典を明らかにせず、敷き写しただけなのに、自分の考えのようにして、それで商売をしてきた悪弊があるからだ。
つぎに榊原さん。あまりに現状肯定的で、「このままでいいのか? なにもかも」と茶化したくなる。
そういった論議については本書の守備範囲ではないのだろう。
とはいえ、金融、経済、国際関係論にうといわたしのような人間にとっては、たいへん有益な価値ある一冊であることは疑いようがない。
「うん、それで? うん、それから!?」と、もどかしい思いをいだきながらつぎのページを繰った。
水野さんには、「資本主義の終焉と歴史の危機」というベストセラーがある。そちらを早めにチェックしておこう。



評価:☆☆☆☆★(4.5・・・5点満点)

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