■天児慧「中華人民共和国史 新版」岩波新書(2013年刊)
毛沢東と鄧(とう)小平という指導者が、本書の主役である。読みはじめる前から見当がついたことではあるが・・・。
(1)天児慧「巨龍の胎動 (毛沢東VS鄧小平)」(講談社中国の歴史)
(2)「『中国共産党』論 習近平の野望と民主化のシナリオ」 (NHK出版新書)
(1) はもっているし、(2)も購入予定ではある。この人は、歴史家というより、俗にい
うアナリストanalysts(社会情勢分析家)であると、わたしはかねてかんがえていた。
analysts=企業や産業界の動向を調査・分析して、投資家に役立つ情報を提供する専門家。証券分析家。
そういう存在は、外務省など政府、あるいは海外へ進出しようとする企業にとって、さらに投資家等にとって、大事な役割を担っている。
現代はあらゆる角度から、リスクマネジメント、リスクアセスメントが必須とされるグローバル化の時代。そこでチャイナリスクをどう予想し、戦術・戦略を組み立て、損失を回避するため、あるいは最小限に食い止めるため、日夜情報分析に余念がない・・・というわけだ(´・ω・)?
近未来予測は、個人レベルでも普通におこなわれるが、国家レベルとなると、より大規模に、包括的に、専門家が活躍する分野となるのだ。
1947年生まれの天児慧(あまこさとし)さんのご専門は、中国政治、現代中国論、現代アジア論、東アジア国際関係論となる。いわゆる“歴史家”とは一線を画している。
さて、まずBOOKデータベースを転写しておこう。
《21世紀に入り、世界の眼は俄然、中国に向けられるようになった。飛翔を始めた巨大な龍。この国は、どんな歩みを重ねてきたのか。建国以来、今日に至る数多くの事件・事実をたどり、他に類を見ない、そのダイナミックな歴史の流れを描く。定評ある通史をアップデートした新版。》
わたし的にこれまで中国史をたどってきた。そしていよいよ、現代史に足を踏み入れる。
現代史を数冊読んでから、ふたたび過去に戻る。そのくり返しとなるだろう。
現代史は、一番歴史らしくない歴史である。だから歴史家は現代史はあつかいたがらないし、“専門が違うだろう”とかんがえる人の方が多いはず。
こういう本をどう評価すべきなのか、非常にむずかしいので、わたし的には、フィクションではない歴史読み物としてかんがえた(ノω`*)
つまりは、シリアスなノンフィクション。
だとしても、知らないこと、はじめて聞くことばかり多く、わたしの評価はアテにならないことをお断りしておく。
ノンフィクションとして、おもしろかったかどうか、説得力があったかについて語るしかないということである。
“現代史”のため、歴史記述ではなく、論評というべき表現がしばし目立つが、タイトルにあるように、全体としては通史の体裁をとっている。
毛沢東の大躍進政策の誤りや、文化大革命がひき起こした惨状と荒廃には、容赦ない批判が加えてある。
かつて日本にすら毛沢東思想追随者が大勢いた。1970年代前半あたりまで、左翼知識人の半分・・・とはいわないが、1/3は毛沢東支持者で、「矛盾論」「実践論」「毛沢東語録」は、わたしの周辺でさえ、熱心に読んでいる知り合いが数人いた。
毛沢東が亡くなったのは1976年のこと。そのあと、華国鋒が中国共産党のトップとなるが、毛沢東の個人崇拝はなおしばらくつづき、鄧小平時代が開始されてから、その虚妄が暴かれたという流れをたどった。
鄧小平は思想家タイプではなく、周恩来系統の実務家。
しかし、彼の断固としたリーダーシップと、改革開放政策が予想以上の成功をおさめ、中国は経済繁栄を遂げていく。1990年代、わたしは観光旅行で香港を訪れ、そのとき、経済特区深圳(しんせん)にも足を踏み入れたので、あのものすごい経済成長に向かう湾岸都市の巷の熱気をよく覚えている。
本書でも鄧小平の政策は高く評価されている。とくに近隣諸国とのパワーゲーム、国際関係論の論評は充実し、天児さん多年の研究成果が生かされている。
先冨論によって、格差社会を容認したのは、政治家としての決断力であり、リアリズム。
一方、改革開放の旗を掲げた鄧小平によって、民主化を求める学生たちの蜂起(第二次天安門事件1989年)が、なぜ情け容赦なく封殺されなければならなかったか!? その真相を政治的・経済的な広い視野の下に究明していくあたり、ぞくぞくするようなスリルがある。
もちろん、これらはわたしにとっては“同時代史”である。
つぎの江沢民・朱鎔基が主導権を握った時代の中国経済政策の分析も、じつに周到な考察がなされている。まさにanalysts=社会情勢分析家の腕の見せ所というべきである。
天児慧さんはたくさんの本を刊行しているが、わたしにとってはこの「中華人民共和国史 新版」が最初の一冊。どれからどう読むべきなのか、愛読者がいらしたら、ぜひ教えを乞いたいところ。
旧版は1999年に刊行、この新版は2013年のアップデート版である。習近平・李克強体制の初期まで言及されている。
内容は極めて緻密で濃縮されたもの、2千文字程度ではとてもフォローしきれるものではない。
そのかわり、中国現代史入門にはうってつけだろう。
東西ヨーロッパを上回る国土と、14億もの人民を擁する経済大国、中華人民共和国。こういう国家のすぐ隣に日本人は住んでいる。いや、建国以来住んできたのだ。
そのことを肝に銘じながら、これからさきも、中国史クルーズをしばらく継続しよう♪
評価:☆☆☆☆
毛沢東と鄧(とう)小平という指導者が、本書の主役である。読みはじめる前から見当がついたことではあるが・・・。
(1)天児慧「巨龍の胎動 (毛沢東VS鄧小平)」(講談社中国の歴史)
(2)「『中国共産党』論 習近平の野望と民主化のシナリオ」 (NHK出版新書)
(1) はもっているし、(2)も購入予定ではある。この人は、歴史家というより、俗にい
うアナリストanalysts(社会情勢分析家)であると、わたしはかねてかんがえていた。
analysts=企業や産業界の動向を調査・分析して、投資家に役立つ情報を提供する専門家。証券分析家。
そういう存在は、外務省など政府、あるいは海外へ進出しようとする企業にとって、さらに投資家等にとって、大事な役割を担っている。
現代はあらゆる角度から、リスクマネジメント、リスクアセスメントが必須とされるグローバル化の時代。そこでチャイナリスクをどう予想し、戦術・戦略を組み立て、損失を回避するため、あるいは最小限に食い止めるため、日夜情報分析に余念がない・・・というわけだ(´・ω・)?
近未来予測は、個人レベルでも普通におこなわれるが、国家レベルとなると、より大規模に、包括的に、専門家が活躍する分野となるのだ。
1947年生まれの天児慧(あまこさとし)さんのご専門は、中国政治、現代中国論、現代アジア論、東アジア国際関係論となる。いわゆる“歴史家”とは一線を画している。
さて、まずBOOKデータベースを転写しておこう。
《21世紀に入り、世界の眼は俄然、中国に向けられるようになった。飛翔を始めた巨大な龍。この国は、どんな歩みを重ねてきたのか。建国以来、今日に至る数多くの事件・事実をたどり、他に類を見ない、そのダイナミックな歴史の流れを描く。定評ある通史をアップデートした新版。》
わたし的にこれまで中国史をたどってきた。そしていよいよ、現代史に足を踏み入れる。
現代史を数冊読んでから、ふたたび過去に戻る。そのくり返しとなるだろう。
現代史は、一番歴史らしくない歴史である。だから歴史家は現代史はあつかいたがらないし、“専門が違うだろう”とかんがえる人の方が多いはず。
こういう本をどう評価すべきなのか、非常にむずかしいので、わたし的には、フィクションではない歴史読み物としてかんがえた(ノω`*)
つまりは、シリアスなノンフィクション。
だとしても、知らないこと、はじめて聞くことばかり多く、わたしの評価はアテにならないことをお断りしておく。
ノンフィクションとして、おもしろかったかどうか、説得力があったかについて語るしかないということである。
“現代史”のため、歴史記述ではなく、論評というべき表現がしばし目立つが、タイトルにあるように、全体としては通史の体裁をとっている。
毛沢東の大躍進政策の誤りや、文化大革命がひき起こした惨状と荒廃には、容赦ない批判が加えてある。
かつて日本にすら毛沢東思想追随者が大勢いた。1970年代前半あたりまで、左翼知識人の半分・・・とはいわないが、1/3は毛沢東支持者で、「矛盾論」「実践論」「毛沢東語録」は、わたしの周辺でさえ、熱心に読んでいる知り合いが数人いた。
毛沢東が亡くなったのは1976年のこと。そのあと、華国鋒が中国共産党のトップとなるが、毛沢東の個人崇拝はなおしばらくつづき、鄧小平時代が開始されてから、その虚妄が暴かれたという流れをたどった。
鄧小平は思想家タイプではなく、周恩来系統の実務家。
しかし、彼の断固としたリーダーシップと、改革開放政策が予想以上の成功をおさめ、中国は経済繁栄を遂げていく。1990年代、わたしは観光旅行で香港を訪れ、そのとき、経済特区深圳(しんせん)にも足を踏み入れたので、あのものすごい経済成長に向かう湾岸都市の巷の熱気をよく覚えている。
本書でも鄧小平の政策は高く評価されている。とくに近隣諸国とのパワーゲーム、国際関係論の論評は充実し、天児さん多年の研究成果が生かされている。
先冨論によって、格差社会を容認したのは、政治家としての決断力であり、リアリズム。
一方、改革開放の旗を掲げた鄧小平によって、民主化を求める学生たちの蜂起(第二次天安門事件1989年)が、なぜ情け容赦なく封殺されなければならなかったか!? その真相を政治的・経済的な広い視野の下に究明していくあたり、ぞくぞくするようなスリルがある。
もちろん、これらはわたしにとっては“同時代史”である。
つぎの江沢民・朱鎔基が主導権を握った時代の中国経済政策の分析も、じつに周到な考察がなされている。まさにanalysts=社会情勢分析家の腕の見せ所というべきである。
天児慧さんはたくさんの本を刊行しているが、わたしにとってはこの「中華人民共和国史 新版」が最初の一冊。どれからどう読むべきなのか、愛読者がいらしたら、ぜひ教えを乞いたいところ。
旧版は1999年に刊行、この新版は2013年のアップデート版である。習近平・李克強体制の初期まで言及されている。
内容は極めて緻密で濃縮されたもの、2千文字程度ではとてもフォローしきれるものではない。
そのかわり、中国現代史入門にはうってつけだろう。
東西ヨーロッパを上回る国土と、14億もの人民を擁する経済大国、中華人民共和国。こういう国家のすぐ隣に日本人は住んでいる。いや、建国以来住んできたのだ。
そのことを肝に銘じながら、これからさきも、中国史クルーズをしばらく継続しよう♪
評価:☆☆☆☆