二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

石川禎浩「革命とナショナリズム 1925-1945」シリーズ中国近現代史③ 岩波新書(2010年刊)の衝撃

2021年01月25日 | 歴史・民俗・人類学
《協力と対立を繰り返しながら、日本の侵略に立ち向かい、中国を大きく変えていった国民党と共産党。このふたつの政党を主人公として、ソ連との関係や運動の実際などにも目を配りながら、革命とナショナリズムに彩られたイデオロギーの時代を描き出す。孫文の死から抗日戦争の終結までの激動の20年。》(BOOKデータベースより)


あとがきをふくめ、240ページの小冊子である。だが、読むのにそれ以上の時間を費やした。読み終えたあとも、ベッドに潜り込んで、数時間考え事(´・ω・)?
「衝撃の事実」をつぎつぎ聞かされて、茫然自失の体であったのだ。
日本人が書いた、日本の昭和史は、半藤一利さんはじめ、ある程度理解したつもりでいた。
しかし、京大の石川禎浩(いしかわよしひろ)教授のこの著作で、これまでの常識が通用しない“新事実”を検証させていただいた。

日本の中国の侵略が、これほどのものであったとは!?
中国人の反日が、いかに根が深いものであるか、そしてそれには理由があることが、かなり克明に描かれている。
じつに多数の中国人が登場する。まずは蒋介石。この人物を輪郭鮮明に浮き彫りにすることで、1925-1945(大正14-昭和20)年、中国と中国人がこうむることとなった“国難”がクローズアップされてくる。
中国と日本との関係、中国と欧米との関係、中国とロシアとの関係。利害が複雑に絡みあい、それぞれの国が、自国の国益をはかるため、近代化に後れをとった中国を侵略しようと狙っていた。そして、侵略したのだ。

その中国は、一枚岩ではなかった。国民党内部がいろいろな経緯をたどりながら、暴力に訴えて分裂抗争をくり返す。非常に錯綜している関係なので、慎重に読み解いていかないと、読者の頭も混乱する。そのため、たびたび前に戻って、時系列を確認しなければならなかった( -ω-)
だから、読み終えるのに、時間を要したわけだ。

その一番象徴的な事件が、西安事変(1936年)であろう。この事変の原因をなした国民党、共産党、そしてロシアの思惑などが簡潔に記述されている。紙幅に限度があるから、石川先生はことばを惜しんでいる。
ごく最近になって新たにわかった“新事実”を踏まえた、驚きの全貌。それぞれの関係者の利害得失が明かされていく。その焦点に立っているのが、当事者の蒋介石。
彼の日記もしばしば紹介され、臨場感を高めている。

そしてつぎの主役毛沢東。
毛沢東が、どのような形で歴史の舞台に登場することになったのかがよくわかった。
蒋介石にせよ、初期の毛沢東にせよ、これまで知っているつもりで知らなかったことばかり。石川先生の冷静沈着な記述が、一読者たるわたしの脳を射抜く。
相当な力量の持ち主でなければ、こうは書けないだろう。このシリーズの中心的な主題が、この一巻「革命とナショナリズム 1925-1945」に集約されているのかもしれない。
これでもかいつまんで書いたということだろうが、何をどう書くかに歴史家の技量がかかっていることを、わたしは久しぶりに痛切に経験させていただいた。

《党幹部・党員の忠誠に支えられた毛の権威は、整風運動を通じて次第に個人崇拝にまで高まっていくことになる》(218ページ)
本書は1945年までの中国の歴史だが、そのあとからもう、つぎの時代の波頭が押し寄せているわけだ。档案(とうあん)制度なるものが共産党員を強く拘束している事実も、本書で教えていただいた重要な現実。
多くの日本人にとっての“終戦”と、中国、中国人にとっての“終戦”は、多大な犠牲を払った戦争の表と裏を、残酷に映し出す。
追いつめられた日本軍は、燼滅(じんめつ)作戦、三光作戦(焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くすという意味)など、恐るべき非人道的な手段にまで訴えている。ここまでやっていたとは知らなかったが、ナチスの残虐を非難する資格は、戦中の日本にはない。

大雑把な見積もりではあると思われるが、1937年から1945年にわたる戦争を通じて、中国軍民の死傷者は3500万人以上という!
そして、日中戦争の日本人死者が45万人。
現在われわれが享受しえている平和は、こういった甚大な犠牲のうえに成り立っている。
横っ面を叩かれたような衝撃・・・といえば大げさなのだろうか。

現代のわれわれは、イデオロギーの終焉が取り沙汰されて以来、石川さんがいうように「革命史観」からは抜け出したところに立っている。
読み終えて、歴史の検証とは何だろうということに心を奪われた。
かつての戦場は復興したかもしれないが、心の傷跡は永久に癒えることはないだろう。反日には、こういった理由があり、それはすべての中国人の胸の奥底に、現在でも黒々とわだかまっている。

石川禎浩さんに感謝、感謝だな。
本書はわたしを、そういう世界史的な、そして人間的な地平へつれ出してくれた。
これこそまさに・・・、時空を超えていく読書という旅なのだ。



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