
死んでしまったものの、
失われた痛みの、
ひそやかなふれあいの、言葉にならぬ
ため息の、
灰。
――ウンベルト・サバ「灰」より(須賀敦子訳)
須賀さんを読んだ人ならば、この四行が、彼女自身が書き残したエッセイのエッセンスであることを理解するだろう。
ここに、須賀敦子の世界が集約されている・・・とわたしはおもう。
《なぜ自分はこんなにながいあいだ、サバにこだわりつづけているのか。
二十年前の六月の夜、息をひきとった夫の記憶を、彼といっしょに読んだこの詩人にいまもまだ重ねようとしているのか》(須賀敦子「トリエステの坂道」)。
■夏目漱石「文鳥・夢十夜」 「永日小品」「思い出す事など」をふくむ
■永井荷風「濹東綺譚(ぼくとうきたん)」 木村荘八が挿絵を担当した岩波文庫版
■ 中島敦「山月記・李陵他」 「文字禍」をふくむ岩波文庫版(ちくま文庫、集英社文庫にも収録)
■小林秀雄「モーツァルト・無常ということ」新潮文庫版
■ドストエフスキー「死の家の記録」工藤精一郎訳・新潮文庫版
■メリメ「カルメン」杉捷夫訳・岩波文庫版
これらはわたしが偏愛してやまない文庫本。どういうわけか、同じ本を何冊ももっている。
その一冊に、「トリエステの坂道」が加わった。
白水社版をあわせ、三冊か四冊が手許にある♪
《ひそやかなふれあいの、言葉にならぬ
ため息の、
灰。》


須賀さんは、この灰の中から、エメラルドをつくり出した。
キラキラとした、憂愁の深い輝きに満ちた、宝石のようなことばたちを。
トリエステの坂道を歩く彼女は、サバの、そして夫ペッピーノのふところに抱かれていたに違いない。


記憶の向こう側の、
記憶。
敬虔なクリスチャンであった彼女は、それが・・・宝石のようなことばたちが、神の恩寵だと確信していたのだろう。
夫に身をまかせる、サバに心をまかせる、そして神にすべてをまかせる。
失われた痛みの、
ひそやかなふれあいの、言葉にならぬ
ため息の、
灰。
――ウンベルト・サバ「灰」より(須賀敦子訳)
須賀さんを読んだ人ならば、この四行が、彼女自身が書き残したエッセイのエッセンスであることを理解するだろう。
ここに、須賀敦子の世界が集約されている・・・とわたしはおもう。
《なぜ自分はこんなにながいあいだ、サバにこだわりつづけているのか。
二十年前の六月の夜、息をひきとった夫の記憶を、彼といっしょに読んだこの詩人にいまもまだ重ねようとしているのか》(須賀敦子「トリエステの坂道」)。
■夏目漱石「文鳥・夢十夜」 「永日小品」「思い出す事など」をふくむ
■永井荷風「濹東綺譚(ぼくとうきたん)」 木村荘八が挿絵を担当した岩波文庫版
■ 中島敦「山月記・李陵他」 「文字禍」をふくむ岩波文庫版(ちくま文庫、集英社文庫にも収録)
■小林秀雄「モーツァルト・無常ということ」新潮文庫版
■ドストエフスキー「死の家の記録」工藤精一郎訳・新潮文庫版
■メリメ「カルメン」杉捷夫訳・岩波文庫版
これらはわたしが偏愛してやまない文庫本。どういうわけか、同じ本を何冊ももっている。
その一冊に、「トリエステの坂道」が加わった。
白水社版をあわせ、三冊か四冊が手許にある♪
《ひそやかなふれあいの、言葉にならぬ
ため息の、
灰。》


須賀さんは、この灰の中から、エメラルドをつくり出した。
キラキラとした、憂愁の深い輝きに満ちた、宝石のようなことばたちを。
トリエステの坂道を歩く彼女は、サバの、そして夫ペッピーノのふところに抱かれていたに違いない。


記憶の向こう側の、
記憶。
敬虔なクリスチャンであった彼女は、それが・・・宝石のようなことばたちが、神の恩寵だと確信していたのだろう。
夫に身をまかせる、サバに心をまかせる、そして神にすべてをまかせる。