二草庵摘録

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「ヨーロッパ近代史」君塚直隆(ちくま新書 2019年刊)レビュー

2019年01月30日 | 歴史・民俗・人類学
《ルネサンスとともに幕を開け、第一次世界大戦によって終焉を迎えるヨーロッパの近代。アジアやイスラームに後れをとり、その形成期にはさほどの経済力・軍事力を備えていなかったヨーロッパが、二〇世紀初めには人類の半分以上を支配するに至った。なぜ、この時代に世界を席巻することができたのか?それを可能にした力の根底には「宗教と科学(の相剋)」がある。本書はこうした視座から、近代ヨーロッパが世界史を一変させた秘密をよみとく試みだ。時々の時代精神を体現した八名の歩みを糸口に、激動の五〇〇年を一望のもと描き出す。》(本書のキャッチコピー)

「時代精神を体現した八名」とは・・・

1.レオナルド・ダ・ヴィンチ
2.マルティン・ルター
3.ガリレオ・ガリレイ
4.ジョン・ロック
5.ヴォルテール
6.ゲーテ
7.ダーウィン
8.レーニン

・・・の八人。
書きぶりは教科書的だが、つまらなくはない。
わたしの知らないことを、多く学ばせていただいた。

ただし、記述の視座には、なんら独創性が感じられず、高校の「世界史B」レベル・・・とわたしは見た。
世界史について書かれた本は、すでに汗牛充棟のありさま。いまさらなにかを付け加えるのは至難のわざだろう。しかも、巻末の「主要参考文献」までふくめ、たった348ページに、500年の歴史がつめ込まれている。
著者君塚直隆さんは、1967年生まれなので、わたしより15年お若い。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。

構想にややムリがあると思うが、そこは一工夫してある。つまり、8人の時代精神を体現した人物を選びだして、彼らの視点を焦点とし、500年にわたるヨーロッパ史を辿ろうという企てなのである。政治史はごく大雑把な記述になっていて、むしろ社会史的な読後感がある。

書店で見つけ、ほぼ衝動買いだったが、少しガッカリ(^^;) スパイスが足りないため、ファミレスのランチメニューみたいになってしまった。
要するに君塚先生の「勉強の産物」なのである。
ただ、17世紀18世紀はフランス語による貴族政治、貴族外交がヨーロッパのスタンダードであった・・・という指摘は印象に残った。
海洋国家イギリスが主導権を握る前は、大陸国家フランスの時代があり、貴族・外交官は、フランス語でコミュニケーションをとっていたのだ。

ここで連想するのは、トルストイの「戦争と平和」の冒頭場面。
「戦争と平和」は宮廷で開催されるパーティーのにぎわいから幕を開けるのだが、彼らは皆、フランス語で会話している。ロシアが後進国のため、「ロシア語による標準語」が確立していないのでそうなったのかと、わたしは推測していた。
ところがそうではなく、イギリスでもドイツでも、貴族、外交官は、フランス語を使うのが慣習化していたというのだ(ノ_-)。

《国際政治学者の高坂正堯は、大戦前(第一次世界大戦)までの「古典外交」の時代を支えたのは、同質の文化を持つ者が抗争し、交流する世界であり、交際の作法は貴族社会のそれに基づき、しかも各国が相当の自立性を備えた国際社会であったと喝破している。》(本書331ページ)

現代もそうだが、「勢力均衡」が外交のメインテーマとなったのは、17世紀18世紀のヨーロッパにおいてであった。どこと連繋し、強大化する近隣国をどう押さえ込むかが、複雑なかけひきの中で形成される。敵の敵は味方・・・というようなマキャベリズムが、基本的な柱となっていくこの外交戦略は、数百年に渡って戦争・紛争をくり返してきたヨーロッパ諸国で鍛えあげられ、やがて熾烈な軍拡競争へと世界を導いていく。

そういう意味では、日露戦争などの例外はあるにせよ、戦争の火ぶたが切って落とされるよりはやく、勝敗は決しているというべきかも知れない。それが「外交」の恐ろしさなのである。
「宗教」と「科学」の関連性については、ガリレイの章と、ダーウィンの章を、その解明・分析にあててある。

最後の一章をレーニンの素描で終ったのが本書の特徴であろう。レーニンとロシア革命の意義については、ヴォルテールについてと同様、わたしはほとんどなにも知らない。したがって、第5章、第8章あたりはとても興味深く読むことができた。



評価:☆☆☆

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