司書のユングはさっきからそんな二人が気になって仕方がなかった。学生のようで、何か調べ物をしているのだろうが、本の扱いが荒っぽいのも気になった。手当たり次第に本を引っ張り出してくるのがいたずら半分のようにも見えて、いつ注意をしようかとタイミングを計っている所だった。
すると、ユングの目にもう一人の人物の動きが目立って映った。二人の座っている机の奥の方に黒っぽい服装をした男が座って . . . 本文を読む
セブ暦元年、クライン・マルトが貧しい砂漠の民を引き連れてセブズーにやって来た。草木の生えない乾燥地帯の飢えた民は、クライン・マルトの導きによって険しいランバード山脈を越えた。七月に砂漠を出て、セブズーに着いたのは十月を越えていた。その間、多くの民は命を失い、生きながらたどり着いた者は半数に満たなかった。
セブズーはランバード山脈と海に挟まれた肥沃な土地で、穀物がよ . . . 本文を読む
「水で見えにくいが、あの台座も怪しいな。」
「そうだな、落ちる水で隠されてよく見えないが、複雑な彫刻がある。」
「ねえ、私に見せて。」エグマが遠めがねをエミーから奪い取った。
「どうやら、人が色々にからんでいるような彫刻ね。」エグマは注意深く噴水の周りを周回しながら、遠めがねを覗いて言った。
「エグマ、あそこを見てくれないか。」カルパコが一点を指さした。
「あれね、」エグマはそ . . . 本文を読む
「おはよう。」
「オッス、」
「おはよう、いい天気ね。」
「ああ、絶好の調査日和だ。」
四人はセブズーの広場に配されたセブ王の噴水前に集合した。奇妙な依頼文が舞い込んだ次の日曜日の朝だった。
「この噴水に何か秘密が隠されているのだろうか。」カルパコが噴水を見上げながら言った。
等身大より少し大きめの馬が前足を振り上げ、後 . . . 本文を読む
休み時間に、四人は代わる代わる赤い文字の書かれた紙片を見比べ、あれこれ言いながら、六枚の紙片をつなぎ合わせて見た。それは思った通り、一つの言葉になるようだった。
『王家の』『眠らされた歴史に』『光をあてよ』『それを』『知りたければ』『セブ王の噴水を調べよ』『 』
実の所、紙片は全部で七枚見つかった。最後の一枚はカルパコの靴箱の中に . . . 本文を読む
あれはもう一カ月も前の事になるが、アモイ探偵団にとって忘れ難い出来事があった。それはアモイ探偵団が初めて関わった、大事件の序章となったのである。
その日は朝から妖気が漂うような天気だった。厚い雲が狂ったように不規則な動きをして沸き上がり、町全体に覆いかぶさるように流れていた。遠くの山が所々赤茶けて見えた。豊だったセブズーの自然が至る所で死に始めてい . . . 本文を読む
「エミーが休んでいる間に、俺達すごい発見をしたんだぜ。」カルパコが言った。
「えっ、何なの。どんな発見?」
「それは学校に行ってのお楽しみさ。」ダルカンがおどけて言った。
「意地悪ね。ねえ、エグマ、あなたなら教えてくれるでしょう?」
「学校に行ったらね。」
「エグマ、あなたまで意地悪言うのね。いいわ、私もすごい話があるんだけど、お預けね。」
「おいおい、な . . . 本文を読む
脇腹に激しい痛みを感じてエミーは目を覚ました。恐ろしい夢だった。死んだと思った自分は今確かに、慣れ親しんだベッドの上にいるのだ。夢だったのかと思った瞬間、エミーは全身に汗を感じた。ひどい汗だった。エミーはベッドから出てタオルで丁寧に体をふいた。
それにしても生々しい夢だった。怖くて、懐かしくて、悲しくて嬉しい、何とも奇妙な感覚が残っている。あの骸骨は地獄だったのだろうか。そこに母さんもいた。 . . . 本文を読む
うなされて、バックルパーは目を覚ました。全身に汗をかいていた。甘酸っぱい悲痛な気分が今も続いている。夢だったのか。汗で濡れた首筋を手で拭きながら、バックルパーは生々しい夢の感触に浸っていた。
夢にしてははっきりし過ぎていると思った。細かいところまではっきり覚えている。こんな経験は今までなかったことだ。ヅウワンが死んで、相当まいっているのだろう。それに可哀想なエミー、自分がヅウワンを殺したのだと . . . 本文を読む
「ちょっと怖い。」エミーが言った。そのとき、家の中から声がした。
「バックルパー、あなたなの、本当にあなたなの。」ヅウワンの声だった。
「母さん」エミーが身を堅くして呼びかけた。白いローブを着たヅウワンが姿を現した。
「母さん」エミーは涙声になった。
「エミー、エミーなのね。」
「母さん、」エミーはヅウワンの胸に飛び込んだ。
「おお、エミー、どうしてお前がこんな所に。」
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