確定申告でくたびれたら、無性に古今亭志ん朝の語りを聞きたくなった。
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古今亭志ん朝は様子もいいが声もよく、若いころに俳優もしていたくらいだから朗読も巧い。独り語りの落語とちがい平明な朗読で、モノノアワレを感じる声を堪能したかった。父親の志ん生も小泉信三から声にモノノアワレがあると贔屓にされていましたナ。
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志ん朝がナレーションをしているジブリアニメ「平成狸ぽんぽこ」をレンタルしたら、ウクライナやパレスチナに通じる少数弱者の抵抗の哀しみを描いている普遍性に感銘した。
よく考えたら「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「未来少年コナン」も、迫害をうける少数弱者の抵抗をテーマにしていて、戦中世代で戦後の安保や成田闘争などの抵抗と敗北を経験してきた、高畑勲と宮崎駿の世代の心の真ん中に据えられたテーマなのだろう。
改めて視聴したら数あるジブリアニメでテーマの深さではピカイチで、アイヌとネイティブアメリカン、パレスチナとウクライナの人々の境遇と重なり、涙なしでは見られなかった。このアニメを子供向けと笑い飛ばす人がいたら、少数弱者の悲愁に目を向けずに「力こそ正義」と考えるタイプだなぁ。
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タヌキの住処だった里山が乱開発された多摩ニュータウンから人間を追い出そうと、四国から伝説の長老タヌキを迎えて百鬼夜行に化けるタヌキたちだったが、現代人から面白がられてしまう哀しみと哀れさ。力尽きた長老のタヌキに諸仏が来迎する。野生動物もまた仏性の顕現とする山川草木悉皆成仏の仏教思想が読み取れる。
この映画の白眉は、殺されたタヌキたちが宝船にのって昇天していく場面の、志ん朝の七五調の語りだ。
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最後の手段で特攻作戦にでたタヌキたちは、機動隊員から射殺されてしまう。「並みのタヌキは死出の旅 生きて帰らぬ死出の旅・・・」と「平家物語」を思わせる七五調で志ん朝が語る名場面。滅びゆくモノたちへのレイクエムだ。
作中に琵琶法師や源平合戦も出てくるので、高畑勲監督は「平家物語」を意識しているようだが、驕れる平氏と同じく現代人もまた久しからずと見立てているものか。
4匹のタヌキの長老たちの発声とセリフ回しの味が落語っぽく、二匹は柳家小さんと桂米朝であることに気付いたが、エンドロールで残り二匹は桂文枝と蘆屋雁之助であることがわかった。
名人上手の師匠がたの語りは物語に奥行きを生んでいるし、無国籍なアジアンテイストで時代を横断するような「上々颱風」の音楽も作品世界にピッタリハマっている。
ラストのセリフの「どっこい生きている」が救いなのだが、願わくばウクライナやパレスチナの人々も「どっこい生きて」いて欲しい。
「・・・驕れる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし 猛き者もつひにはほろびぬ ひとへに風の前の塵に同じ」は「平家物語」の序文だ。
我が世の春を謳歌しようとするイスラエルも、ロシアも、アメリカもまた「ただ春の夜の夢のごとし」・・・諸行無常。
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