
どきつい紅と紺のタイルがモザイク状に敷き詰められたエキセントリックな外観が目を惹く「小枝旅館」で立ち寄り入浴してきました。おそらく建物の築年数は相当経っているものと思われますが、開業当時は相当アバンギャルドだったに違いありません。
こんな奇抜な外観の建物が温泉宿の中心部に建っているのですから、当地を訪問したら気にならないはずはなく、私も鶯宿温泉には3度ほど足を運んでおり、その都度こちらで立ち寄り入浴をお願いしようと試みてきたのですが、ある時は玄関に鍵がかかっていたり、またある時は留守でどなたもいらっしゃらなかったりと、不運続きでなかなか入浴することができませんでした。でも3度目の正直という言葉を信じて先日訪ってみたら、訪問当初は帳場が真っ暗で声をかけても反応が無く、明らかに留守の様子。また今回も空振りかと諦めかけていたら、小柄で鈍りの強いおばちゃんが車で帰ってきて、「ごめんごめん」と言いながら対応してくれました。


ロビーまわりも、一般的な小規模温泉旅館とは一線を画す、アトリエに民家のリビングを組み込んだような独特のインテリアです。尤も、下手に小洒落て敷居を高くされてしまうより、こちらのようにお客さんに積極的に何かを訴えかけようとしてくれている雰囲気の方が、客の立場からすると断然入りやすいですね。「ゆ」と書かれた暖簾を潜って奥へと進みます。


浴室は男女別の内湯が一室ずつ。壁には「家族で入っています」の札が2枚貼ってありましたが、これはけだし浴室を貸切利用できることを示しているのかと思われます。


浴室のドアをあけたらすぐに棚が迫っていました。脱衣所はかなり狭く、大人数で使うより、貸切使用したほうが良さそうな感じです。

脱衣所の狭さに反して浴室は意外と広いのですが、浴槽の縁や窓枠などには建物の外壁同様に赤と青のタイルが市松状に貼られており、他の部分は黒いタイルが敷き詰められていて、独特の色遣いによってサイケデリックな内装デザインとなっていました。温泉浴場でこうした色調を採用するところって、他に例を見ないのではないでしょうか。昭和40年代の水商売店舗やサカサクラゲを髣髴とさせる奇抜さに、私はしばし呆気にとられてしまいましたが、ステレオタイプに従って金太郎飴のように他施設と同じようなお風呂にするよりは、このように前衛的な個性を前面に押し出していこうとする発想の方が私は好きです。


洗い場には水栓が3つ設置されており、うちひとつはシャワー付き混合水栓です。古典的なお湯と水の蛇口は硫化して黒く変色していました。なお水栓から出てくるお湯は真湯でして、蛇口を捻ると浴室裏手からボイラーの作動音とともに排ガスの匂いがプンと漂ってきました。

他の温泉ファンの方のレポートを拝読していると、こちらのお風呂には鶯宿温泉らしく熱いお湯が張られていたという記述が多くみられるのですが、訪問時の湯船は適温だったものの、お湯はやや鈍り気味で、本来はオーバーフローのお湯が表面を洗っているはずの洗い場のタイルはカピカピに乾燥していました。塩ビ管によって湯船の底の方で口を開けている湯口に手をかざしてみると、わずかに熱を感じる程度でほとんど源泉は出ていない様子です。どうやら閑散時間帯だったために、源泉の元栓を締めていたようです。おばちゃんに申し出て栓を開けてもらえば良かったのですが、わざわざ着替えて帳場まで行くのが面倒でしたし、湯船の温度はむしろ丁度良い塩梅まで下がっていましたので、今回はこのまま入浴を続けることにしました。脱衣室にも湯船用の水道蛇口にも、湯船には水を入れ過ぎないよう(あるいは、水をきちんと止めるよう)、注意書きがありましたので、普段は熱い湯船なんだろうと推測されます。
こちらのお宿で使われているのは、「町民憩の家」や「石塚旅館」と同様に杉の根の湯源泉でして、これらの施設と同様に完全掛け流しの湯使いのはずですが、配管途中に何か仕掛けでもあるのか、湯の華はあまり見当たらず、匂いや味もかなり薄くなっているように感じられました。もしかしたらお湯をずっと溜めておいたために風味が失われてしまったかもしれず、つまりは訪問したタイミングが宜しくなかった、ということのかもしれません。いや、お湯のコンディションに気付いてすぐに声をかけなかった私が悪いんです。
お風呂から上がって退館する際に、おばちゃんに一言挨拶しようと帳場を覗いたらどなたもいらっしゃらず、館内にも人影は無いようで、どうやら再びどこかへ出かけてしまったようです。忙しい方なんですね。良いコンディションのお湯に入るべく、いずれはリベンジしなければ…。
杉の根の湯(混合泉)
アルカリ性単純温泉 57.9℃ pH8.7 788L/min 溶存物質0.6446g/kg 成分総計0.6446g/kg
Na+:152.5mg(79.69mval%), Ca++:30.3mg(18.15mval%),
Cl-:49.3mg(16.75mval%), SO4-:303.1mg(76.02mval%),
H2SiO3:70.2mg,
盛岡駅前or盛岡バスセンターより岩手県交通バスの鶯宿温泉行で終点下車(盛岡駅前から約50分・930円)、徒歩2分
岩手県岩手郡雫石町鴬宿第6地割24番地4 地図
019-695-2126
立ち寄り入浴時間8:00~22:00
300円
シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★