爽快な青空が広がった春の某日に撮った、福島県の奥土湯です。清く澄みきった碧いの空のもと、まだ雪を残す藍色の吾妻連峰から下方へと視線を移すと、芽吹いたばかりの新緑が鮮やかに映え、ところどころに桃色の花が咲き、その間を縫うようにして土湯川の渓流がせせらいでゆきます。まさに絵画の世界そのもの。なんて美しいんでしょう。今回の目的地はこんな美しい景色の中にぽつんと佇む一軒のお宿です。この画像にも右側の川岸にちょこんと写っています。
土湯温泉のメインストリートを走り抜けた最奥部に位置する「川上旅館」で日帰り入浴してきました。訪問した日は玄関前の枝垂れ桜がとっても綺麗でした。秘湯を守る会の会員宿でして、玄関にはおなじみの大きな提灯がぶら下がっており、木造建築や紅色の屋根とマッチして落ち着きある温泉風情を醸し出していました。
老舗旅館らしい風情のある帳場です。私の記憶が確かならば、以前は日帰り入浴NGだったはずですが、いつの間にか入浴のみの利用もOKとなり、この時も日帰り入浴を乞うと快く受け入れてくれました。玄関をあがったところには、ポップな感じのお手製日帰り入浴の案内が掲示されていました。日帰り入浴できるお風呂は、こちらのお宿ご自慢の「半天岩窟風呂」、内湯の「あすなろ風呂」、そして「万人風呂」の3種類があり、いずれも一室ずつしかないため、男女入れ替え制(毎日夜10時に入れ替え)になっており、事前の公式サイトのお風呂カレンダーで調べておき、「半天岩窟風呂」と「あすなろ風呂」が男湯に設定されている日を狙って訪問したのです。
玄関と並んでいる囲炉裏端の部屋には、土湯名物の民芸品であるこけしの他、冬虫夏草のホルマリン漬けがたくさん展示されていました。
●あすなろ風呂(内湯)
帳場から左手へ進み、突き当りを左に折れると、廊下を進んだ突き当りに「あすなろ風呂」と「万人風呂」がありました。
さすが老舗旅館だけあって脱衣場は整然としており、古いながらも快適。
鉄平石が敷き詰められたは浴室は、お風呂としては小規模旅館らしい造りで、2~3人サイズの浴槽がひとつ、そしてシャワー付き混合水栓がひとつ。浴槽の縁にはヒバ材が用いられています。かなり実用的で地味なお風呂であり、「半天岩窟風呂」や「万人風呂」に対して脇役に徹している感があります。元々は女湯として造られたそうですが、気温の状況などによって露天風呂に入れないお客さんのために、現在は内湯として使われているんだそうです。
湯口からトポトポと注がれる源泉は、無色透明、薄い茶色で膜が粉砕されたような(そして羽根状のものを伴う)湯の華が無数浮遊しており、ほぼ無味無臭ですが、黒ゴムのような味と匂い、そして木材臭や薄い出汁味もい仄かに感じられました。ツルスベでも引っかかりでもないごく普通の浴感ですが、肌への当たりは優しく、万人受けするお湯と言えそうです。
●半天岩窟風呂
日本旅館の建築洋式の典型のような、迷路の如く複雑に入り組んだ廊下と階段を案内に従って進んでゆくとお目当ての「半天岩窟風呂」に到着です。脱衣所はウナギの寝床のように奥に細長く、手前側に洗面台が2つ、奥方に脱衣籠が並べられていました。
「岩窟風呂」と書かれた大きな扁額が目立つこのお風呂は、「半天」と称されていますが実質的には完全な露天風呂であり、脱衣所からこちら側へ出てくると、川のせせらぎや小鳥の囀りが耳に届いてきました。重厚感の風格の溢れる総ヒバ造の浴槽はT字のような形状をしており、洞窟として地中に潜っていない部分にも屋根が被せらていました。露天なのに総木造の浴槽って珍しいですね。
洞窟部分は奥行きが6メートルで深さ0.85メートル。洞窟内は鉱山の坑道のように太く立派な材木の梁で両サイドをつっぱっており、これによって内壁が崩れ落ちるのを防いでいるのですが、たかが奥行6メートルと侮るなかれ、最奥部まで行くと、閉所ならではの得も言われぬ恐怖感に襲われてしまいました。
この洞窟は職人さんが1年半かけて手で削ったそうでして、壁面を見るとたしかに鑿で削った跡がたくさん残っていました。奥の方の壁面は、この鑿の跡や一面を覆う多色の苔によって、アーティスティックな色彩が現れていました。
湯口は洞窟最奥部と入口付近に2ヶ所設けられています。大きな湯船なので湯口を複数用意しないと湯加減に思いっきりムラができちゃいますもんね。浴槽には源泉の他に水も注がれていますが、源泉温度が高いのか、加水されてもやや熱めの湯加減でした。
打たせ湯と思しき施設もありますが、この時は未使用のようでした。
土湯温泉って、谷底に位置する温泉街中心部はゴチャゴチャした感が否めませんが、ちょっと中心から離れるだけで途端に秘境ムードに包まれますから奥深いですね。こちらの他にも不動湯という人気の温泉があったりしますし…。
川上温泉(混合泉)
単純温泉 59.8℃ pH7.3 50L/min(自然湧出) 溶存物質644.9mg/kg 成分総計655.7mg/kg
Na+:112.4mg(41.66mval%), Ca++:64.2mg(42.05mval%),
Cl-:72.4mg(26.29mval%), SO4--:155.6mg(41.75mval%), HCO3-:145.0mg(30.67mval%),
福島県福島市土湯温泉町字川上7 地図
024-595-2136
ホームページ
日帰り入浴時間9:00~21:00(金曜のみ15:00~21:00)
500円/1時間
ボディーソープ&シャンプーあり、他備品類なし
私の好み:★★