岩木山の南西側山腹はトウモロコシ「嶽きみ」の名産地。私が訪れた2016年初夏某日、津軽富士を目の前に頂く山腹の畑では、まだ背丈の低いトウモロコシの芽が燦々と降り注ぐ太陽の光を受けて、天に向かってグングンと伸びようとしていました。
さて嶽温泉街へと向かいましょう。拙ブログでは嶽温泉の各旅館を何度か取り上げていますが、今回訪れるのはバス停目の前にある「田澤旅館」です。通りに面した店構えは、食堂兼トウモロコシ屋さんといった佇まいで、よく見ないと宿であるか判別しづらいのですが、嶽温泉のバス停前にはこうした外観をした昔ながらの湯治宿が何軒か並んでおり、こちらのように今でも温泉宿として営業を続けているところもあれば、宿を止めて土産物専門店となっているところもありますから、実際に訪れてみないと実情はよくわからないかもしれません。なお今回は宿泊ではなく、日帰り入浴での利用です。玄関の引き戸を開け、下足場まわりに貼ってある「入浴400円」という張り紙を確認してから、「ごめんください」と声をかけて入浴をお願いしますと、快く対応してくださいました。この玄関の内側には「瀧之湯」と記された扁額が掛かっているのですが、この「瀧」が意味するものは何なのか、それは後ほどのお楽しみ。
玄関から奥へ伸びる廊下は左右半分ずつに分かれており、右半分はゆるやかな下りのスロープとなっていました。このスロープの頭上には「浴↓場」というプレートがさがっていますので、その文字に導かれるようにしてスロープと階段を下ってゆくと・・・
男女別の出入口に突き当たりました。脱衣室内は至って質素。一枚の細長い板が括り付けられており、その上にカゴが置かれているばかりです。しかしながら、室内には鼻をツーンと刺激する温泉由来の匂いが漂っていたり、また男女の仕切り塀の上に小さいながらも神棚(おそらく岩木山神社の神様なのでしょう)が祀られていたりと、嶽温泉らしい要素がしっかりと備わっているので、それらに接すると自ずとお湯への期待に胸が膨らみます。
浴室へ入ると、アクリル波板の仕切りの手前に小さな浴槽、そしてシャワーが設けられていました。後で判明するのですが、この小さなスペースは男性専用ゾーンなのであります。おそらく女湯側はこれとシンメトリな構造になっているものと思われます。
この小さい浴槽は約1.5m四方で2人サイズ。石積みの仕切り塀から突き出た湯口より、嶽温泉の酸っぱいお湯がトポトポと注がれていました。嶽温泉のお湯は建材を劣化させてしまう強酸性であるため、床や浴槽など温泉が常に触れる部位には、耐腐食性の青い塗料が塗られているのですが、この影響によって足元が大変滑りやすいので、入浴の際は要注意です。
アクリル波板の向こう側には、窓に面して大きな浴槽が据えられており、手前側の小さな浴槽よりもはるかに明るい環境でのびのび湯浴みすることができるのですが、石積みの塀で仕切られているはずの女湯側とつながっているということは、この浴槽は混浴なんですね。幸いにしてこの時はどなたもいらっしゃらなかったので、人様の気配を気にせず入浴することができました。
浴槽の大きさは小さな浴槽のほぼ倍の5人サイズ(目測で1.2m×2.5ほど)。こちらも耐腐食性の塗装が施されており、ケミカルな青さの床と浴槽はまるでプールのようです。浴槽からはお湯が溢れ出ていますが、上述のようにとても滑りやすく、実際に私もこの上で危うく転倒するるところでした。
大小両浴槽ともお湯は放流式の湯使い。オーバーフローが流れる床は、硫黄の付着によって黄色い模様がこびりついていました。
この浴槽では、男女仕切り塀の上を伝ってきた塩ビ管からお湯が落とされており、打たせ湯のようになっていました。上述した「瀧之湯」の瀧とはこの打たせ湯を指していたんですね。
湯船のお湯は、入浴前は浴槽内部がしっかり目視できるほど無色透明で高い透明度を有していました。画像左(上)は入浴前の湯船です。しかしながら、浴槽の底には湯の花がたくさん沈殿しているため、私が湯船に入ると湯の花が忽ち舞い上がって、浴槽底面が見えなくなるほどしっかり白濁しました。画像右(下)は濁った後の様子です。もっとも、この湯の花は間もなく再沈殿しますので、数分経過すれば透明度が戻ってきます。
こちらに引かれているいるお湯は、嶽温泉各旅館で組合管理している混合泉です。口に含むと、グレープフルーツを想像させる柑橘系の収斂酸味があるのですが、他の強酸性温泉のようにいきなり粘膜を刺激せず、若干のタイムラグがあった後に口腔がキュッと収斂しました。湯面からは刺激を伴う硫黄の香りが放たれており、その匂いが脱衣室まで達していることは上述した通り。小さな浴槽は41℃、大きな浴槽は39〜40℃と、いずれも長湯仕様の湯加減だったので、皮膚がしわしわになるまでしっかりと湯船に入り続けさせてもらいました。実に良い湯です。湯中では強酸性のお湯らしい少々のぬめりを伴うツルスベ浴感が得られ、湯上がりは少々のベタつきとパウダリーな感覚に包まれました。
さて、お風呂からあがって玄関へ向かって戻っていると、廊下の天井からさがっている看板に思わず目が惹かれました。上述したように、玄関から浴場へ向かって行くときに見る面には「浴↓場」と記されているだけでしたが、その裏側、つまり風呂上がりの客が見る面には「ありがとうございました ありがとうございました またお出で下さい」という文言が手書きで記されていたのです。何気ない気遣いなのかもしれませんが、そんな手書きのメッセージにこそお宿の方の温かい心が宿っているようにも思いました。
嶽温泉旅館組合4・5号集湯槽、6~8号集湯槽(再)
酸性・含硫黄-カルシウム-塩化物温泉 48.2℃ pH2.03 湧出量測定不能(自噴) 溶存物質2.314g/kg 成分総計2.991g/kg
H+:9.4mg(23.08mval%), Na+:128.5mg(13.83mval%), Mg++:59.5mg(12.12mval%), Ca++:275.8mg(34.04mval%), Al+++:53.2mg(14.64mval%), Fe++:5.5mg, Fe+++:1.5mg,
Cl-:1130mg(81.09mval&), Br-:2.0mg, I-:0.2mg, S2O3--:2.6mg, HSO4-:90.8mg, SO4--:289.0mg(15.32mval%),
H2SiO3:213.1mg, HBO2:20.5mg, H2SO4:2.1mg, CO2:676.6mg, H2S:0.8mg,
(平成24年12月10日分析)
弘前バスターミナルまたは弘前駅より弘南バスの枯木平行で嶽温泉下車すぐ
青森県弘前市大字常盤野字湯の沢10 地図
0172-83-2752
嶽温泉旅館組合公式サイト内の紹介ページ
日帰り入浴時間7:00〜20:00
400円
備品類なし
私の好み:★★+0.5