ここ数回は冬にもかかわらず、冬季に入れない温泉を連続して紹介してきたので、ここら辺りで舵を切り直して、冬でも入れる温泉を取り上げていきます。
北海道・道東の知床半島とその南東の延長線上に位置する屈斜路湖や雌阿寒岳、そしてその周辺はあちらこちらでお湯が湧いている温泉の宝庫ですが、中標津町の養老牛温泉もそのひとつに含まれ、原生林の中に数軒の温泉宿がポツリポツリと佇むだけの秘湯感溢れる温泉地ですが、そこから更に奥へ進んで林の中に入ると、温泉ファンにはおなじみの混浴露天風呂「からまつの湯」があります。
中標津から養老牛温泉へ至る道道505号線は温泉街が終わるところで一旦舗装が途切れますが、坂道を登ってちょっと進むと再び舗装が復活し、S字にくねっと曲がって突き当たる十字路を左に曲がり、砂利道を下ると「からまつの湯」に到着です。砂利道を通るものの、道内の他の野湯と違ってアクセスが容易であり、しかも冬季も通行できるので、野湯初心者にもおすすめできる温泉です。
駐車場は広くとられていますが、木造の脱衣所は一応男女別に分かれているものの、人が二人入れば窮屈になるほどの小ささで、小屋というより物置然としています。ま、こういうのが、独特の雰囲気をつくりだしていて良いのですけどね。
浴槽はパウシベツ川の渓流の岸にひとつ設けられています。浴槽の周囲は岩で組まれ、底には玉砂利が敷かれています。浴槽の川側には丸太が組まれて渡され、ロープでつながれた桶が置かれています。お湯は無色透明で、微かに塩味が感じられるもののほぼ無味といって差し支えなく、ちょっと燻したような匂いが弱く香ります。浴槽の隣には木材で組まれたコンクリートでできた源泉の貯湯槽があり、モウモウと湯気を上げています。熱湯の源泉は一旦ここにストックされ、冷たく清らかな湧水とブレンドし湯温を調整してから浴槽へと注がれます。
左:源泉の貯湯槽を上から覗き込んだ様子
右:湯船のお湯は41.8℃。ちょうどよい湯加減でした
こちらには2度訪れていますが、いずれも先客や後客の姿が必ず2人(組)は見られ、いかにこの露天風呂が愛されているかがよくわかりました。今年の初夏に訪問した際にも、このお風呂によく来るというご夫婦と、網走から来たという男性一人がいらっしゃいました。温泉は温かいため蛇が寄ってくるのですが、ご夫婦の奥さんはその抜け殻を見つけては手にとって「金運が良くなる」と喜んで持ち帰っていました。一方、網走の方とは初対面にもかかわらず1時間近くも四方山話に華をさかせてしまいました。自然の中の温泉は人の心を解きほぐし、互いをフレンドリーにさせてくれるものです。
また一昨年(07年)の1月に訪問したときには、ちょうど日が暮れて真っ暗になってしまったのですが、ここには照明がないため、車のヘッドライトを川の対岸に当て、雪に光を反射させて照明代わりにしました。この時は若いカップルが入ってきて、仲睦まじく湯浴みを楽しんでいました。
この「からまつの湯」は元々営林署の職員によって作られ、その後有志の方によって現在の形になったようなのですが、登別の秘湯「Fの湯」や、撤去されてしまった夕張の「日吉の湯」のように、ここも撤去されるかどうかの瀬戸際に立たされているようです。
駐車場から見た「からまつの湯」の様子を07年1月と今年(09年)6月で比較してみてみますと、07年には鼻の穴の大きな人が指差しながら「水着禁止ダゾー!!」と言っている絵が描かれた看板が立てられていますが、今年はそれが撤去されています。この他にも07年の時点では脱衣小屋などあちらこちらに「水着禁止」と書かれた札が貼られていましたが、今は無くなっています。全体的に今年の方がひっそりとしているように思われました(なぜ水着禁止に固執するのかはわかりません)。
左:07年1月の様子
右:今年(09年)6月の様子
左の画像は夜なので見づらいのですが、07年にはあった絵看板などが今年は撤去されています
私が然別峡の野湯めぐりをしているときに出会った北海道の野湯の事情通に話を伺ったところ、「からまつの湯」周辺は営林署管轄の場所なのに個人が勝手に温泉や小屋などの「人工物」を設置・管理していること、この温泉に関して何らかの苦情が町に寄せられたこと、この温泉のまわりで勝手にキャンプ等をする輩が現れるなど厄介な事件(火災等)が起きそうな兆候が出てきたので営林署や中標津町が神経を尖らせたこと、といった理由でお役所が「からまつの湯」の存在を良く思っていないようなのです。このためここの管理者が町からのお達しに従う形で、とりあえず目立つようなものを取り払った、その結果、絵看板やその他の表示類が撤去されたようです。縦割り行政のお蔭なのか、脱衣小屋や浴槽の撤去までには至っていませんが、確かに国有林で勝手に「人工物」を設けることは違反になりますので、この温泉が役所で懸案事項として顕在化してしまった以上、近い将来に悉く撤去される可能性も否定できません。
原生林に囲まれた静かな環境、渓流のせせらぎと小枝にとまる鳥たちのさえずりを耳にしながら、清冽なお湯にじっくり浸かると、日々の疲れやこの世の憂さは一気に吹き飛んでしまいます。もしかしたら消えてしまうかもしれないこの温泉、早いうちに訪れてみてはいかがでしょうか。
野湯につき泉質不明
北海道標津郡中標津町養老牛温泉 地図
通年(24時間)入浴可能
無料
私の好み:★★★