温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

一人の温泉ファンが考察する、甲府盆地と人吉盆地の相似性

2009年12月13日 | その他
当ブログではここ数日は連続して人吉盆地の温泉を紹介してきました。まだまだ人吉の温泉を紹介したいのですが、それはまた後日にして、今回は或る地域を取り上げ、そこと人吉盆地を比較してみたいのです。その地域とは山梨県の甲府盆地。私はこれまで日本全国の温泉を巡ってきましたが、先日甲府盆地にある馴染みの温泉に入っているとき、ふとこんなことに気づいたのです…甲府盆地の温泉は人吉盆地の温泉に似ている、と。山梨県と熊本県という遠く離れた両県が有するそれぞれの盆地に湧く温泉にはどんな共通点があるのでしょうか。

甲府盆地は温泉の共同浴場が至るところにあり、また首都圏からそんなに離れておらず容易に日帰りができるので、私は足繁く通って当地の温泉を楽しんでいます。甲府盆地の温泉の特徴として、まず使われ方から見てゆくと、
・石和以外は歓楽的要素が少なく、共同浴場かビジネスホテルの浴場という形式をとっている
・軒数が多く、料金が比較的安い。地元の生活に密着している
といった共通点が挙げられ、また泉質面で考えてゆくと、
・モール泉的性質(褐色系の色覚、モール泉独特の匂いと味)
・つるつるすべすべ
・泡つき
などの特徴が多少の違いはあれども共通して見られます。

一方、人吉盆地について同様に見てゆくと、
・共同浴場・旅館を問わず使われているが、全般的に歓楽的要素は少ない
・人口のわりに共同浴場が非常に多く、且つ料金設定もかなり低い。地元の生活に密着している。
泉質面では、
・モール泉的性質(同上)
・つるつるすべすべ
・泡つき
というように、甲府盆地の温泉群が有する特徴とかなり一致しているのです。これは単なる偶然の一致と見るべきでしょうか。いや、何かあるはずだ、そう思って両盆地を調べていくうちに、その構造的特徴にも共通点があることがわかりました。

いわゆる盆地は、地層や岩石の軟らかい所が侵食されて周囲より低くなった「侵食盆地」と、地球のプレート活動に伴う地殻変動の力を受けて沈降した「構造盆地」の二つに分類することができ、甲府盆地と人吉盆地はともに「構造盆地」に属します。
甲府盆地はフォッサマグナという大きな地溝を象徴する地形であり、甲府盆地の北西に位置する諏訪盆地や松本盆地も同様です。甲府盆地の場合は約200万年前の第三紀鮮新世末期に、地殻変動によって今の盆地の部分が沈降し、逆にその周囲が隆起することによって、深い大きな盆地が形成されました。その後周囲の山から流れてくる川の堆積作用によって盆地内部が砂や礫で埋まり現在に至っています。盆地の地下1000mの地層は花崗岩や安山岩と同質の岩石によって構成されていますが、周囲の2000m級の山々を構成している岩石も同質のものであることから考えると、沈降と隆起が起きてから200万年の間で3000mもの差が生まれ、また周囲の山々から運ばれ堆積していった層は1000mも積もっていることがわかります。
盆地の地下1000mの地層を構成する岩石は不透水性ですが、その上に積もった砂や礫は透水性です。このため地表に降った雨は長い年月をかけて地下深くへと滲みこんでゆき、地下1000mの不透水層(基盤岩)の上に貯まります。そして基盤岩の下から供給される熱によってその貯まった水が温められ、温泉水となります。甲府盆地の沈降と隆起は現在も続いており、逆三角形をした甲府盆地の南端にあたる鰍沢町禹の瀬は隆起が起きているところなので、これが地下ダムの役割を果たして、甲府盆地では地下水や温泉水が沢山涵養されます。この地下ダムに貯まった温泉水をボーリングで汲み上げて我々は温泉として利用しているわけです。

一方の人吉盆地も同じく、第三紀鮮新世末期に起きた地殻変動によって今の盆地の部分が沈降し、西側に開けた入り江や低地が形成されました。その後肥薩火山群、つまり国見山地が噴火・隆起したことによって西側が塞がれて四方が山に囲まれる盆地となり、この盆地に水が貯まっては「古人吉湖」と呼ばれる湖ができたといわれています。この湖はおよそ100万年前に消え、湖の跡地に砂や礫が堆積して、現在の人吉盆地ができあがったそうです。
甲府盆地同様に人吉盆地の地下深くには不透水の基盤岩が横たわり、その上には地下水が貯まっているわけで、これが地熱により温まって温泉水になります。かつて湖があったということは、その湖底に蓄積された有機物が地下深いところに閉じ込められ、それによってモール泉が誕生した、という発想も、聊か短絡的かもしれませんが可能です。

要するに甲府盆地の温泉も、人吉盆地の温泉も、地殻変動によって構造盆地が形成され、その地下深くにある不透水層(基盤岩)の上に貯まって温められた地下水(温泉水)を汲み上げているという点が共通しているわけです。それでは、そうした地下水(温泉水)がどうして似た特徴を示すのか、については、私はよくわかりません。偉そうに問題提起しておきながら、尻すぼみのオチで申し訳ありません。天水や地表の水が砂や礫の層を透過して不透水層に到達するまでの間、あるいは到達してから汲み上げられるまでの間に、何らかの作用がなされ、それが両盆地の温泉水に共通した性質をもたらすのでしょう。

しかしこうした温泉水は長い年月をかけてようやく地下深くに貯まったものであり、なかなか供給されるものではありません。数百から数千年はかかるとみられています。人間が汲み上げて使うと、どうしても汲み上げ量が供給量を上回ってしまうため、やがて温泉水は涸渇してしまいます。甲府盆地と比べてはるかに小さい人吉盆地の温泉は、実際にあちらこちらで涸渇したり、あるいは湧出量が減ったりしています。甲府盆地の温泉浴場では湯量豊富に掛け流しているところが多いのですが、これとて有限な資源ですからいずれは涸れてしまうでしょう。限りある温泉を贅沢に使いきってしまうのがいいのか、吝嗇ながら細々と使うのが、判断が分かれるところだと思います。温泉ファンの一人として私も、掛け流しのお湯に入りたい願望もあれば、そのお湯がいつまでも湧き続けて涸れて欲しくないという希望も持っています。願望と希望の両方に心が引き裂かれる思いです。

次回からは連続して甲府盆地の温泉を取り上げるつもりですが、甲府盆地が有するこうした状況をふまえたうえで読んでいただくとより一層理解が深まるかと思います。
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