日帰り入浴目的で、カルルス温泉の鈴木旅館にて立ち寄りました。外観は東北の湯治宿のような渋い佇まいですが、立派な車寄せが旅館としての威厳を放っていました。玄関脇には歓迎・日帰り入浴の札が提げられていたので、玉砕(入浴のみお断り)の恐怖感を抱くことなく安心して訪うことができました。
戸を開けると若女将がわざわざ帳場から出てきて丁寧に案内してくださいました。その案内に従い、帳場前の階段を上がって2階へ向かい、矢印に従って廊下を進んでいきます。
大浴場は「有生温泉」という名前。
浴室入口に置かれた輪切りの切株には縁起が記されており、その一部を抜粋すると、有生とは「自らの意志に加え神霊の加護に依り生きる事の目的と喜びをもつ事、即ち生命の存在と持続」を意味しているんだとか。
脱衣室は湯治宿以上旅館未満と表現したくなるような渋い雰囲気。
浴室には計5種類の浴槽があるそうですが、それぞれについてどのように温度を設定しているか、湯使いはどうなっているのかを明示した説明が、脱衣室内に貼られていました。一部を除き各浴槽とも源泉を使用しているものの、源泉温度が高いために加水しており、加水の程度によって温度を調整しているようです。
お風呂は内湯のみですが、室内らしくない開放的な空間が広がっており、いろんな浴槽が目に飛び込んできます。
浴槽の多様さに反し、洗い場のカランはシャワー付き混合栓が3基のみ。尤も、共同浴場みたいに客が集中して混雑するようなことはないでしょうから、これで十分なのかもしれません。1基あたりのスペースもしっかり確保されていますから隣の干渉することもないでしょう。
最も入口寄りにあるのが「福の湯」と称する打たせ湯2本。源泉に10~30%程度の湧水を加えて38℃前後の設定にしているとのこと。確かにぬるめの打たせ湯でした。
洗い場に隣接して設けられた、柱を囲むようにドーナツを半分にしたような半円形の浴槽が「かぶり湯」。
源泉に5~20%程度の湧水を加えて40℃前後に設定しているそうです。画像には槽の上に曇りガラスが写っていますが、これは男湯と女湯を仕切る境界でして、曇り加減が弱いのか、向こう側を動く人影がボンヤリながら見えちゃいました。異性の裸体に想像を膨らましてロマンを抱くも佳し、所詮ババア(orジジイ)しかいねぇと端っから気に留めないのも佳し。
一番奥に位置する「泉の湯」は各浴槽の中で最も大きなもの。「かぶり湯」同様、源泉に5~20%程度の湧水を加えて40℃前後に設定しています。普段はしずしずとお湯がオーバーフローしており、人が入るとザバーっと勢いよく溢れだします。各浴槽の中で最も長湯しやすく、且つ心地の良い湯加減だったかと思います。
こちらは「福の湯(打たせ湯)」の隣にある「気泡湯」。気泡といっても温泉由来の気泡が肌に付着するわけではなく、ジェットバスが設けられているから「気泡湯」なんだと思います。加水量は「福の湯」と同じく、源泉に対して湧水が10~30%程度なのですが、実際の湯温としてはここが最もぬるくなっていました。またジェットバス作動のためか、槽内には強烈な吸引口があって、それに気づかず足を吸われた時にはビックリしてしまいました。
「気泡湯」と並んでいるこの浴槽は「玉の湯」。こちらは源泉100%で、5つある浴槽の中では最も高い湯温設定の42℃前後。名前の通り玉のような麗しいお湯が楽しめました。源泉そのままであることを証明するかのように、湯口にはコップが置かれており、試しに飲んでみると、弱い金気に土気っぽい味が少々、そして石膏的な知覚が感じられました。その石膏らしさが析出として現れているのか、湯口の岩には棘皮動物のような小さなトゲトゲが出ていましたが、知覚としては味・匂いともに弱く、近所の登別とは好対照の優しく穏やかなお湯です。見た目はごく薄い黄色っぽい(黄金色っぽい)透明。温泉分析表には無色透明と記されていましたが、実際の見た目と分析表には若干の乖離があるようです。
このお風呂で特徴的なのはこの木の角材(ウ●コじゃありません)。これは枕として使うものでして…
床に枕を置いていわゆるトドを楽しむわけです。このため、浴室の床は浴槽廻りを中心として木板が張られており、浴槽のお湯をかけながら木の床の上で横たわり、じっくり温浴を堪能できるようになっているのです。こうした湯治的な入浴を推奨しているお宿なのですから、宿全体に漂う湯治宿らしい雰囲気は至極自然なものなんですね。
(上画像クリックで拡大)
現在の浴場こそ昭和55年の普請ですが、歴史そのものは北海道にしては古く、1899年(明治32年)に創業した「寿館」が前身なんだとか。脱衣室入口には毛筆の扁額が掲げられており、そこには「報告」という題名に続いて、明治33年10月13日付で胆振国幌別郡幌別村のペンケネセより湧出している温鉱泉(第21号)を定量分析した内容が記されていました。文中のデータをいくつか抜き出してみますと…
総量0.964
格魯児那篤倫0.1644
硫酸那篤倫0.3312
硫酸加爾叟謨0.1024
重炭酸加爾叟謨0.1684
硅酸0.1570
遊離炭酸0.1526
と書かれています。全て漢字ですから難解ですが、格魯児はクロル(塩素)、那篤倫はナトリウム、加爾叟謨はカルシウムですね。現在のデータを見ますと陽イオンはナトリウムとカルシウムが拮抗しており、陰イオンは硫酸イオンが筆頭になっていますが、明治時代どうやら硫酸ナトリウムが溶存量としては一番多かったようです。遊離CO2が今と昔で全然違う数値となっているのは不明…。格魯児那篤倫0.1644
硫酸那篤倫0.3312
硫酸加爾叟謨0.1024
重炭酸加爾叟謨0.1684
硅酸0.1570
遊離炭酸0.1526
登別とは全く違う優しく穏やかなお湯でゆったり湯治するにはもってこいのカルルス温泉。若女将の丁寧で親切な接客がとても印象に残ったお宿でした。
単純温泉 44.4℃(浴場内浴槽・加水あり) pH7.0 溶存物質0.668mg/kg 成分総計0.676mg/kg
Na+:85.5mg(46.91mval%), Ca++:79.4mg(49.94mval%),
Cl-:40.4mg(13.87mval%), SO4--:264.2mg(66.91mval%), HCO3-:93.0mg(18.49mval%),
H2SiO3:92.8mg, 遊離CO2:8.8mg
北海道登別市カルルス町12 地図
0143-84-2285
ホームページ
13:00~20:00
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★