温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

安代温泉 安代大湯

2015年12月23日 | 長野県
 

安代温泉には2つの共同浴場がありますが、いずれも原則的には地元民(組合員)しか利用することができません。しかしながら当地のお宿に宿泊すれば、その特権として共同浴場の利用が可能になりますので、前回および前々回記事で取り上げた「安代館」にて宿泊した晩に、2つの共同浴場を訪れてみました。まずは安代温泉の象徴とでも言うべき「安代大湯」から。渋温泉に続く石畳の道に面しており、誰しもがカメラを構えたくなるほどどっしりとした構えの、風格ある伝統的湯屋建築です。
湯屋の内部は男女別で対称的な造りになっているばかりか、「安代館」に面した西側(湯田中側)と、赤いポストが立っている東側(渋側)でもシンメトリになっており、東西両側に出入口と脱衣室が設けられている面白い構造をしています。


 
脱衣室は木の棚と洗面台があるだけのシンプルな造り。洗面台は昔ながらのタイル張りです。


 
明らかに仕切りを挟んで男女がシンメトリになっていることがわかる浴室は、風格漂う総木造の外観に反して、モルタル塗り且つタイル張りなのですが、室内は清掃がよく行き届いていて、タイルも古いながらピカピカに輝いており、地元の方がこの大湯に寄せる愛情が伝わってきます。
洗い場にカランは無いものの、細長い凹みが設けられていて、石鹸などが置けるようになっていました。


 
お饅頭を半分に割ったような形状をしている湯船は総タイル貼りで、縁は紺色、総内は水色です。このはっきりとしたコントラストが、無色透明なお湯の清らかさを際立たせており、その澄んだお湯が縁から床へ絶えず溢れ出ていました。
私の訪問時、湯船に取り付けられた温度計は42℃を指していました。館内の注意書きによれば、加水しすぎないように、とのこと。過度な加水は熱い湯船を好む組合員さんにとっては不本意でしょうし、水道代も跳ね上がっちゃいますから、地元の方にとってはなるべく避けたいことなのでしょう。従いまして私もここでは一切加水せずに入浴しました。


 
湯屋の屋根を支える大黒柱の表面にはサーモンピンクのタイルが貼られており、その下部にお湯の投入口が丸く口を開け、トポトポと熱いお湯を浴槽へ落としていました。使用源泉は前回記事で取り上げている「安代館」と同じく「共益会11号ボーリング源泉」で、湯口の下部には硫酸塩と思しき結晶が付着していましたが、食塩メインのお湯であるためか、析出はさほど多くなく、浴槽内部等に付着することもないようです。お湯の見た目は無色透明でクリアに澄んでおり、湯の花などの浮遊物は見られません。微かな塩味を有する他、わずかな石膏感や芒硝感も得られます。

私の入浴中も次々に組合員さんが訪れて、その日の汗を流した後、湯船に浸かって気持ちよさそうな表情を浮かべていらっしゃいました。風格ある湯屋で温泉を愛する地元の方々の生活文化に触れることができる、素敵な共同浴場でした。


共益会11号ボーリング
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 91.7℃ pH8.2 溶存物質1.623g/kg 成分総計1.623g/kg
Na+:362.1mg(76.17mval%), Ca++:64.6mg(15.59mval%),
Cl-:533.8mg(70.25mval%), Br-:2.7mg, I-:0.7mg, HS-:0.3mg, S2O3--:1.4mg, SO4--:257.0mg(24.96mval%), HCO3-:38.2mg, CO3--:7.0mg,
H2SiO3:202.3mg, HBO2:89.5mg,
(平成24年5月2日)

長野県下高井郡山ノ内町平穏

地元住民(組合員)および安代温泉の旅館宿泊客以外利用不可
備品類なし

私の好み:★★+0.5
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安代温泉 安代館 後編(古代風呂)

2015年12月22日 | 長野県
前回記事「前編(客室・龍宮風呂)」の続編です。

●古代風呂
 
旅館「安代館」にある2つのお風呂は、夕食の時間帯を境に男女が入れ替わり、翌朝までその区分は固定されます。私の訪問時の場合は、夕食後から翌朝チェックアウトまで「古代風呂」が男湯になりますので、夕食後、深夜、早朝と3度、その「古代風呂」を利用させていただきました。2階の共用洗面台の前にかかる朱塗りの太鼓橋を渡って、その奥にかかっている「ゆ」の暖簾をくぐります。


 
奥へ向かって窄まっている脱衣室には、壁に沿って籠が並んでおり、その手前のテーブル上にドライヤーや各種アメニティー類が用意されているのですが、これらと並んでなぜか手で持つタイプの電動マッサージ器がいくつも置かれていました。マッサージチェアを置くスペースがない代わりに、ハンディーマッサージ器を使ってねということなのかな。すっかり茶ばんで反り返っている相当古そうな張り紙によれば、ボイラーは遠距離にあるため、シャワーのお湯が出るまでには時間がかかるとのこと。


 
美人画を右に見ながら「浴室」へ。この出入口のドアに書かれた文字は、どうやら元々「溶室」だったらしく、後でウ冠を剥がして「浴室」にしたみたいですね。もし「溶室」だった場合、湯船に入ったら全身がドロドロと溶けちゃったりして。


 
前回記事で取り上げた「龍宮風呂」は大きな窓とアクア調の内装によって明るく開放的な印象を受けましたが、この「古代風呂」は窓が小さくて明るさは控えめ。奥行きのある空間なのですが、その真ん中ほどに、元々仕切り塀が立ちはだかっていたと思われるような痕跡が見られるため、もしかしたら2部屋あった浴室の仕切りを取り払って一室にしたのかもしれません。その仕切りらしき痕跡の奥側に主浴槽があり、手前側に洗い場、そして副浴槽が設けられています。
洗い場にはシャワー付きカランが3基並んでおり、その下にはなぜかカランの個数以上のシャンプー類が用意されていました。上述のようにシャワーのお湯はボイラーの沸し湯です。



タイル張りの主浴槽はカマボコのような形をしており、キャパは大体3人。槽を縁取っている黒御影石には温泉成分が分厚くこびりついて、元の素材がわからないほどクリーム色にコーティングされており、一方、槽内のタイルは所々がはがれて歯欠け状態になっていました。「古代風呂」という名称とは関係ありませんが、年季が入ったこの浴槽からお風呂が歩んできた長い年月を感じさせます。


 
私が泊まった晩は、なぜか湯口から注がれるお湯の量が絞られており、湯船の湯加減もかなりぬるめでした。「龍宮風呂」と同じく、湯船の傍には源泉のお湯が出てくるホースがありますので、コックを全開にしてお湯をたっぷり加えたのですが、なかなか温度が昇がらなかったので、考え方を変えて、長湯用の湯船として使わせていただきました。


 
一方、洗い場の近くにある副浴槽はコンパクトな木造で、せいぜい2人入って精一杯といった感じ。タイル張りで昭和の雰囲気が横溢しているこの「古代風呂」において、何が古代を意味しているのか正直なところよくわからないのですが、おそらくこの木材が古代となんらかの関係があるのでしょう。
表面を白い析出で覆われた筧から、アツアツのお湯が浴槽へ注がれており、タイル張りの主浴槽はぬるめでしたが、対称的にこちらはかなり熱く、体感で湯加減としては45℃はあったかと思います。無色透明のお湯ですが、湯中では木肌から剥がれた木の繊維と思しき茶色い浮遊物が舞っていました(形状から推測するに、湯の花ではなかったように思われます)。投入量は決して多くないものの、浴槽自体が小さいため、比較的早くお湯が入れ替わるらしく、お湯の鮮度は主浴槽よりもはるかに良好で、私はこの木の湯船にばかり入っていました。

「龍宮風呂」「古代風呂」ともに使用源泉は共益会11号ボーリング源泉で、この宿のほか安代地区の共同浴場などにも引かれています。見た目は無色透明。口に含むと微塩味が得られるほか、石膏感も弱いながら明瞭に伝わってきます。でも食塩がメインであるためか、石膏泉というより食塩泉らしい性格がよく出ており、湯船に体を沈めると、少々のトロミ、そして弱い引っかかりを伴うツルスベ浴感が感じられました。お湯の個性としては、すぐ隣の渋温泉よりも、ちょっと離れた湯田中温泉のお湯に近い印象を受けますが、湯田中の湯よりもさらに硫黄感(砂消しゴム的な感覚)が弱く、全体的にあっさりとして主張は控えめ。でも熱いお湯に浸かると心身がシャキッと蘇り、湯上がり後はいつまでも温浴効果が持続して、その熱を体内に籠らせたまま布団に潜ったところ、しっかりと熟睡することができました。

昭和の香りを強く残す古い建物のお宿ですが、料金は比較的リーズナブルですし、個性の異なる2つのお風呂で掛け流しのお湯を楽しめるところも良く、またお客さんのニーズに合わせて色々と融通を効かせるサービスを実施していているところも好感が持てます。すぐお隣の渋温泉やご近所の湯田中には飲食店もあるので、素泊まりで利用しても不自由しません。信州観光の拠点になる便利なお宿かと思います。


共益会11号ボーリング
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 91.7℃ pH8.2 溶存物質1.623g/kg 成分総計1.623g/kg
Na+:362.1mg(76.17mval%), Ca++:64.6mg(15.59mval%),
Cl-:533.8mg(70.25mval%), Br-:2.7mg, I-:0.7mg, HS-:0.3mg, S2O3--:1.4mg, SO4--:257.0mg(24.96mval%), HCO3-:38.2mg, CO3--:7.0mg,
H2SiO3:202.3mg, HBO2:89.5mg,
(平成24年5月2日)
館内に掲示されている分析書は平成14年のものでしたが、次回記事で取り上げる「安代大湯」にて平成24年分析の新しいデータが掲示されていましたので、ここではその新しいデータを紹介させていただきます。

長野電鉄・湯田中駅より徒歩20分(約1.5km)
長野県下高井郡山ノ内町平穏2305  地図
0269-33-2541
ホームページ

日帰り入浴時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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安代温泉 安代館 前編(客室・龍宮風呂)

2015年12月20日 | 長野県
 
今回の湯田中・渋エリアにおける湯めぐりでは、渋温泉の西端に隣接している安代(あんだい)温泉「安代館」で宿泊することにしました。明治35年創業という老舗のお宿で、安代温泉のシンボルと言うべき共同浴場「安代大湯」の手前左側に位置しており、渋温泉へとつながる温泉街の通りに面して建つ、細長い木造3階建の趣きあるお宿です。


●館内・客室
 
私が訪れたのは今年(2015年)の早春(いつもながら季節外れの記事で申し訳ございません)。玄関のホールにはお雛様が飾られていました。私が訪うと、気さくで陽気な女将さんが対応してくださり、お話しをしながらお部屋へと案内してくださいました。館内はいかにも昭和の木造旅館らしく、通路が複雑に入り組んでおり、途中で左右にクネクネ折れたり、小さな段を数カ所上がったりして行きますから、方向感覚が悪い方でしたら迷っちゃいそうな感じですが、昭和以前の旅館建築ではこのように館内動線を迷路のようにする例が多く、意図的に複雑な構造にすることによって非日常性を演出しているものと思われます。廊下の途中には小さな石庭を拵えられ和の趣きを醸し出していますが、これも非日常的な雰囲気を客に与えるアイテムのひとつと言えるでしょう。


 
今回お願いしたのは2食付きの一人旅プランで大体9,000円前後。通されたお部屋は8畳の和室で、石畳の温泉街を見下ろす明るいお部屋には、トイレや洗面台も備え付けられており、後述するように2食ともお部屋出しでしたので、お風呂以外はお部屋から出る必要もなく、部屋に籠ってのんびりと過ごすことができます。とはいえ、落ち着きのない私が部屋の中でジッとしていられるはずもなく、宿泊中には何度となくお部屋を出て温泉街を動き回ったわけですが、その行動内容についてはまた後日。


●食事
 
上述したように、この時は2食ともお部屋出しでした。
夕食はカモ鍋や馬刺し、マグロ赤身の山かけ、茶碗蒸し、そして信州名物のキノコを使った料理(肉詰め)などなど、お膳の上だけでは収まりきらないほど、たくさんの料理が提供され、全てを平らげたらお腹が苦しくなっちゃうほど、美味しくてボリューム満点でした。


 
朝食は焼きジャケやハムといった家庭的な献立のほか、朝の胃袋に優しい湯豆腐など、夕食に負けないほどの豪勢なラインナップ。お味噌汁の具になっているネマガリタケは女将が山で採ってきたものなんだとか。


●龍宮風呂
 
館内のお風呂は2室あり、夕食時を境に男女を入れ替えています。この男女の区分は廊下にもちゃんと掲示されていますので、これを確認の上で利用させていただきました。まずは夕食前まで男湯になっている「龍宮風呂」から。


 
「龍宮風呂」は2階へ上がって左側に進んだ突き当たりにあり、その手前には石庭や茶屋を思わせる装飾がしつらえられていました。華やかな宴が催される龍宮城のとば口をイメージしているのでしょうか。でも出入り口のドアに記された文字がいかにも昭和な感じです。


 
脱衣室は鰻の寝床のように細長い空間で、左側の棚には籠がずらっと並んでいます。


 

浴室は大きな窓ガラスから陽光が降り注ぐ明るい環境なのですが、この日は湯気が濃く籠っており、湯気とともに石膏臭も漂っていました。床には白や青の豆タイルが敷き詰められているほか、壁の一部にはガラスブロックが用いられており、こうした内装によって海のイメージを演出しているものと思われます。洗い場にはシャワー付きカランが3基並んでおり、ボイラーの沸し湯が出てくるのですが、ボイラーからカランまで距離があるらしく、お湯が出てくるまではちょっと時間がかかります。


 
 
浴槽はひょうたんを半分に割ったような形状をしており、槽内は水色のタイル張りで、縁は御影石なのですが、この御影石はよくある直線状にカットされたものではなく、波のような曲線状に加工されており、そのおかげで柔らかな印象を与えてくれます。あくまで私の想像ですが、床のタイルや壁のガラスブロックと同じく、おそらく海中の龍宮城を連想させるため、このような形状にしたのでしょうね。
白いトゲトゲの析出がサンゴのようにこびりついている湯口から、アツアツのお湯が落とされており、時折ボコッボコッと音を立てながらお湯を噴き出していました。この音は脱衣室まで響くほどの大音量なのですが、これは引湯に伴う音なんだとか。湯船を満たしたお湯は、波のような曲線を描く縁から洗い場の床へ溢れ出ており、湯使いは文句無しの掛け流しかと思われます。湯浴みした際に肌へ伝わる鮮度感も良好です。


 
洗い場のカランと並んで、温泉の熱いお湯が投入できるホースがあり、もし湯船がぬるい場合はこのホースでお湯を継ぎ足すんだそうですが、私の利用時にはこれを用いらずとも十分な湯加減が維持されており、むしろしっかり湯もみしないと熱いほどでしたので、入念にお湯をかき混ぜてから入浴させていただきました。このホースの蛇口にも白い析出が付着していますね。お湯の具体的なインプレッションについては、後編にて申し上げます。


後編につづく

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渋温泉 石の湯(おまけ:薬師堂の手水鉢)

2015年12月19日 | 長野県
 
 
渋温泉の共同浴場は、基本的に組合員か宿泊客のいずれかでないと利用できず、立ち寄り湯のような感覚で気軽に湯浴みするわけにはいきません。となれば、当地で日帰り入浴したければ、それを受け付けている旅館を訪れることになりますが、当地での日帰り入浴は意外とハードルが高く、事前に調べておかないとなかなかお風呂まで漕ぎ着けません。そんな当地で定休日以外はほぼ確実に入浴できる施設が今回取り上げる「石の湯」。その名前にふさわしい石造りの外壁を擁するファサードです。
橋の袂にある旅館組合総合案内処の並びに位置しており、川側の道路と一本裏の路地の両方に玄関が設けられています。車が通れる川に面した道路側にはピロティ式の駐車場がある他、路上にも専用の駐車スペースが用意されていました(ただし、いずれも台数僅少)。こちらは日帰り入浴専門の民間施設なのですが、喫茶および軽食の営業も兼ねており、食事目的ならお風呂に入らなくても利用可能のようです。


 
一方、こちらは裏路地側の玄関。屋号を篆書体で記した扁額がかかっており、一見すると旅館のような佇まいですね。一応、表の看板には「入浴」の2文字が書かれているものの、特に入浴歓迎といったような集客のための幟も札も出ていませんので、あらかじめ存在を知らなければ、ここで入浴できることに気づかないでしょう。両方の玄関ともに同じ処へつながっていますので、どちらから入っても大丈夫。


 
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。湯銭を支払った後は、そこそこ広い脱衣室を抜けて浴室へ。
浴室もまさに「石の湯」という屋号にふさわしい、岩や石材を多用した造りで。一部はコンクリが打ちっぱなしになっていました。室内には渋温泉らしい木材を燻したような香ばしい匂いと少々焦げたような匂い、そして微かな石膏臭が漂っていました。川側に開けられたたくさんの穴から光が差し込んでくるのですが、大きな窓ではないためその光量は限られており、室内に籠もった湯気で淡い光が拡散し、昼間なのに不思議と薄暗くちょっとミステリアスな雰囲気を醸し出していました。


 
脱衣室側から見て湯船は左右に2分割されており、入浴前のご主人の説明によれば「左側は熱いので右側に入ってください」とのこと。どういうことかと言えば、湯口の熱いお湯が直接注がれる左側の槽は熱く、そこから流れてくるお湯を受けている右側の槽は程よく冷めて丁度良い湯加減になっているということです。左右双方とも6人サイズの岩風呂で、槽内にはコバルトブルーのタイルが貼られていました。


 
洗い場にはシャワー付きカランが2基並んでおり、お湯を出したら篦棒に熱かったので、おそらく源泉のお湯を使っているものと思われます。右側の適温槽から洗い場へお湯が溢れ出し、床の豆タイルを絶えず漱いでいました。純然たる掛け流しの湯使いです。


 
上述したように右側の浴槽は入りやすい湯加減となっており、私の温度計では42.7℃と計測されました。人によってはちょっと熱く感じるかもしれませんが、しっかり掛け湯をすれば特に加水などはされておらず、単純に下流側であるためにこの温度まで下がっているわけです。


 
一方、湯口のお湯が直接注がれている左側の湯船は47.8℃という高温。この温度のお湯に入れる強者はなかなかいないでしょう。私は以前49℃のお湯にチャレンジしたことがありますが、気合を入れて歯を食いしばって堪えたものの、その時は10秒が限界でした。ここでそんな我慢はしたくないので、今回この熱い湯船には入っておりません。


 
 
ちなみに湯口では55.0℃。このお湯が滝のように落とされているわけですが、さすがに上から落とすだけでは入浴に適した温度まで冷めきらないようです。でも加水に頼らないという姿勢は立派ですね。湯口まわりの岩肌には白くてトゲトゲの結晶が分厚くビッシリとこびりついており、温泉によって生み出されたその造形に心を奪われて、しばし凝視してしまいました。


 
湯口の熱いお湯を逃がすために用いるパイプが立てかけてありましたが、私の訪問時は外されていました。早春の時季ですらこの熱さなのですから、夏季にはなかなか冷めずに、もっと熱くなってしまうのかな(そんな場合にこの逃し管を使うのでしょう)。湯口まわりに白く盛り上がっていた析出は、熱い槽の湯面上にもこびりついており、白い析出が岩肌の上で線状に付着していました。

さて肝心のお湯に関するインプレッションですが、見た目は無色透明で湯の花などは見当たらず、匂いに関しては上述した通りなのですが、湯口に鼻を近づけると。噴気帯から上がる火山ガスを彷彿とさせるような、鼻の奥をツンと軽く刺激する硫化水素臭が感じられました。またお湯を口に含むと、弱石膏味と弱芒硝味、そして硫化水素由来と思しきイオウの存在を思わせる風味が得られました。ツルスベの中に少々の引っ掛かりが混在し、入り応えがしっかりと伝わってきて、鮮度感も良好。なかなかクオリティの高いお湯でした。


●薬師堂の手水鉢
 
さて、風呂から上がって、涼みがてら石畳の温泉街を歩いていると、路沿いに小さな薬師堂を発見しました。その猫の額ほどの境内には小さな手水鉢が設けられていたのですが、何の気なしにこの鉢を覗いてみると、内部に張られた水が妙に青白いではありませんか。


 
よく見たら水が青白いのではなく、鉢の内側に青白いものがこびりついているようであり、しかも鉢に近づくだけでも強いタマゴ臭が香ってきます。これは間違いなく硫黄泉かそれに近い泉質の温泉ですね。塩ビ管から出てくるその温泉は30℃前後ですから、このままでは入浴に適さず、使い道がないので、このように手水鉢に落としているものと想像されます。試しにこの鉱泉を口に含んでみると、濃厚なタマゴの味と匂いが口腔に広がり、しかも時間差をおいて粘膜を痺れさせるような苦味まで伝わってきました。渋温泉でこんなにタマゴ感の強い源泉があるとは驚きです。きっと旅館組合かどこかに分析書があるのでしょうから、一度この源泉のデータを見て見たいものです。


(以下、「石の湯」に関するデータです)
石の湯
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 61.4℃ pH7.3 湧出量記載なし(掘削動力揚湯) 溶存物質1164mg/kg 成分総計1167mg/kg
Na+:243.9mg(70.58mval%), Ca++:69.6mg(23.08mval%),
Cl-:341.9mg(63.65mval%), Br-:1.7mg, I-:0.5mg, HS-:0.02mg, SO4--:223.8mg(30.77mval%), HCO3-:45.2mg,
H2SiO3:154.8mg, HBO2:49.3mg,
加水加温循環消毒なし

長野県下高井郡山ノ内町平穏2111-1  地図
0269-33-3171

10:00~21:00頃 火曜定休
500円
シャンプー類あり、他備品類なし

私の好み:★★
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渋温泉 多喜本旅館

2015年12月18日 | 長野県
 
石畳の路地がノスタルジックな風情を作り出している渋温泉。この温泉街の西端、安代温泉との境界付近に位置する「多喜本旅館」で日帰り入浴しました。温泉街のメイン通りに面する玄関は破風屋根を戴き、渋温泉の風情によく馴染んでいる純和風の旅館といった趣きです。日帰り入浴の利用が可能であるとの札も立てられていましたので、意気揚々と玄関を訪ったのですが、いくら声をかけても全く応答がありません…。


 
宿の敷地は反対側の川に面したバス通りまで達しており、こちら側にも玄関があるのですが、外観の装いは全く異なり、RC造と思しき3階建てで、玄関も自動ドアという雑居ビルのような雰囲気です。おそらくこちらは新館で温泉街側は旧館といった位置づけなのでしょう。山形県・肘折温泉にも同じように建物の裏と表の両サイドに玄関を設けているお宿が何軒かありますが、それとおなじような感じです。どうやら新しい建物の方がメイン棟として使われているらしく、この新しい側から館内に入ると、帳場にスタッフの方がいらっしゃり、入浴をお願いしますと快く受け入れてくださいました。こちら側の玄関では6代目三遊亭円楽師匠の大きな人形がお出迎え。円楽さんは楽太郎時代からこちらのお宿を長年にわたって贔屓になさっているんだとか。そういえばかつてのお弟子さん(伊集院光さん)が、師匠のお供で何度か渋温泉へ訪れたとラジオで話していたような記憶があるのですが、そのお宿はこちらのことを指しているのでしょう。


 
館内には三遊亭円楽や襲名以前の楽太郎の名前を冠したグッズがたくさん飾られていました。落語に詳しい方ならお分かりかと思いますが、館内のあちこちに飾られている三ツ組橘の紋は円楽一門のものですね。このように館内は円楽一門の色で染まっており、まるで一門に弟子入りしたかのような錯覚に陥ります。


 
中庭を眺めながら廊下を歩いて、温泉街側の古い建物へと向かいます。


 
温泉街側の玄関そばに浴場入口があり、男女別の内湯のほか、家族風呂や露天風呂など、館内には計4種類のお風呂があるのですが、男一人で突然やってきて、いきなり貸切風呂を使わせてくれとお願いするのは、節操が無く後ろめたいことのように思われたので、今回は男湯のみの利用とさせていただきました。


 
脱衣室はごく一般的な様式で、陶器の洗面台を採用するなど随所を適宜更新している形跡が見られますが、建物自体が相当疲れているらしく、歩いていると床が撓み、場所によっては床板を踏み抜きそうになりました。いや、不摂生な食生活を送って内蔵脂肪をたっぷりと蓄えてしまった私の問題でもあるのでしょうけど…。はぁ、俺、頑張って痩せなきゃ…。


 
観葉植物のヤシの鉢植えが置かれた浴室は、どこかトロピカルな雰囲気を漂わせつつも、脱衣室と同様に相応の年季も感じられ、おばあちゃんが無理してフラダンスを踊っているような少々シュールな佇まい。そんな室内には、湯気とともに石膏と芒硝が混ざったような匂いが籠っていました。タイル張りの室内の真ん中に曲線を描く大きな浴槽が据えられ、窓下に配置された洗い場にはシャワー付きカランが3基並んでいます。



全体的に曲線を描く浴槽は、心臓の断面図というべきか、はたまた金貨が入った袋というべきか、牡蠣の剥き身というべきか、とにかく下膨れをした独特の形状をしており、大きさとしては10人サイズ。縁を乗り越えてお湯が溢れ出るようなことはなかったのですが、窓下にはオーバーフロー管と思しき穴があいていましたし、底面には目皿もありましたので、こうした穴から排湯されているのでしょう。湯使いはおそらく放流式かと思われます。


 
 
浴槽の奥には岩がまるで渓谷のようにうずたかく積み上げられており、その岩の間から直に触るのが躊躇われるほど激熱のお湯が、細い滝のように落とされていました。湯口まわりの岩の表面には、ものすごく分厚くて白く、まるでサンゴ礁を思わせるようなトゲトゲの析出がびっしりとこびりついており、硫黄の影響なのかその一部はカスタードクリームを思わせる淡い黄色を帯びていました。

こちらのお宿では複数の源泉を使っており、公式サイトによれば、この男湯では「湯栄第2号」という源泉が使用されているんだとか。でも脱衣室に掲示されていた分析表には源泉名として「比良の湯」と記されており、どちらが正しいのかよくわかりません。ちなみに女湯では「荒井河原源湯」という別源泉が引かれているんだそうです。

男湯(岩風呂)で用いられているお湯は無色透明ですが、湯中には綿くずのような細かな浮遊物(おそらく湯の花)がチラホラ舞っています。お湯を口にしてみますと、石膏の味と匂いがしっかりと感じられるほか、うっすらとした芒硝感、そして弱いながらもはっきりと主張してくるタマゴのような味と匂いが伝わってきました。渋温泉でこれだけはっきりとしたタマゴ感が得られるのはちょっと意外かも。食塩泉らしいトロミを伴うツルスベ浴感の中に、硫酸塩泉らしい引っかかりが混在しています。湯口では激熱ですが、お湯の投入量が絞られているため、湯船では丁度良い湯加減です。お風呂こそ渋い造りですが、お湯の持つフィーリングはなかなか個性的。渋温泉に湧く源泉の多様性を実感させてくれるお風呂でした。こちらのお宿では他に2種類(この岩風呂を含めると計3種類)の源泉を引いているんだそうですから、いずれは一泊して全ての源泉を堪能してみたいものです。



私が「多喜本旅館」で立ち寄り入浴をした際に最も気になったことは、お風呂のことでも源泉のことでもなく、お隣で店を開いているお菓子屋さんの屋号についてでした。その名が「わかたけ」なのです。落語が好きな方ならお気づきかと思いますが、蛇足を承知で簡単に説明申し上げますと、今は亡き先代の円楽さん(かつて「笑点」で司会をつとめていた馬面のお師匠さん)は、いろんなゴタゴタがあって落語協会を脱退した後、東京の寄席の定席(新宿の末廣亭や上野の鈴本など)に出演できなくなった自分のお弟子さんたちに高座を用意するため、私財を投じて江東区の東陽町に寄席をつくりました。その寄席の名前こそ「若竹」なのであります。志こそ崇高でしたが、すぐ厳しい現実に直面し、数年で経営難に陥って早々に閉館してしまい、その後、先代円楽さんは借金の返済で大変なご苦労をなさったそうです。もちろん寄席「若竹」とこのお菓子屋さんは、たまたま同じ名前であっただけで、何の縁もゆかりも無いのでしょうけど、もしかしたら、当代の円楽さんが楽太郎時代に初めて当地を訪れた時、このお菓子屋さんと宿の並びに円楽一門と何かの縁を感じ、宿の湯に浸かりながら篤く慕っている先代の師匠の愛情に想いを寄せていたのかな、なんて勝手に想像してしまいました。

そんな私の下衆な勘ぐりはともかく、渋温泉では日帰り入浴を積極的に受け入れてくれる貴重な存在ですし、岩風呂で入れる源泉の個性も面白いので、当地での湯めぐりにおいては、訪れる価値がある一湯かと思います。


(男湯「岩風呂」)
比良の湯
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 pH4.78 湧出温記載なし 成分総計1293mg/kg
Na+:256.7mg(65.49mval%), Ca++:95.26mg(27.89mval%), Mg++:8.09mg,
Cl-:289.7mg(48.40mval%), SO4--:412.1mg(50.87mval%),
H2SiO3:161.5mg, HBO2:38.22mg,
(昭和50年4月22日)

長野県下高井郡山ノ内町平穏2279  地図
0269-33-3245
ホームページ

日帰り入浴時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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