黒川温泉テイストなお宿やアジアンテイストな施設など、現代のニーズに合わせた施設がしのぎを削り合っている平山温泉にあって、昔ながらの渋くて鄙びた風情を残す「すやま温泉」は、お湯の質の良さゆえ、温泉ファンから好評を得ている小規模旅館です。細い路地を進んだ先にあり、一応ピロティ形式の駐車場があるのですが、構内は狭いため、大きな車や狭い駐車場に不安のある方は、県道沿いにある離れの駐車場の利用がよろしいかと思います。
私が訪れた日には玄関前の藤棚の花が満開。藤棚の下を潜ると、上から降ってくるいい香りに包まれました。
藤の花だけではありません。宿の裏手に広がる畑はレンゲの花で埋め尽くされていました。藤棚といいレンゲといい、何とも麗らかで長閑な春の景色に、思わずウットリ(季節感のない記事で申し訳ございません)。
まるで民家のような佇まいの玄関を入って帳場へ声をかけると、おばあちゃんが出てきて対応してくださいました。帳場ではささやかながらも、お土産のお菓子やみかんが売られており、そうしたアイテムや各種什器が、ここが民家ではなく、れっきとした宿であることを誇示しているようでした。
玄関及び帳場から廊下を左へ進み、右手に座敷を見ながら先へ進んだ突き当たりが浴室。手前側が男湯で、奥へ回った先が女湯です。男湯手前にはロッカーが備え付けられていました。脱衣室は4畳あるかないかといった程度のコンパクトな空間で、白い棚があるばかりなのですが、扇風機はおろかエアコンまで取り付けられており、クールダウン対策にぬかりありません。
タイル張りの浴室は実用的な趣きですが、小川に面しており2方向に窓があいているため、日中ならば照明なしでも十分に明るく、陽光を受けて湯船の湯面が煌めいていました。室内に入るとふんわりとしたタマゴ臭が香っており、お湯への期待を高めてくれます。洗い場にはシャワー付きカランが⒋基取り付けられており、カランから出てくるお湯は源泉です。
室内には趣きや大きさが異なる二つの浴槽があり、それぞれから床へオーバーフローするお湯のため、床の排水口で排湯が渦を巻いていました。それだけお湯の投入量が多いんですね。
小さな浴槽は3人サイズで、黒御影石の縁に淡いラベンダー色のタイル張りという造りなのですが、不思議なことに槽内のタイルはお湯に浸かると青白く見えます。お湯自体は無色透明でとってもクリア。後述する湯口より源泉から直接惹かれているお湯がドバドバと注がれており、湯船のお湯は非常にフレッシュ。湯面には気泡が浮かび、湯中では無数の気泡が舞っています。そんなお湯に浸かってみますと、全身がアワアワに包まれました。このお湯はトロミがあり、ツルツルスベスベ浴感がとても気持ち良く、アワアワのおかげで滑らかさが増し、入浴中は夢見心地でした。
小さな浴槽の湯口は上向きの塩ビ管で、端が欠けてデコボコなのですが、なぜか私はこうした朽ちた姿に魅力を感じてしまいます。自分の心情ながら上手く説明できないのですが、この形状には、長年にわたってお湯を噴き出し続けてきた形跡や実績が表れているように思えたのでしょう。こんな感性ってマニア独特のものでしょうね。壁の吸盤フックに引っ掛けられているコップで飲泉してみますと、まず濃いタマゴ味が口の中に広がり、遅れて喉の奥にこびりつくような苦味が得られました。そして浴室内に充満しているタマゴ臭も湯口やコップからしっかり漂っていました。味・匂いともにタマゴ感が強く、硫黄の温泉が好きな方にはたまらない質感です。
大きな浴槽は、縁は小浴槽と同じく黒御影石ですが槽内は石板張り。しかもこの石板が黒い素材であるため、全体的に黒い色調で統一されています。また浴槽の上の壁には岩の装飾が施されているため、岩風呂のような印象も受けます。容量としては6~7人サイズ。大きな浴槽専用の湯口もあるのですが、吐出量は小浴槽の湯口よりはるかに少なく、どちらかと言えば小浴槽から仕切りを越えて流れてくるオーバーフローの方が多いかも。そんな状況ですから、
湯加減も小浴槽より若干ぬるめですし、お湯の鮮度感も小浴槽の方が断然に良好です。
私は小浴槽が気に入ってしまい、後客で混雑し始めるまで、体が茹で上がるのを覚悟の上で、飲泉を繰り返しながら小浴槽に入り続けました。後を引く、実に素晴らしいお湯でした。
温泉分析表見当たらず
すやま温泉源泉
アルカリ性単純温泉 47℃ 102L/min
加水あり(高温のため10%程度井戸水を加水)
熊本県山鹿市平山56-2 地図
0968-43-5175
日帰り入浴8:00~20:00
300円
ロッカー
私の好み:★★★