温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

渋温泉 石の湯(おまけ:薬師堂の手水鉢)

2015年12月19日 | 長野県
 
 
渋温泉の共同浴場は、基本的に組合員か宿泊客のいずれかでないと利用できず、立ち寄り湯のような感覚で気軽に湯浴みするわけにはいきません。となれば、当地で日帰り入浴したければ、それを受け付けている旅館を訪れることになりますが、当地での日帰り入浴は意外とハードルが高く、事前に調べておかないとなかなかお風呂まで漕ぎ着けません。そんな当地で定休日以外はほぼ確実に入浴できる施設が今回取り上げる「石の湯」。その名前にふさわしい石造りの外壁を擁するファサードです。
橋の袂にある旅館組合総合案内処の並びに位置しており、川側の道路と一本裏の路地の両方に玄関が設けられています。車が通れる川に面した道路側にはピロティ式の駐車場がある他、路上にも専用の駐車スペースが用意されていました(ただし、いずれも台数僅少)。こちらは日帰り入浴専門の民間施設なのですが、喫茶および軽食の営業も兼ねており、食事目的ならお風呂に入らなくても利用可能のようです。


 
一方、こちらは裏路地側の玄関。屋号を篆書体で記した扁額がかかっており、一見すると旅館のような佇まいですね。一応、表の看板には「入浴」の2文字が書かれているものの、特に入浴歓迎といったような集客のための幟も札も出ていませんので、あらかじめ存在を知らなければ、ここで入浴できることに気づかないでしょう。両方の玄関ともに同じ処へつながっていますので、どちらから入っても大丈夫。


 
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。湯銭を支払った後は、そこそこ広い脱衣室を抜けて浴室へ。
浴室もまさに「石の湯」という屋号にふさわしい、岩や石材を多用した造りで。一部はコンクリが打ちっぱなしになっていました。室内には渋温泉らしい木材を燻したような香ばしい匂いと少々焦げたような匂い、そして微かな石膏臭が漂っていました。川側に開けられたたくさんの穴から光が差し込んでくるのですが、大きな窓ではないためその光量は限られており、室内に籠もった湯気で淡い光が拡散し、昼間なのに不思議と薄暗くちょっとミステリアスな雰囲気を醸し出していました。


 
脱衣室側から見て湯船は左右に2分割されており、入浴前のご主人の説明によれば「左側は熱いので右側に入ってください」とのこと。どういうことかと言えば、湯口の熱いお湯が直接注がれる左側の槽は熱く、そこから流れてくるお湯を受けている右側の槽は程よく冷めて丁度良い湯加減になっているということです。左右双方とも6人サイズの岩風呂で、槽内にはコバルトブルーのタイルが貼られていました。


 
洗い場にはシャワー付きカランが2基並んでおり、お湯を出したら篦棒に熱かったので、おそらく源泉のお湯を使っているものと思われます。右側の適温槽から洗い場へお湯が溢れ出し、床の豆タイルを絶えず漱いでいました。純然たる掛け流しの湯使いです。


 
上述したように右側の浴槽は入りやすい湯加減となっており、私の温度計では42.7℃と計測されました。人によってはちょっと熱く感じるかもしれませんが、しっかり掛け湯をすれば特に加水などはされておらず、単純に下流側であるためにこの温度まで下がっているわけです。


 
一方、湯口のお湯が直接注がれている左側の湯船は47.8℃という高温。この温度のお湯に入れる強者はなかなかいないでしょう。私は以前49℃のお湯にチャレンジしたことがありますが、気合を入れて歯を食いしばって堪えたものの、その時は10秒が限界でした。ここでそんな我慢はしたくないので、今回この熱い湯船には入っておりません。


 
 
ちなみに湯口では55.0℃。このお湯が滝のように落とされているわけですが、さすがに上から落とすだけでは入浴に適した温度まで冷めきらないようです。でも加水に頼らないという姿勢は立派ですね。湯口まわりの岩肌には白くてトゲトゲの結晶が分厚くビッシリとこびりついており、温泉によって生み出されたその造形に心を奪われて、しばし凝視してしまいました。


 
湯口の熱いお湯を逃がすために用いるパイプが立てかけてありましたが、私の訪問時は外されていました。早春の時季ですらこの熱さなのですから、夏季にはなかなか冷めずに、もっと熱くなってしまうのかな(そんな場合にこの逃し管を使うのでしょう)。湯口まわりに白く盛り上がっていた析出は、熱い槽の湯面上にもこびりついており、白い析出が岩肌の上で線状に付着していました。

さて肝心のお湯に関するインプレッションですが、見た目は無色透明で湯の花などは見当たらず、匂いに関しては上述した通りなのですが、湯口に鼻を近づけると。噴気帯から上がる火山ガスを彷彿とさせるような、鼻の奥をツンと軽く刺激する硫化水素臭が感じられました。またお湯を口に含むと、弱石膏味と弱芒硝味、そして硫化水素由来と思しきイオウの存在を思わせる風味が得られました。ツルスベの中に少々の引っ掛かりが混在し、入り応えがしっかりと伝わってきて、鮮度感も良好。なかなかクオリティの高いお湯でした。


●薬師堂の手水鉢
 
さて、風呂から上がって、涼みがてら石畳の温泉街を歩いていると、路沿いに小さな薬師堂を発見しました。その猫の額ほどの境内には小さな手水鉢が設けられていたのですが、何の気なしにこの鉢を覗いてみると、内部に張られた水が妙に青白いではありませんか。


 
よく見たら水が青白いのではなく、鉢の内側に青白いものがこびりついているようであり、しかも鉢に近づくだけでも強いタマゴ臭が香ってきます。これは間違いなく硫黄泉かそれに近い泉質の温泉ですね。塩ビ管から出てくるその温泉は30℃前後ですから、このままでは入浴に適さず、使い道がないので、このように手水鉢に落としているものと想像されます。試しにこの鉱泉を口に含んでみると、濃厚なタマゴの味と匂いが口腔に広がり、しかも時間差をおいて粘膜を痺れさせるような苦味まで伝わってきました。渋温泉でこんなにタマゴ感の強い源泉があるとは驚きです。きっと旅館組合かどこかに分析書があるのでしょうから、一度この源泉のデータを見て見たいものです。


(以下、「石の湯」に関するデータです)
石の湯
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 61.4℃ pH7.3 湧出量記載なし(掘削動力揚湯) 溶存物質1164mg/kg 成分総計1167mg/kg
Na+:243.9mg(70.58mval%), Ca++:69.6mg(23.08mval%),
Cl-:341.9mg(63.65mval%), Br-:1.7mg, I-:0.5mg, HS-:0.02mg, SO4--:223.8mg(30.77mval%), HCO3-:45.2mg,
H2SiO3:154.8mg, HBO2:49.3mg,
加水加温循環消毒なし

長野県下高井郡山ノ内町平穏2111-1  地図
0269-33-3171

10:00~21:00頃 火曜定休
500円
シャンプー類あり、他備品類なし

私の好み:★★
コメント (2)
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