温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

千古温泉

2017年01月11日 | 長野県

昨年(2016年)は大河ドラマの影響で真田氏にゆかりのある土地が盛り上がったそうですが、そんな真田氏が発祥したといわれている旧真田町(現上田市)の「千古温泉」へ立ち寄ってひとっ風呂浴びてまいりました。私が訪問した昨年冬、瓦を戴く看板は真田の六文銭が描かれた赤い幟を両脇に侍らせていました。かつては支配階級であった武家の家紋が、いまでは鉱泉の看板の両脇に立って仕えているのですから、数百年に及ぶ時の移ろいは、権力と支配の関係を完全に逆転させたようです。


 
集落から外れて洗馬川の岸へ向かい、そこからヘアピンカーブの坂道を下って川岸へほとりにある建物へ。


 
玄関に掲げられた表札には「真田ゆかりの湯」と記されていました。どんな所縁があるのかな? いかにも旅館のような建物であり、実際に以前は宿泊業を営んでいましたが、現在では日帰り入浴のみの営業となっています。



すぐ目の前を洗馬川が流れています。ここからちょっと上流へ遡ると、真田十勇士の霧隠才蔵が忍法を修行したとされる千古の滝が飛沫をあげて轟いており、温泉名はその滝に因んだものと思われます。でも「真田十勇士」は明治期に創作されたフィクションですから、滝で修行をしたという伝説も一種の御伽話なのでしょう。尤も、忍術の使い手を自称する偏屈な爺さんが滝に打たれていたことなら、過去にあったのかもしれませんけどね。


 
建物の外側や駐車場には薪がたくさん積まれていました。


 
そもそも旅館だった館内は和風で落ち着いた雰囲気。ロビーにはアンティークな箪笥が置かれ、薪ストーブが赤い炎を上げながら室内にぬくもりをもたらしていました。表に積まれていた薪はここで使われていたんですね。


 
帳場で湯銭を支払って浴場へ。館内に掲示されている注意書きで目を惹くのが、右(下)画像の一枚。そこには「湯壷に沈殿する黒い粒子は湯花です(マンガン(Mn)という成分)。体には無害な物で軽石で洗っていただきますときれいに落ちます」と説明されています。各地の温泉ではしばしば湯の華や沈殿に関する説明が掲示されていますので、はじめのうちはその手のものと同じかと思い込んで一顧だにしなかったのですが、そこに何気なく記されている「軽石で洗っていただきますときれいに落ちます」という一文が、実はこの温泉の特徴を端的に表現するタダならない文言であることに気づいたのは、湯船に入った後のこと。詳しくはまた後ほど。


 
浴室は男女別の内湯のみ。民宿のお風呂をひと回り大きくしたようなコンパクトな作りですが、浴槽や床などお湯がかかりやすいゾーンには石材や石板タイルが用いられ、非日常的な空気感が醸し出されています。私の訪問時には、窓から斜めに降り注ぐ外光が、まるでスポットライトのように浴槽を照らし、透明なお湯がより一層美しく映えていました。


 
洗い場にはシャワー付きカランが2基並んでおり、シャンプー類と一緒に軽石が備え付けられていました。先ほどの掲示に書かれていた軽石とはこれのことですね。各地の温泉旅館を巡っていると、踵の角質を落とす軽石を備え付けるお風呂と偶に遭遇しますので、湯船に入る前の私はてっきりその手の類かと思い込み、はじめのうちは「あぁ、ここにもあるんだな」程度にしか認識していなかったのですが、まさか湯船に入った後、この軽石のお世話になるとは思ってもいませんでした…。


 
石板とセラミックのタイルを組み合わせた浴槽は3人サイズ。角のRが見た目に柔らかな印象をもたらしています。
分析書によれば源泉温度は24.2℃ですから、温泉法の規定では温泉ではなく冷鉱泉となります。あと0.8℃あれば温泉を名乗れるのですから、季節や外気温など状況によってはれっきとした温泉になるのかもしれませんね(※)。源泉温度が低いために加温した上で浴槽へ注がれているのですが、湯船に張られたお湯は循環せず放流式でかけ流されていますのですから、その贅沢な湯使いには感嘆せずにいられません。冷鉱泉を加温掛け流しにしているのですから、オーナーさんは相当ご苦労なさっていることとお察しします。でもそのお蔭で良い状態のお湯を楽しむことができるわけですね。オーナーさん、ありがとうございます。
(※)日本の温泉法では、25℃を温泉と冷鉱泉のボーダーラインとして規定しています。

お湯は無色透明で湯の華などは特に見られません。分析書によれば総硫黄が12mgも含まれているのですが、実際には湯口に鼻を近づけると僅かにタマゴ臭が嗅ぎ取れるだけでしたので、おそらく加温によって匂いが飛んでしまうのでしょう。でも、口に含むと口腔の粘膜に渋みのような苦味を残すタマゴ味が広がりましたので、味覚面では硫黄感がしっかり残っているといって良いでしょう。


 
このお風呂における大きな特徴のひとつは、入浴時の泡つきです。源泉由来か、あるいは加温など後天的な影響なのか、詳細な理由は不明ですが、湯船に浸かると全身が細かな気泡に覆われ、このおかげでとってもエアリーな感覚に抱かれるのです。お湯自体もツルツルスベスベの滑らかな浴感なので、その滑らかさにエアリー感が加わり、実に柔らかで軽やかなフィーリングに包まれました。



もう一つの特徴は、浴槽に触れた肌が真っ黒になることです。気泡が付着する温泉は全国的に見られますが、肌が黒くなる温泉は僅少であり、しかもその多くは硫化鉄によるものですので(同じ信州で具体例を挙げれば、七味温泉「渓山亭 恵の湯」など)、お湯が白濁するなど硫黄泉の特徴がはっきりと現れるのが通例です。しかしながら、こちらの場合は先述のように源泉における総硫黄こそ多いものの、湯船ではその感覚が弱まっており、沈殿らしきものも見当たらなかったので、湯船から上がった自分の手のひらや足の裏が真っ黒に染まっているのを見て、とっても驚きました。先ほどの説明書きによれば、この黒ずみは鉱泉に含まれるマンガンに起因する現象のようです。湯船に入ってここまで黒くなるお風呂は非常に珍しいのではないでしょうか。
これをご覧になって、是非とも誤解していただきたくないのは、この黒ずみは千古温泉独特の成分がもたらす影響なのであり、決してお風呂自体に問題があるわけではないということ。浴室は大変きれいに維持管理されていますので、断じて汚れなどではありません。むしろ源泉の個性をできるだけ残して活かす形で提供されているからこそ、こうした現象が起きるのだと思います。黒くなった手や足は、ボディーソープをつけた軽石でゴシゴシ洗うときれいになりますので心配ご無用。一見すると大人しくて没個性のお湯なのかと思っていたのですが、実は非常に強い個性を持つ面白い鉱泉だったのでした。このお風呂に入れば足の裏が黒くなりますから、どんな悪人でも湯上がり後は足跡がついちゃって、疚しいことを犯せなくなりますね。真田ゆかりの鉱泉は、悪事を許さない正義の湯と言えるのかもしれません。


アルカリ性単純硫黄冷鉱泉 24.2℃ pH8.5 溶存物質548.8mg/kg 成分総計549.2mg/kg
Na+:140.6mg(74.90mval%), Mg++:0.6mg, Ca++:38.7mg(23.62mval%), Fe++:0.04mg, Mn++:痕跡
Cl-:188.1mg(64.98mval%), Br-:0.7mg, I-:0.3mg, HS-:11.5mg, S2O3--:0.1mg, SO4--:74.5mg(18.97mval%), HCO3-:49.8mg(10.03mval%),
H2SiO3:22.0mg, HBO2:15.6mg, H2S:0.4mg,
(平成21年9月11日)
加水循環消毒なし
加温あり

長野県上田市真田町長6395  地図
0268-72-2253

10:00~20:00 毎月20日休館(土・日・祝日の場合はその翌日)
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (2)
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半過観音・大慈の湯

2017年01月10日 | 長野県
信州の温泉が連続して紹介しておりますが、文章量の多い記事が続いたので、ここで息抜き代わりに、ちょっとした小ネタを挟ませていただきます。千曲川の左岸に沿って坂城・長野方面と上田を結ぶ県道の近くには、温泉マニアの方には有名な鉱泉のスタンドがありますので、立ち寄ってみることにしました。


 
県道の路傍には鉱泉の場所を示す標識が立っていますので、そこを曲がって畦道のような短い路地に入ります。路地は途中まで舗装されていますが、それ以降は未舗装なので、私の訪問時には雪がしっかり積もっていました。でもタイヤ跡が残っているということは、比較的近い時間にここを訪れた人がいるってことですね。


 
路地が山に突き当たる箇所に、ブルーシートが被せられたコンクリの躯体を発見。これが今回の目的地である「半過観音・大慈(いつくしみ)の湯」です。目の前には立派な標識が掲示されていました。


 
残念ながらここでの入浴は不可。大きなコンクリの躯体からホースが伸びており、そこから鉱泉を汲んで持ち帰るためだけの施設です。早い話、温泉スタンドみたいなものですね。ということは、コンクリ躯体は貯水(湯)槽なのでしょう。


 
バルブを開けると、ホースの先っちょに接続された塩ビ管から無色透明の液体がドバドバと吐出されました。「湯」とネーミングされていますので、湯気が上がることをちょっと期待しながらその液体を触ってみたのですが、ちっともお湯ではなく、水道水と同じような冷たさにびっくり。温度計で測ってみたら11.5℃でした。あたりは雪景色ですから、万一ビニールプールを持参していたとしても、寒空の中でこの冷たい鉱泉に入るわけにはいきません。夏季の温度はわかりませんが、山の北側の日陰で且つ雪に覆われている状態ですから、もし湧出時にもう少し高い温度であったとしても、冷え切ったコンクリ貯水槽に溜められているうち、どんどん熱を奪われていくのでしょうね(あるいは、そもそも湧出温度が低いのかもしれません)。でも、この鉱泉を触ると滑らかな感覚があり、マイルドながら焦げたような硫黄の味とタマゴ臭が感じられましたので、単なる湧き水ではない、硫黄を含む立派な鉱泉であることがわかります。でもこの鉱泉を持ち帰る人は、一体どのようにして活用するんだろう? そもそも、ここには観音様なんて祀られていないのに、どうしてこの鉱泉が観音の慈しみなのだろう? いろんな疑問が次から次へと湧いてくる不思議な鉱泉でした。


泉質名など不明

場所の特定は控えさせていただきます

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上山田温泉 山風荘

2017年01月08日 | 長野県

昨年冬に上山田温泉を訪れた際には、旅館「山風荘」で一晩お世話になりました。


 
目の前には飲泉所「恵の泉 湯のみ処」があり、徳利の形をした湯口より盃のような受け皿に向けて、上山田温泉株式会社が供給している城山源泉のお湯が注がれていました。もちろん自由に無料で飲泉することができるので、私もお湯を飲ませていただきましたが、このお湯は「山風荘」にも引かれていますので、お湯に関するインプレッションは後ほど。


●客室・お食事
 
家族経営のお宿らしく、館内ではお子さんの姿も見られ、とってもアットホームな雰囲気です。この日通された客室は2階の和室で、7畳半と3畳を障子で二間に分ける間取りになっていました。室内にはテレビ・エアコン・冷蔵庫など一般的な家電類のほか、洗面台、洗浄便座付きのトイレなどの備え付けもあり、お風呂以外は室外に出る必要が無いのでとても便利です。


 
夕食はお部屋出し。すき焼き・お造り・天ぷらといったお馴染みのラインナップに加え、鯉甘露煮や蕎麦など信州ならではの味覚も加わり、彩り豊かでとても美味しいお食事でした。



翌朝の朝食は大広間で他の宿泊客と一緒にいただきました。


●浴場
 
さて本題のお風呂へと向かいましょう。1階フロントの右奥に浴室の暖簾が掛かっていました。


 
窓から陽光が降り注ぐ明るい浴室。ドアを開けた瞬間、温泉由来のタマゴ臭がプンと香ってきました。温泉が好きな方なら、その芳香を嗅ぐと誰しもが条件反射で興奮するはずです。室内の窓下に浴槽が据えられている他、壁に沿って洗い場が配置され、真湯が出てくるシャワー付きカランが7基一列に並んでいます。


 
浴槽はホームベースを横に潰したような六角形をしており、浴槽内にはスカイブルーのタイル張りで、縁取りはワインレッドの御影石。最大寸法で2m×4.5mというゆとりのあるサイズなので、足を伸ばしてゆったり湯浴みできます。湯口から注がれるお湯は城山1号・2号・3号の混合泉。先述した飲泉所「恵の泉 湯のみ処」の他、数日前に取り上げた「瑞祥 上山田本館」の露天主浴槽にも使われており、「瑞祥」の露天でははっきりと白濁していましたが、こちらは外気の影響を受けにくいためか比較的透明度の高い状態が保たれており、槽内のステップが目視できる程度の灰白色微濁に抑えられています。とはいえこの手の濁りはコンディションによって変貌しますので、宿泊中に3回入浴しましたが、その時々によって濁り方や色合いが微妙に異なっていました。

お湯を口に含むと、焦げたような苦味を伴うタマゴ味が得られ、しっかりとしたタマゴ臭が香ってきます。投入量の調整が絶妙なので、湯加減良好。トロミのある適温湯に肩まで浸かると、全身がツルスベ浴感に包まれ、心身ともに癒されて日頃のストレスをすっかり忘却することができました。



湯中では白い湯の華の他、黒い羽根状の湯の華も混じって舞っています。お湯には細かな粒子が含まれており、それらは沈殿となる一方、一部は舞い上がって濁りの要因となっています。湯使いは完全放流式であり、浴槽のお湯は御影石の縁の上から溢れ出ているのですが、その縁は流れ出る温泉が残していった白い粒子で覆われていましたので、そこに指先で温泉マークを書いてみますと、上画像のようにはっきりと描けました。


 
浴室のドアを開けると、坪庭のようなコンパクトな空間に日本庭園風の露天岩風呂が設えられています。市街地の中ですから目隠しの塀で囲われており、それゆえ閉塞感は否めませんが、塀の上からは雪化粧の山(城山史跡公園)を眺めることができました。


 
この岩風呂は3〜4人サイズ。内湯と同じ源泉が引かれていますが、外気の影響を受けるために白濁が強く、湯加減もぬるめです。しかしながら岩の上から落とされるお湯の量はそこそこ多く、内湯から流れてくるお湯も受けていますので、お風呂からはかなりの量のお湯が溢れ出ていました。


 
この露天は夜が秀美。うまい具合にライティングされており、趣きを増すことによって、塀に囲われた坪庭が一幅の絵のような光景に生まれ変わりました。なお塀の向こうの山では夜になると、ご当地名物のネオンが輝きます。


城山1号・2号・3号源泉の混合泉
単純硫黄温泉 44.8℃ pH8.3 溶存物質610.6mg/kg 成分総計613.5mg/kg
Na+:146.3mg(76.62mval%), Ca++:33.1mg(19.88mval%),
Cl-:172.1mg(56.96mval%), HS-:7.30mg, S2O3--:0.5mg, SO4--:97.2mg(23.72mval%), HCO3-:82.0mg(15.74mval%),
H2SiO3:58.6mg, H2S:0.4mg, 
(平成21年7月1日)
加水加温循環消毒なし

長野県千曲市上山田温泉2-30-3  地図
026-275-1262
ホームページ

日帰り入浴に関しては不明(500円?)
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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新戸倉温泉 戸倉国民温泉

2017年01月07日 | 長野県
 
名湯として温泉ファンの間でよく知られている「戸倉国民温泉」は、温泉ファンのみならず地元の方からも人気を博しており、いつ訪れても大変賑わっています。私もいままで何度か入湯しているのですが、昨年冬の某日にも訪れたので、今回はその時の記録を取り上げさせていただきます。ちなみに拙ブログでは初登場です。


 
昨年冬は閉店間際の夜遅い時間に訪れました。「国民温泉」の看板下を貫く通路を通って、男女別に分かれた出入口より浴場へ向かいます。館内は典型的な銭湯スタイルで、玄関入ってすぐのところにある番台で湯銭を支払い、その先に広がる脱衣室で更衣します。
男女の脱衣室を隔てるパーテーションの上には、自家源泉を誇らしげにアピールする、この浴場おなじみのプレートが掲示されており、そこには「ほんものの温泉 当浴場は、浴槽・シャワー・カランにいたるまで、すべて100%の源泉水の掛け流しとしております。また、飲用の許可も受けておりますので御利用下さい」と記されていました。私がはじめてこちらを利用した時(十年以上前)には、まだ各地の温泉事情をわかっていなかったため、その文言の価値がいまいち掴めなかったのですが、全国の温泉を巡りながら再訪を重ねてゆくうちに、すべてに温泉を利用するということがいかに贅沢で貴重であるかを理解し、この浴場って凄いところなんだと改めて認識したのでした。


 
冬の夜なので暗い上に曇っており、見難い画像ですいません。この日も大賑いでしたが、夜9時半を過ぎて閉店時間が近づくとお客さんも徐々に減りはじめ、ついに私一人になってしまいました。いつも混んでいるこの温泉を独占できるだなんて、夢にも思いませんでした。
浴室の基本的なレイアウトは初訪問時からほとんど変わっていないのですが、昔からのお風呂を維持するために小さな修繕が繰り返されているようです。今回気づいた点としては、照明がLEDに取り替えられて、場内の照度が上がっていました。男女両浴室を仕切る塀に沿って洗い場が配置されており、押しバネ式のカランと固定式シャワーの組み合わせが計10セット並んでいます。上述のように、お湯のカランやシャワーから出てくるお湯は源泉そのままであり(シャワーはぬるめ)、そのお湯を頭から被ると、全身がツルスベの滑らかな感覚に包まれるだけでなく、芳しいタマゴ臭にも覆われるので、タマゴ臭が大好きな私としてはここを利用する度に大興奮してしまいます。


 
浴槽はアメーバみたいな形状をしており、浴槽内はスカイブルー、縁取りは紺色のタイルが用いられています。右奥の方は浅くなっており、その最奧には水瓶を抱えたヴィーナスの石膏像が立っています。一方、ひょうたんの下半分は一般的な深さで、10人程入れるキャパを有し、縁と同じ紺色のタイルが貼られたボックス状の湯口よりお湯がふんだんに注がれています。
湯船のお湯は無色透明で、湯船に浸かり続けていると、肌に細かな気泡が付着しました。そしてツルツルスベスベの大変滑らかな浴感で全身が包まれ、まるで化粧水の中に浸かっているかのような夢心地を楽しめます。


 
湯口からふんだんに注がれるお湯は、熱くなったりぬるくなったりを繰り返していました。分析書によれば源泉温度は40.0℃なので、湯船の状況に応じて適宜加温されているのでしょう。備え付けのコップで飲泉しますと、やや焦げたような感じのほろ苦味を伴うタマゴ味が口の中に広がり、香ばしいタマゴ臭が鼻から抜けていきました。まろやかな喉越しなので、ついおかわりしたくなるほど。冷やして飲んだらもっと美味しいかもしれません。
湯船のお湯は紺色の縁から溢れ出ているほか、槽内の配管を通じて洗い場にあけられた3つの穴からも排出しています。戸倉や上山田の温泉施設では、このよう洗い場の床にあいたオーバーフロー管から浴槽のお湯を排出する方式が多く見られ、前回記事の「瑞祥」もそのひとつですが、なぜ当地ではこの方式の採用例が多いのでしょう…。
とにもかくにも、何度訪れてもお湯の良さに惚れ惚れしてしまう、まさに全国民が納得の素晴らしい温泉でした。


戸倉国民温泉2号泉
アルカリ性単純温泉 40.0℃ pH9.1 270L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質0.3037g/kg 成分総計0.3037g/kg
Na+:79.9mg(91.77mval%),
F-:11mg, Cl-:49.8mg(36.93mval%), OH-:0.2mg, HS-:1.6mg, SO4--:46.4mg(25.59mval%), HCO3-:45.8mg(19.78mval%), CO3--:16.5mg(14.51mval%),
H2SiO3:52.0mg,
(平成23年7月14日)

しなの鉄道・戸倉駅より徒歩12分(約1km)
長野県千曲市大字戸倉芝宮2228-2  地図
026-275-0457
ホームページ

8:45〜21:45 原則的に第一火曜定休(異なる場合もあり。事前に公式サイトでご確認を)
300円
ロッカーあり、ドライヤー(有料)あり、石鹸等番台で販売

私の好み:★★★
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上山田温泉 瑞祥 上山田本館

2017年01月06日 | 長野県
 
今回記事から連続して、昨年冬に訪れた信州の温泉を取り上げます。まずは日帰り専門の温泉入浴施設「瑞祥 上山田本館」から。妻面に施設名を表した和の趣きの建物はかなり大きく、単なる温泉浴場というよりスーパー銭湯に近い規模です。池に架かる小さな橋を渡って玄関へ。


 
明るく広いフローリングのロビーには薪ストーブが設置され、古い家具なども置かれて、ぬくもりある空間になっていました。
券売機で料金を支払い、その券をフロントに手渡して浴場へ入ります。カウンターを挟んで右手が女湯、左手が男湯です。


 
浴室のドアを開けた瞬間、硫黄の匂いがフワッと香り、その芳香に思わず心を躍らせてしまいました。室内は広々している一方、明るさを抑えて落ち着きのある雰囲気を作り出しており、のびのび且つゆったりと入浴を楽しめます。内湯の広い主浴槽では巨大な岩が屹立しており、まるで山奥の切り立った深い渓谷で湯浴みしているかのようです。

浴槽の中央部にちょこんと突き出た岩からお湯が落とされており、ふんだんにかけ流されています。使用源泉は、千曲温泉から供給されている混合泉。湯船のお湯はほぼ無色透明ながら僅かに潮汁のような微濁を呈しており、湯中では白い湯の華がチラホラ舞っていました。湯口に備え付けのコップで飲泉してみますと、焦げ風味と渋みを伴うタマゴ味と匂いが感じられ、湯中ではスルスベの滑らかな浴感が肌に伝わり、適温且つ心地良いフィーリングなのでとても気持ち良く、いつまでも浸かっていたくなります。


 
巨大岩の内湯と向かい合っている洗い場には、計18基のシャワー付きカランが3つの島に分かれて取り付けられています。そんな洗い場の床には小さな穴が開いており、下からお湯が静かに吹き上がっていました。これは信州の温泉でしばしば見られるサイフォン式排湯であり、特に戸倉上山田温泉では「亀の湯」や「国民温泉」など長年営業している各浴場で見られる伝統的なスタイルです。主浴槽のお湯は縁からのオーバーフローのほか、床下の配管を通じてここからも排出されています。あえて工事の手間がかかるこの方式を採用しているのですから、運営者の方はきっと当地の伝統を尊重しているのでしょうね。



内湯奥の露天風呂出入口付近には、サウナのほか、ジェットバスや水風呂が配置されていました。訪問したのは冬でしたから、はじめのうちは水風呂と無縁かと決め込んでいたのですが、ここのお湯は適温なのに力強く火照るので、長湯して体が逆上せかかったタイミングでこの水風呂にザブンと飛び込むと、一気にクールダウンしてめちゃくちゃ爽快でした。冬の水風呂も良いものですね。


 
ドアを開けて露天ゾーンへ。市街地というロケーションゆえ、周囲は高い塀で目隠しされており、この場に立つと、府中や網走へお勤めになられた方の気持ちがちょっとわかるような気がするのですが、それはともかく、十分なスペースが確保されているので決して閉塞感はなく、塀越しの景色を借景にした日本庭園風の趣ある設えになっていました。この露天ゾーンには後述するいろんな浴槽が用意されています。


 
大きな四角形の露天主浴槽は、そのほとんどが屋根掛けされていますので、多少の雨や雪でも問題なく湯浴みできます。湯船のお湯は煮詰めちゃった貝汁のようにぼんやりと白濁しており、内湯主浴槽と同じく放流式の湯使いにより、浴槽縁の2方向よりオーバーフローしていました。この露天風呂に向かってテレビが設置されており、湯船に浸かりながらテレビを見ることができます。私が入った時の湯船は長湯したくなる適温であり、且つテレビで夕方のニュースが放送されていたため、両要因によりついつい長湯してしまいました。


 
主浴槽の湯口には麦飯石が使われているんだとか。その石がどんな効果をもたらすのか、頭の悪い私にはよくわからないのですが、そんな私が目を奪われたのは、吐出口の上に掲示された「この湯口の温泉は城山源泉より来ている新鮮な100%源泉の温泉です」という説明です。内湯は千曲温泉から供給されている温泉でしたが、露天のお湯はその説明の通り、内湯とは異なる城山1号・2号・3号の混合泉が引かれているんですね。備え付けのコップで飲泉してみますと、内湯のお湯と同じように焦げ感と渋味を伴うタマゴ味および匂いが感じられるのですが、その硫黄感は内湯よりも強く主張しているようでした。また湯中におけるフィーリングも同じく滑らかなツルスベですが、こちらの方がより滑らかであり、且つトロミもしっかりと有しているようでした。


  
寝湯を擁する副浴槽では、ろ過循環消毒されているお湯が使われています。実際に湯船のお湯はクリアに澄んでいて、硫黄感もかなり弱まっていました。この副浴槽の向かいには「ささら湯」と称する寝湯の亜種が設けられており、石敷きの上にお湯が流されているのですが、その利用形態を想像するに、夏は気持ち良いのでしょうけど、冬はただただ寒いだけですので、訪問時はお湯の流れが一箇所だけになっており、実質的に休止状態でした。


 
露天ゾーンにはこのほか信楽焼と思しき2つの壷湯もあるのですが、寝湯同様こちらのお湯もろ過循環されたもので、個性がはっきりと表れている主浴槽のお湯に浸かっちゃうと、壷湯のお湯では物足りなく感じてしまいます。

それにしても、これだけ規模の大きな施設でありながら、二つの源泉を使い分け、それぞれをふんだんに掛け流しているのですから、その贅沢な湯使いには感激してしまいます。上山田温泉のお湯が持つ個性を存分に味わえる素晴らしい施設でした。


(内湯)
千曲温泉株式会社1号・2号・3号・4号源泉及び中央源泉の混合泉
アルカリ性単純硫黄温泉 45.4℃ pH8.5 溶存物質0.3863g/kg 成分総計0.3865g/kg
Na+:93.7mg(77.17mval%), Ca++:21.8mg(20.62mval%),
Cl-:95.2mg(50.97mval%), HS-:5.4mg, SO4--:60.0mg(23.69mval%), HCO3-:53.2mg(16.48mval%), CO3--:7.7mg,
H2SiO3:41.6mg,
(平成26年8月11日)

(露天)
城山1号・2号・3号源泉の混合泉
単純硫黄温泉 44.8℃ pH8.3 溶存物質610.6mg/kg 成分総計613.5mg/kg
Na+:146.3mg(76.62mval%), Ca++:33.1mg(19.88mval%),
Cl-:172.1mg(56.96mval%), HS-:7.30mg, S2O3--:0.5mg, SO4--:97.2mg(23.72mval%), HCO3-:82.0mg(15.74mval%),
H2SiO3:58.6mg, H2S:0.4mg, 
(平成21年7月1日)

内湯:加水循環消毒なし、加温あり(源泉温度が低いため)
露天主浴槽:加水循環消毒なし、加温あり(源泉温度が低いため)
露天壷湯・ササラ湯・寝湯:加水なし、加温あり、循環ろ過装置利用

しなの鉄道・戸倉駅より千曲市循環バスの大循環線・上山田線(日祝運休)・戸倉更科線などで「上山田温泉公園」バス停下車、もしくは戸倉駅より徒歩35分(2.5km)
長野県千曲市上山田温泉2-18-8  地図
026-275-4321
ホームページ

平日9:00~25:00、土・日・祝日6:00~25:00
680円(朝風呂料金の設定や家族風呂などあり。詳しくは公式サイトでご確認を)
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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