引き続きチパナス温泉を巡ります。温泉街の真ん中にあるミニバスの折り返し地点から、幅1mもないほど細い路地を奥へ奥へと進んで、路地裏探検をぶらぶらしていると・・・
上画像のような場所に遭遇しました。薄暗い軒下にはベンチが置かれ、老若男女が集って談笑しています。そして、路地に面した建物には"PRIA"(男)と"WANITA"(女)に分かれた出入口があり、中からザバーッという水の音が響き、その出入口からはさっぱりとした面持ちの人たちが出てくるではありませんか。周囲にいる人に「マンディ?」と尋ねてみると、皆さん一斉に首を縦に振り、微笑みを浮かべながら「中へどうぞ」というジェスチャーをしてくれたので・・・
"PRIA"(男)の方へ入ってみますと、ドアや仕切りも何もなく、クランク状に折れ曲がったアプローチの先に、いきなり上画像のようなマンディ場(沐浴場)が設けられていました。どうやらここは地域住民のための共同浴場のようです。タイル張りの室内に湯船はなく、壁から突き出た数本のパイプより、加水によって適温に調整された温泉のお湯がドバドバと吐出されていました。私は入室した時には、手桶でお湯を汲んだり、あるいはパイプの下に首を突っ込んだりと、皆さん思い思いのスタイルでお湯を浴びていたのですが、驚いたのは、着衣のままでマンディする人もいれば、日本人の入浴スタイルみたいに一糸まとわぬ姿で沐浴する人もいたこと。マレーシアやトルコなど、私がいままで入ってきたイスラム圏の温泉施設では、皆さん必ず水着や腰巻などで下半身を隠していましたので、まさか世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアでそのような姿を目にするとは予想だにしませんでした。ひとくちにイスラム教の文化と言っても、そのスタイルは実に多種多様なのですね。
壁から吐出されるお湯のほか、床から立ち上がっている太い塩ビパイプからも温泉が大量に出ているのですが、その吐出温度は48.8℃という結構な高温。つまりこの配管からは加水されていない生源泉のお湯が出ているのです。にもかかわらず、この熱いお湯を、皆さんは平気な顔をして頭からジャバジャバ浴びているのです。しばしば「海外の温泉はぬるい」とか「海外の人は熱いお風呂が苦手」「熱い風呂に入れるのは日本人だけ」といったようなご意見を耳にしますが、決してそんなことはありません。以前拙ブログでマレーシアのクアラルンプール近郊にある青空公衆浴場「スラヤン温泉」を取り上げたことがありますが、そこでも皆さん47〜8℃という篦棒に熱い温泉をザバザバと勢いよく浴びていました。温泉に慣れ親しんでいる日本人でも、これだけ高温のお湯を苦悶の表情を浮かべることなく浴びられる人は、果たしてどれだけいるでしょうか。熱い温泉に対する耐性は、あくまで習慣や慣れによるものであり、国や人種を問わないのです。かく言う私も屁理屈を捏ねてばかりでは日本の温泉ファンとしての名が廃るので、この熱々なお湯を手桶に汲んで浴びてみました。はじめのうちは確かに熱くてピリピリするのですが、何杯か浴びているうちに体が慣れ、やがて気持ち良さすら感じられるようになったのが実に不思議。なるほど、こうやって心身を清めるわけか。ちなみにお湯は無色透明でほぼ無臭ですが、ほんのりと石膏感や芒硝感が伝わってきます。私はチパナスで3軒の温泉施設に入りましたが(宿泊先を含める)、ここのお湯が最も熱く、且つ最もフレッシュでした。
私が熱いお湯を浴びていると、7〜8歳と思しき子供たちがやってきて、おもむろに服を脱いで楽しそうに沐浴をしはじめたのですが、そんな小さな子供達ですら、48℃以上の熱々なお湯を当たり前な表情で浴びているのです。チパナスの子供達、おそるべし。上画像の男の子は、そんな熱湯ヘッチャラ少年の一人で、インドネシア語がまったく通じない私と身振り手振りで懸命にコミュニケーションを図ろうとしてくれた、とっても優しい子です。
この共同浴場の出入口付近では揚げ物屋台が出ており、おばあちゃんがカリカリと良い音と香ばしい香りを立てながら、食材を揚げていました。そして湯上りの人々は、この揚げ物を口にしながら、おしゃべりに華を咲かせていました。日本もインドネシアも、共同浴場は地元の人々にとって、集いの場であり憩いの場でもあるんですね。
私の好み:★★★