パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君⑮

2016年08月19日 | 野望
空港へはばあちゃんが迎えに来てくれた。
真っ青な顔の太郎に驚いたようだが、飛行機酔いだと聞くとにやりと笑った。
イヤな予感がした。
駐車場へ向かい、ばあちゃんがトランクを開けた車は、8人は乗れそうなデカイ車だった。
空港からばあちゃんちまでは高速道路使って2時間くらいだ。
太郎、頑張れ。あともう少しだ。
助手席に座ろうとしたオレにアゴで後ろを指示。
「二人とも後ろに座りなさい。少しだけ飛ばすから。
太郎君、なるべく早く着くようにするからね。」
いくら田舎とはいえ、いくら夜9時をまわってるとはいえ、このスピードはまずいよ、ばあちゃん!
と叫ぶオレの声は、ばあちゃんには届かない。
なぜなら、今、ばあちゃんのお気に入りだというスピッツのさわやかな歌声が大音量で流れていたから。
事故も起こさず、狸も轢かず、パトカーにも追跡されず、想像してた到着時間よりだいぶ早くばあちゃんちへ着く。
車から降りて、ばあちゃんの入れてくれたお茶と和菓子を食べながら、やっと太郎を紹介する。
太郎は、なぜかまったくもって元気だった。
人が運転する乗り物に乗って酔わなかったのは生まれて初めてらしい。
どういうことか理解に苦しむが、酔うよりは酔わない方がいいから、良かった良かったということにしておこう。
それにしても、一人暮らしなのになんであんなデカイ車にしたのか聞くと
「まわりが年寄りばっかりだからねえ、あたしが買い物や病院に連れて行ってあげたり
荷物を運んであげたりしてるのよ。
前の車も、結構良かったんだけど、5人乗りだったからねえ。
これはいいよお~人も荷物もたっぷり運べるからね。」
「ばあちゃんも、十分年寄りだろ?」と言いたいが、これからお世話になるのだからぐっと飲み込んだ。
次の日、疲れも出たのか昼まで寝て、空腹でやっと目が覚め起きていくと
ばあちゃんはいない。
ちゃぶ台の上におにぎりがツリーのように積み上げられ、大皿に煮しめやら唐揚げやら大量に作ってある。
そしてその皿を文鎮代わりにして「グランドゴルフに出かけます。夕方には帰る。」と素っ気ないメモ。
同じく空腹に起こされた太郎とガツガツ食べる。
腹ごなしに散歩にでも行くかと二人でぶらぶら歩いてみる。
放し飼いで飼ってる犬の「シバ」もついてくる。
太郎には言ってないが、こいつの正式名称はシバタロウだ。
こいつはなかなか頭のいいヤツで、年に一度か二度しか会わない俺のこともよく憶えている。
もうだいぶジーさんなのではしゃぎはしないが、会う度に「待ってたよ」という顔をする。
知らない客人には猛烈に吠えるので、太郎にも吠えるかなと思ったが
「まちゆいの友達だろ」って顔をして尻尾を振り、「オレ動物大好きなんだ!犬飼って、散歩させるのが夢。」とシバの頭やら背中やらなで回す太郎にされるがまま。
シバは「ここらを案内するから、ついておいで」という感じで先頭を歩き、オレたちは何も考えずにシバの後ろからついていった。
都会育ちの太郎はきょろきょろ周りを見回しては「いいなあ~空気が美味いなあ」
川を見ては「うを~っ!魚がいる、魚!」
畑を見ては「うわ!白菜が立ってるの初めて見た!」
時々会う人たちはみな老人で「あれ?まちゆいちゃんだっけ?大きくなったねえ。」と声をかけてくれ
その度にオレは「こんにちは。いつもばあちゃんがお世話になってます。
いえ、今回は友達と二人で帰ってきました。
はい、みんな元気です。ありがとうございます。」と
同じようなことを聞かれ、同じようなことを答え、社交的な太郎が「ボク、まちゆい君の同級生で太郎っていいます!いいところですねここは。」と絶妙なタイミングで合いの手を入れたりしていた。
1時間ほど歩くとちょうど一周してばあちゃんちに帰り着くコースだった。
そして、オレたちの両手には白菜やら深ネギやらサツマイモやらが山のように抱えられていた。
最初にもらった大きな葉っぱは、ちゃんと名前を教えてもらったにもかかわらず
ばあちゃんちの縁側に広げた頃にはすっかり忘れてしまい「カタカナ5文字くらいだったよな。」
「いや、6文字くらいじゃなかったか?ほうれんそう、みたいな。」
「そうそう!『なんとか草』って言ってた言ってた。」
ばあちゃんちには、犬のシバのほかに、猫が5、6匹いる。
犬派のばあちゃんにいわせると「うちの猫じゃない。」らしいがシバのご飯をガツガツ横取りするらしく
しょうがなく猫用にも残飯をあげているうちに増えてしまったらしい。
猫ってカリカリしたキャットフードしか食べないのかと思っていたが、ここの猫達はガツガツかぼちゃを食っていた。
飼ってるわけじゃないから、名前もないというので、適当に「クロ!」とか「牛!」とか「チビ!」とか見た目でわかりやすい名前をつけてはちょっかいを出してしばし遊ぶ。
寒くなってきたぞ、部屋でテレビでも見ようぜと言うと太郎は「一宿一飯の恩」と言いながら
ばあちゃんが干していった布団やら洗濯物やらを入れ始める。
マメだなお前。おれなんか気付きもしなかった。
布団を取り込み、洗濯物を畳んだら、風呂の掃除を始める。
「ばあちゃん、グランドゴルフ、上手そうだな、あのドライビングテクニックだもんな。」
そうこうしてると、キキキーーッというブレーキ音をさせてばあちゃんが帰って来る。
「あんたたち、何時になっても起きてこないからしびれきらして出かけたのよ。
ホントだったらどっか観光にでも連れてってあげようと思ってたのに!
早寝早起き。まっとうな人間は、朝起きて昼働いて夜寝るもんだよ。」と文句言いながらも
お風呂もわいてて、洗濯物も布団も取り込んであることで機嫌はいい。

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