パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君27

2016年10月07日 | 野望
爆笑と拍手の中、幕が下りて、やり切った感いっぱいの顔で太郎とオレは握手した。
思うところでウケず、思わぬところでウケて、と、反省点はいろいろあるが、とりあえずは大成功と思おう。
もしかしてカーテンコールがなりやまないんじゃねーか?などと言って、汗びっしょりの衣装を着たままで水をがぶ飲みしているオレたちをよそに、
舞台下では打ち上げパーティ担当の石橋が仕切る声や、料理担当「食の章子さん」の声、さらには「しょうこちゃんっ、これはどこにおいたらいいかしら?」と章子さんのお母さんの声まで聞こえてくる。
もう、いいのね、オレたち。着替えちゃっても・・・

ちょっと気の抜けた顔でぼーっとしてたら「衣の祥子さん」が「なにぼーっとしてるの?早く着替えて!シャワー浴びたかったら浴びてからこれに着替えて。五時から打ち上げ始まるからね。絶対遅れないでよ!着替え終わったら電話して。チェックしに行くから。」
いつもの優しい祥子さんじゃない・・・
オレたちは渡された紙袋をもって体育館の裏口からプールへ行きシャワー浴び紙袋を開けてぎょっとする。
「衣の祥子さん」から「打ち上げ用の衣装」も用意したとは聞いていたが、トランクスまで入っていて驚いた。
って、これには感謝だが、それはさておきこの「打ち上げ用の衣装」ってのがすごい。
ご丁寧に「こういう感じで着てね。」と書いたイラスト付きで、どうみても少女マンガに出てくる王子様みたいだ。
これを着て打ち上げ会場へ行くのか?
かといって、汗でびっしょりのステージ衣装をまた着るか。
一昔前のアイドルの衣装を着るか。究極の選択を迫られているようだ。
突然太郎が笑い出し、「オレたちが文化祭を盛り上げようぜなんて意気込んでたけど、オレたちのほうがもてあそばれてる感じだなあ。
いいじゃんいいじゃん。喜んでピエロになりまっせ!」
「そりゃそうだよな、お前はステージ衣装に戻ったらおばちゃんだもんな。まだヒカルゲンジのほうがいいよな。」って言ったら「ヒカルゲンジってなんだ?」
太郎ってホントにこういう分野が欠落している。

漫才のライブ会場から、打ち上げのパーティ会場へと会場設営が変わるほんのわずかな時間で、亜美ちゃん率いる写真部員達が、総力を挙げてビデオを編集。
自分に厳しく他人にも厳しく、妥協を許さない亜美ちゃんが選んだだけあって金井君はとても上手にビデオを撮ってくれていた。
五時の打ち上げパーティ開始と同時に、スクリーンに大きく映し出される太郎とオレ。
オープニングは、亜美ちゃん渾身の作のポスターのスライドショーだ。
いつの間に撮っていたのか他校の生徒へのインタビューや駅員さんのショットまであったりする。
こっそり練習していたカラオケボックスの店員さんまでがインタビューを受けてて「ええ。お二人、ジュースを飲みながら『マザコンズです』の決めポーズを考えていらっしゃいましたよ。」
のぞいてたのかよぉ~裏話はやめてくれ~
最初の掴みで、太郎が客席のおかあさんに向かって「あれ?渡辺のおかあさん?今、渡辺のバンド、学食ステージ出てますよ。」
渡辺のおかあさんが「いいのよぉ~おとうさんが聞きに行ってるから。」
っていうくだりで、ステージを終えてパーティに来ていた渡辺が「ひでぇなあ、かあちゃん聞きに来てくれてなかったのかよ。」と叫び、笑いが起こる。
何だろうこの感じ。
もう、みんながハイテンションになっていて、ちょっとしたことで大笑いになる。
太郎の思惑としては、最後はおかあさん達が感激して涙するというオチにしたかったらしいが、おかあさん達は最後までゲラゲラ笑いっぱなしだった。
最後に、息子達娘達がおかあさん達へこれからの受験体制への突入を前に一斉に立ち上がって「よろしくお願いします」と頭を下げる流れに持っていったのだが、
おかあさん達は最後までゲラゲラ笑って「はいはい、頑張って頂戴よ!」とか「なんだか小学校の時の卒業式みたいね~」「あの頃ほど可愛くはないけどね。」とか言いたい放題。
スクリーンを見ながら太郎が「おかしいよなあ?ここ、普通ほろりとしないか?」
でもオレは、これはこれでよかったような気がする。
オレたちが考えるほど母親ってのは、子供たちのささやかな反抗なんて気にもしていないってことだよ。
普段家で「メシまだ?」と「風呂入る」と「うっせーんだよ」くらいしかしゃべらない息子でも
母親にはいろいろ見抜かれているってことだよ。
オレたちはまだまだ母親には敵わないってことだよ。

いつからパーティに参加してもいいようにスクリーンはエンドレスで映像を流し続け、一体マスターたちはどれくらいの量の料理を準備したんだ?というくらいエンドレスで料理も補充され続けた。
二時間の予定が、校長の裁量で一時間延長され、八時にお開き。
撤収に一時間かけてオレたちの文化祭は終わった。
それから二時間かけて帰る電車の中で、興奮冷めやらぬママ猿とオレは漫才のネタの話や衣装の話、料理の話や千春さんとマスターのことなどを延々としゃべりながら帰ったのだった。

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