晩ご飯は、トンカツだった。
ばあちゃんは、「ずっと一人暮らしだからねえ。男の子二人の食べる量って想像がつかん。」と言いながら
これでもかこれでもかとカツを揚げ続け、オレたちはそれをガツガツ食べた。
あいだで、近所の人たちが入れ代わり立ち代わりやってくる。
「孫が来てるんだってねえ。」といいながら上がり込んでくる。
天ぷらやら、白和えやらちゃぶ台に皿が増えていく。
そして、揚げたてのトンカツを新聞紙にくるんでばあちゃんが持ってくる。
物々交換の図だ。
太郎が「あ、昼間はありがとうございました。
あの野菜、何て名前でしたっけ?」と、3番目にきたおばあさんに聞く。
「フダンソウよ。明日ばあちゃんに酢味噌で食べさせてもらいなさい。
いや、ワケモンはマヨネーズの方が良かかねえ。」
オレなんて、昼間会ったじいさんもばあさんも、みんな同じ顔に見えてるっていうのに、太郎は顔どころか、名前まで覚えてる。
言葉だって、方言がきつくて、しゃべってる内容の半分くらいしか理解できない時があるのに
太郎は「え?そうか?オレ結構わかるぜ。ニュアンスニュアンス。」
9時になるとばあちゃんは「早寝早起き。早起きは三文の得。」と立ち上がり「あんたたちも早く寝なさいよ。」と寝室へ入っていった。
子どもじゃないんだから9時なんてまだ昼間だぜ。
オレたちは、テレビを見たり、寒いのに夜空を見に外へ出たりした。
太郎は相変わらずハイテンションに「すっげーーーー。なんなんだこの空。ここは北極か?
オーロラも出るんじゃないか?天の川も見えるんだろうなあ。
星ってこんなに見えるんだなあ。」と感激しきり。
「かあちゃんにも」と言いかけて口をつぐむ。
あの夜以降、太郎とは、千春さんと荒木さんのことについて何も話してない。
ただ、荷物をとりに一回うちへ帰った時に、置き手紙をして、
スマートに寄ってしばらく休むって話はしてきたって言ってた。
イマドキ太郎は携帯を持っていない。
オレの携帯には、ママ猿から「ケンちゃんママとは話をしたから、ケンちゃんが落ち着くまでそっちにいなさい。
帰りは5日の便を予約してあるけど、おばあちゃんに言えば、航空券の変更はどうにでもなるから。」というメールが届いていた。
落ち着くってどういうことだろう。
太郎が、千春さんと荒木さんの恋を認めてあげるっていう心境になるってことか?
千春さんは、荒木さんと再婚したいのかな。
オレが黙り込んでる横で太郎はいきなり歌いだす。
♪流れ星流れ星~~~♪
をっ!スピッツか。
あの、恐怖ドライブの中、よく憶えたなあ。
太郎が「オレ、ずっとスマートにいるからさ、あんまり音楽は聞かなかったし、興味なかったんだけど
スピッツはいいな。
スピッツ=車酔いしないって式が成り立ったこともあるからかな。
街結は音楽聞く?」
太郎と仲良くなって、勉強したりしゃべったりする前は、オレは結構音楽にのめり込んでいた。
だからそこそこ詳しいぜと言いながら、フジファブリックやアジカンやバンプのことを教えてやった。
ばあちゃんから借りた綿入れ半纏を着て、星降る寒空の下、iPodのイヤフォンを片方ずつはめ、何時間も高校男子二人で志村の歌声を聞いていた。
翌朝、いや、またも目が覚めたら昼だった。
あわてて起きていくと、またもちゃぶ台にお昼ごはんと置き手紙。
「フラダンスに出かけます。夕方には帰る。サラダは冷蔵庫。」
大皿にホットケーキが山のように積み上げられ、トッピング用なのかチューブのホイップクリームやら
チョコレートシロップやらメイプルシロップが瓶ごとおいてある。
あ、冷蔵庫にサラダがあるんだな。
冷蔵庫の棚一段全部を占領している大鉢を引っ張りだすと、昨日もらったフダンソウで作ったサラダがこんもり盛ってある。
「ばあちゃん、洋風もいけるんだな。フラダンスならってるくらいだから気分がハワイアンだったのかなあ。」と太郎が牛のような勢いでフダンソウを食みながら言う。
「メモの字が少し怒ってないか?明日こそは早起きしないとな。」とコーヒーを入れながら太郎が言う。
太郎は、もうオレよりもばあちゃんちの台所を使いこなしている。
太郎曰く「ばあちゃんみたいな料理上手な人は、動線を大事にしてるから大体ものの置いてあるところがわかるんだ。
マスターもそうなんだ。」
気のせいか、太郎が「マスター」と口にする時、3秒くらいの空白を感じて、オレはちょっと緊張する。
どう思ってるか根掘り葉掘り聞くべきなのか。
それともそっとして、太郎がしゃべりたくなった時まで待つべきなのか。
気が短いばあちゃんが入れたコーヒーと同じ粉とは思えないほど、太郎の入れるコーヒーはおいしい。
シバが「散歩に行きますよ。」と、鼻と前足を上手に使ってガラス窓を開けて顔を差し込んでくる。
ホットケーキを食い過ぎたオレたちはまた、腹ごなしに、シバを先頭に散歩に出る。
シバは昨日とは違う方向へ歩き出し、とうとう道なき道になり、太郎が「シバ!お前、道間違ったんじゃないか?」と声をかけると
シバは「いいえ!」と言わんばかりに一言「ワン」と吠えて、どんどん先へ行く。
息を切らしてついていくと、急に視界が開けて、ばあちゃんちやら川やら見下ろせる。
「すげーな、シバ。おまえは名案内人だ!」と太郎がシバの頭をぐりぐり撫でる。
シバは得意そうに鼻を天に向ける。
ばあちゃんは、「ずっと一人暮らしだからねえ。男の子二人の食べる量って想像がつかん。」と言いながら
これでもかこれでもかとカツを揚げ続け、オレたちはそれをガツガツ食べた。
あいだで、近所の人たちが入れ代わり立ち代わりやってくる。
「孫が来てるんだってねえ。」といいながら上がり込んでくる。
天ぷらやら、白和えやらちゃぶ台に皿が増えていく。
そして、揚げたてのトンカツを新聞紙にくるんでばあちゃんが持ってくる。
物々交換の図だ。
太郎が「あ、昼間はありがとうございました。
あの野菜、何て名前でしたっけ?」と、3番目にきたおばあさんに聞く。
「フダンソウよ。明日ばあちゃんに酢味噌で食べさせてもらいなさい。
いや、ワケモンはマヨネーズの方が良かかねえ。」
オレなんて、昼間会ったじいさんもばあさんも、みんな同じ顔に見えてるっていうのに、太郎は顔どころか、名前まで覚えてる。
言葉だって、方言がきつくて、しゃべってる内容の半分くらいしか理解できない時があるのに
太郎は「え?そうか?オレ結構わかるぜ。ニュアンスニュアンス。」
9時になるとばあちゃんは「早寝早起き。早起きは三文の得。」と立ち上がり「あんたたちも早く寝なさいよ。」と寝室へ入っていった。
子どもじゃないんだから9時なんてまだ昼間だぜ。
オレたちは、テレビを見たり、寒いのに夜空を見に外へ出たりした。
太郎は相変わらずハイテンションに「すっげーーーー。なんなんだこの空。ここは北極か?
オーロラも出るんじゃないか?天の川も見えるんだろうなあ。
星ってこんなに見えるんだなあ。」と感激しきり。
「かあちゃんにも」と言いかけて口をつぐむ。
あの夜以降、太郎とは、千春さんと荒木さんのことについて何も話してない。
ただ、荷物をとりに一回うちへ帰った時に、置き手紙をして、
スマートに寄ってしばらく休むって話はしてきたって言ってた。
イマドキ太郎は携帯を持っていない。
オレの携帯には、ママ猿から「ケンちゃんママとは話をしたから、ケンちゃんが落ち着くまでそっちにいなさい。
帰りは5日の便を予約してあるけど、おばあちゃんに言えば、航空券の変更はどうにでもなるから。」というメールが届いていた。
落ち着くってどういうことだろう。
太郎が、千春さんと荒木さんの恋を認めてあげるっていう心境になるってことか?
千春さんは、荒木さんと再婚したいのかな。
オレが黙り込んでる横で太郎はいきなり歌いだす。
♪流れ星流れ星~~~♪
をっ!スピッツか。
あの、恐怖ドライブの中、よく憶えたなあ。
太郎が「オレ、ずっとスマートにいるからさ、あんまり音楽は聞かなかったし、興味なかったんだけど
スピッツはいいな。
スピッツ=車酔いしないって式が成り立ったこともあるからかな。
街結は音楽聞く?」
太郎と仲良くなって、勉強したりしゃべったりする前は、オレは結構音楽にのめり込んでいた。
だからそこそこ詳しいぜと言いながら、フジファブリックやアジカンやバンプのことを教えてやった。
ばあちゃんから借りた綿入れ半纏を着て、星降る寒空の下、iPodのイヤフォンを片方ずつはめ、何時間も高校男子二人で志村の歌声を聞いていた。
翌朝、いや、またも目が覚めたら昼だった。
あわてて起きていくと、またもちゃぶ台にお昼ごはんと置き手紙。
「フラダンスに出かけます。夕方には帰る。サラダは冷蔵庫。」
大皿にホットケーキが山のように積み上げられ、トッピング用なのかチューブのホイップクリームやら
チョコレートシロップやらメイプルシロップが瓶ごとおいてある。
あ、冷蔵庫にサラダがあるんだな。
冷蔵庫の棚一段全部を占領している大鉢を引っ張りだすと、昨日もらったフダンソウで作ったサラダがこんもり盛ってある。
「ばあちゃん、洋風もいけるんだな。フラダンスならってるくらいだから気分がハワイアンだったのかなあ。」と太郎が牛のような勢いでフダンソウを食みながら言う。
「メモの字が少し怒ってないか?明日こそは早起きしないとな。」とコーヒーを入れながら太郎が言う。
太郎は、もうオレよりもばあちゃんちの台所を使いこなしている。
太郎曰く「ばあちゃんみたいな料理上手な人は、動線を大事にしてるから大体ものの置いてあるところがわかるんだ。
マスターもそうなんだ。」
気のせいか、太郎が「マスター」と口にする時、3秒くらいの空白を感じて、オレはちょっと緊張する。
どう思ってるか根掘り葉掘り聞くべきなのか。
それともそっとして、太郎がしゃべりたくなった時まで待つべきなのか。
気が短いばあちゃんが入れたコーヒーと同じ粉とは思えないほど、太郎の入れるコーヒーはおいしい。
シバが「散歩に行きますよ。」と、鼻と前足を上手に使ってガラス窓を開けて顔を差し込んでくる。
ホットケーキを食い過ぎたオレたちはまた、腹ごなしに、シバを先頭に散歩に出る。
シバは昨日とは違う方向へ歩き出し、とうとう道なき道になり、太郎が「シバ!お前、道間違ったんじゃないか?」と声をかけると
シバは「いいえ!」と言わんばかりに一言「ワン」と吠えて、どんどん先へ行く。
息を切らしてついていくと、急に視界が開けて、ばあちゃんちやら川やら見下ろせる。
「すげーな、シバ。おまえは名案内人だ!」と太郎がシバの頭をぐりぐり撫でる。
シバは得意そうに鼻を天に向ける。
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