パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君26

2016年10月01日 | 野望
夏休みが終わるとあっという間に文化祭がやってくる。
この日程設定では、まぢで、受験勉強と文化祭の両立は厳しい。
学校全体がなんとなく落ち着かない雰囲気の中、受験に集中させたい3年の担任達と、
文化祭に出演予定のダンス組やバンド組はバトルを繰り広げていた。
空き教室で練習しては追い出され、しまいには学校の外の三角公園でダンスしていたらしい。
バンド組は音源がいるから公園でってわけにもいかず、ライブスタジオを割り勘で借りて練習してるとのこと。
漫才組のオレと太郎もなかなか練習場所には苦労したが、それほど広さも必要としないし、もちろん音源だの道具だのいらないから、カラオケボックスで練習したりした。

クラス単位での催しや展示は各教室が会場で、文化部を中心にしたステージは学食のテーブルをとっぱらった会場で、それぞれタイムスケジュールが決められている。
オレたちも、学食のステージのつもりだったのに、文化祭の運営本部が情報収集した結果、学食ステージでは人数が収容できないと判断。
体育館でやることになった。
体育館でやるのは、午前中のブラスバンド部と午後のオレたちマザコンズだけだ。
亜美ちゃん渾身のポスターが功を奏し、近くの高校でも話題になっているらしい。
なんでも、学生がたむろするお好み焼き屋やラーメン屋に頼んで貼ってもらったポスターは軒並み盗まれて、近くの高校の掲示板に貼られたりもしてたと聞く。
「盗まれるのも想定内よ」と、亜美ちゃんは余裕である。
お店の人に自分の連絡先を教え、「ポスターを欲しがる人にはあげてください、盗まれそうになったら見ぬふりして盗ませてください。
連絡もらったら補充に伺いますから。」と頼み込み、休み時間になるとチャリ通学の友達のチャリを借りて、学校周辺のお店にポスターを配り歩いていた。
二カ所の最寄り駅にも貼らせてもらっていたが、こちらは毎朝チェックする度に盗まれているので、さすがの亜美ちゃんも経済的に厳しいと、A3サイズのカラーコピーに縮小して対応していた。
しまいには、駅員さんとすっかり仲良くなって改札内にも貼らせてもらえるようになり、顔パスで毎朝補充しているらしい。

文化祭当日。
山の様な差し入れの中から、あまり腹にもたれなさそうなものをチョイスして腹に入れてから衣装に着替える。
衣装は家庭科クラブの女子が用意してくれた。
太郎曰く「オレたちはプロじゃないんだから、笑いのためなら卑怯な手も使う。」
まずは衣装で笑わせる作戦だ。
マザコンズは、息子役のオレと、おかん役の太郎という役割分担。
よって太郎がおばちゃんの格好をする。
これがまた似合うの似合わないのって!
顔のパーツは千春さんだから、女装したら千春さんみたいになるかと思いきや、ひょーきんな大阪のおばちゃんみたいで笑える。
オレは、半ズボンの上に長ズボンを穿き、子ども時代のネタになったらぱっと長ズボンを下ろし幼稚園児みたいな格好になるというしくみだ。
家庭科クラブ部長の祥子さんと副部長の章子さんがワンタッチで脱げるように工夫してくれた衣装だ。
イマドキ珍しく子のつく名前のしょうこさんたちは、紛らわしいのにお互いを祥子さん、章子さんと呼び合い、
部員達は『衣の祥子さん』『食の章子さん』と呼び分けている。
名字で良くね?と言ったら、二人とも鈴木さん。同姓同名だった。
部長は服飾関係が得意で、副部長は料理分野が得意なんだとか。
衣の祥子さんがオレのシャツにアイロンをかけながら「まちゆい君のシャツにアイロンかける日が来るなんて夢にも思わなかった。
家庭科クラブを作ってホント良かった。」と言い、
もう、今から文化祭の打ち上げパーティ用の料理のセッティングに忙しい食の章子さんも「祥子さんっ!あたしを家庭科クラブに誘ってくれてありがとう」と二人で盛り上がっている。

この打ち上げパーティは、家庭科クラブと喫茶スマートの勉強会ランチ会の有志のおかあさん達とスマートのマスター共同開催だ。
喫茶スマートで、マスターとおかあさん達がパーティ用の料理をジャンジャカ作り、時間を見て、他のおかあさん達が車で学校へそれを運ぶという段取り。
ちなみに、おかあさん達のリーダーは食の章子さんのおかあさんだ。
タイミング次第では漫才を見られないかもしれないわねえと嘆くおかあさん達もいたが、そこは抜かりのない僕らのマネージャー亜美ちゃん。
亜美ちゃんの後輩金井君がビデオを回して録画してくれ、打ち上げパーティの時に流すことになっている。
亜美ちゃんはカメラに徹するらしい。
こうなると失敗は許されないなあ~

まだ幕の降りている舞台の袖から観客席をみると、さすがにちょっとびびった。
前のほうは、来賓席としておかあさんがたがびっしり。
来賓席と言えば聞こえがいいが、太郎が前もって頼み込んでヤジ的合いの手を入れてもらうように仕込んであるおかあさん達だ。
その後ろには、見たことのある制服から見たことのない制服まで、いろんな学生達がわやわやぎっちりつまっている。
少しビビってるオレを見て太郎が「オレたちは、誰よりも練習してきた。大丈夫だ。きっと大ウケ間違いなしだ!」
全国大会に出るサッカー部のキャプテンが言いそうなことを真面目な顔で言うので吹き出した。
それにしても、おまえ、白い割烹着、似合うなあ。

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