今日から「街結君の喫茶スマート」開始という日。
スマートのドアを開けて驚いた。
なんなんだ。この繁盛ぶり。
妙齢のご婦人方でいっぱい。
いや、はっきり言おう。おばちゃんたちでいっぱい。
ドアベルで振り返ったのは、時々学校の式典で見かけるPTA会長だ。
今年同じクラスになった才女吉田さんのおかあさんだ。
「あ、今日からだったわね。ごめんなさい。すぐ撤収するわ。おべんきょ、頑張るのよ。」
わらわらとおばちゃんたちが出て行く。
呆然としているオレに太郎が「あ、まちゆいには言ってなかったな。」
学校の授業をやっている時間帯、おかあさんたちが集まってマスターを中心に「頭の良くなる料理」勉強会をやっているらしい。
常連の女子が、スマートのマスターから聞いた「頭の良くなる食材リスト」をおかあさんに渡して、この食材でご飯作ってと頼んだことがきっかけらしい。
その子の母親は、前々から娘が入り浸っている「喫茶スマート」のことが気になっていたこともあり、PTA仲間のママを誘って恐る恐るのぞきにきた。
そして、マスターからいくつかレシピを教わったりしてすっかりマスターのファンに。
PTAの役員打合せとかをスマートでやっては、マスターの作る「頭の良くなる料理」試作品でランチパーティになったりしていたらしい。
採算度外視のマスターの大盤振る舞いが目に浮かぶようだ。
そのうち、噂が噂を呼び、勉強会へと発展していった。
いまや大人気となり予約制らしいのだが、「予約の取れない勉強会ランチ」と言われているらしい。
言われてみれば、テーブル数が増えて、なおかつ配置も変わっている。
以前は、オレの席に視線があつまるような配置だったが、今は、カウンターのマスターに視線が集まるような配置だ。
黒板まである。
そこに、マスターの几帳面な四角い字で、食材やらが書かれている。
勉強と言えば、母親達だけではない。
同じ、初日のこと。
常連の女子に連れられてきた子が、わからない数学の問題を、ちょうどすぐ近くのカウンター席にいてニコニコ女子高生をながめていたエロオヤジ、いや、もとい、省吾さんに尋ねた。
オレはすぐ省吾さんのフォローに回ろうとして立ち上がったのだが、太郎が「いいからいいから。座ってろって。」
え?だって省吾さん、前に・・・
省吾さん、その子に聞かれた問題をカウンターでさらさらっと解いた後、ヒントだけを与えて彼女自身に考えさせた。
それからその子に「答えあわせしよう。」とそのメモ用紙を渡した。
彼女「あ、一緒です。良かった。あのヒントでひらめきました。ありがとう。」
太郎が小さな声で「省吾さん、前に質問されて答えられなくて赤っ恥かいただろ。
常連の女子たちの間でも『省吾さんに質問したらダメ。』っていう、優しいようなかえってツライような暗黙の了解みたいなのができちゃってて。
省吾さん、それから数学の猛勉強始めたんだ。
数Ⅱまでで限界感じたって言ってたけどたいしたもんだよな。
わかんないところはナベさんつかまえて質問攻めだったんだ。
今日、やっとその努力が日の目を見たってとこだな。
いやぁ良かった良かった。」
ナベさんはナベさんで、国立志望の子から大学についての質問なんぞを受けている。
太郎が「斎藤さんは工学部志望なんだけど、親戚一同みんな文系一族で、彼女が初らしいんだよ、理系の大学受けるの。
で、学科選びで悩んでて。
やっぱ生の声って大事だよな。
高校の先生達の意見ってのは現場とは少し違うところもあるし。
福島だったら、とりあえず全部受けちゃえ!って言いそうだし。」
相変わらず女子の事情に詳しい太郎君である。
試験勉強が一段落したところでご飯だ。
小学校の給食の時みたいにがたがたとテーブルをくっつける。
マスターのサービス精神旺盛な料理の数々を並べるには、スマートのテーブルは少し小さいのだ。
今夜は、ナベさんも一緒に食べる。
メニューは「サバカレー」
「サバ?サバって、あの魚のサバ?」って聞くオレに「他に何のサバがあるんだよ。」って太郎。
ナベさんが「Ça va?(サヴァ?)Je mange.Tu manges?う~ん、Merci.
第二外国語、フランス語とってたのに、これくらいしか思い出せん。
省吾さんに見習って、オレ、今からフランス語の勉強し直そうかなあ。」
マスターが笑いながら「Bon appetito.どうぞ召し上がれ。」
え?何、それ何語?
マスターは若い頃ちょっとイタリアに行ってたことがあるらしい。
「オレ、ボンボンだからさ、親が留学でもさせれば三流大学でもハクがつくだろうって思ったらしいんだけど、こんな性格だろ?
ホームシックになって、速攻で帰ってきた。」
げらげら笑いながらサバカレーを食べたが、これまた絶品。
デザートは、今、マスターが興味を持っている食材「麩」で作ったティラミス。
マスター曰く「麩は脳の発育にいいらしいんだ。
麩っていろんな種類があっておもしろいんだよなあ。
今、勉強中なんだ。
もう少ししたら、麩のフルコースみたいなのを作るからな、乞うご期待だ!」
10時になって、帰る俺に「夜中、腹が減ったらこれを食え。」と麩をバターで炒めたスナック菓子みたいなものをビニール袋に入れて持たせてくれる。
太郎が「オレ、マスターに育ててもらった。」って言う気持ち、わかるね。
ラストチャンスだ。
気合いだ気合いだ気合いだ。
スマートのドアを開けて驚いた。
なんなんだ。この繁盛ぶり。
妙齢のご婦人方でいっぱい。
いや、はっきり言おう。おばちゃんたちでいっぱい。
ドアベルで振り返ったのは、時々学校の式典で見かけるPTA会長だ。
今年同じクラスになった才女吉田さんのおかあさんだ。
「あ、今日からだったわね。ごめんなさい。すぐ撤収するわ。おべんきょ、頑張るのよ。」
わらわらとおばちゃんたちが出て行く。
呆然としているオレに太郎が「あ、まちゆいには言ってなかったな。」
学校の授業をやっている時間帯、おかあさんたちが集まってマスターを中心に「頭の良くなる料理」勉強会をやっているらしい。
常連の女子が、スマートのマスターから聞いた「頭の良くなる食材リスト」をおかあさんに渡して、この食材でご飯作ってと頼んだことがきっかけらしい。
その子の母親は、前々から娘が入り浸っている「喫茶スマート」のことが気になっていたこともあり、PTA仲間のママを誘って恐る恐るのぞきにきた。
そして、マスターからいくつかレシピを教わったりしてすっかりマスターのファンに。
PTAの役員打合せとかをスマートでやっては、マスターの作る「頭の良くなる料理」試作品でランチパーティになったりしていたらしい。
採算度外視のマスターの大盤振る舞いが目に浮かぶようだ。
そのうち、噂が噂を呼び、勉強会へと発展していった。
いまや大人気となり予約制らしいのだが、「予約の取れない勉強会ランチ」と言われているらしい。
言われてみれば、テーブル数が増えて、なおかつ配置も変わっている。
以前は、オレの席に視線があつまるような配置だったが、今は、カウンターのマスターに視線が集まるような配置だ。
黒板まである。
そこに、マスターの几帳面な四角い字で、食材やらが書かれている。
勉強と言えば、母親達だけではない。
同じ、初日のこと。
常連の女子に連れられてきた子が、わからない数学の問題を、ちょうどすぐ近くのカウンター席にいてニコニコ女子高生をながめていたエロオヤジ、いや、もとい、省吾さんに尋ねた。
オレはすぐ省吾さんのフォローに回ろうとして立ち上がったのだが、太郎が「いいからいいから。座ってろって。」
え?だって省吾さん、前に・・・
省吾さん、その子に聞かれた問題をカウンターでさらさらっと解いた後、ヒントだけを与えて彼女自身に考えさせた。
それからその子に「答えあわせしよう。」とそのメモ用紙を渡した。
彼女「あ、一緒です。良かった。あのヒントでひらめきました。ありがとう。」
太郎が小さな声で「省吾さん、前に質問されて答えられなくて赤っ恥かいただろ。
常連の女子たちの間でも『省吾さんに質問したらダメ。』っていう、優しいようなかえってツライような暗黙の了解みたいなのができちゃってて。
省吾さん、それから数学の猛勉強始めたんだ。
数Ⅱまでで限界感じたって言ってたけどたいしたもんだよな。
わかんないところはナベさんつかまえて質問攻めだったんだ。
今日、やっとその努力が日の目を見たってとこだな。
いやぁ良かった良かった。」
ナベさんはナベさんで、国立志望の子から大学についての質問なんぞを受けている。
太郎が「斎藤さんは工学部志望なんだけど、親戚一同みんな文系一族で、彼女が初らしいんだよ、理系の大学受けるの。
で、学科選びで悩んでて。
やっぱ生の声って大事だよな。
高校の先生達の意見ってのは現場とは少し違うところもあるし。
福島だったら、とりあえず全部受けちゃえ!って言いそうだし。」
相変わらず女子の事情に詳しい太郎君である。
試験勉強が一段落したところでご飯だ。
小学校の給食の時みたいにがたがたとテーブルをくっつける。
マスターのサービス精神旺盛な料理の数々を並べるには、スマートのテーブルは少し小さいのだ。
今夜は、ナベさんも一緒に食べる。
メニューは「サバカレー」
「サバ?サバって、あの魚のサバ?」って聞くオレに「他に何のサバがあるんだよ。」って太郎。
ナベさんが「Ça va?(サヴァ?)Je mange.Tu manges?う~ん、Merci.
第二外国語、フランス語とってたのに、これくらいしか思い出せん。
省吾さんに見習って、オレ、今からフランス語の勉強し直そうかなあ。」
マスターが笑いながら「Bon appetito.どうぞ召し上がれ。」
え?何、それ何語?
マスターは若い頃ちょっとイタリアに行ってたことがあるらしい。
「オレ、ボンボンだからさ、親が留学でもさせれば三流大学でもハクがつくだろうって思ったらしいんだけど、こんな性格だろ?
ホームシックになって、速攻で帰ってきた。」
げらげら笑いながらサバカレーを食べたが、これまた絶品。
デザートは、今、マスターが興味を持っている食材「麩」で作ったティラミス。
マスター曰く「麩は脳の発育にいいらしいんだ。
麩っていろんな種類があっておもしろいんだよなあ。
今、勉強中なんだ。
もう少ししたら、麩のフルコースみたいなのを作るからな、乞うご期待だ!」
10時になって、帰る俺に「夜中、腹が減ったらこれを食え。」と麩をバターで炒めたスナック菓子みたいなものをビニール袋に入れて持たせてくれる。
太郎が「オレ、マスターに育ててもらった。」って言う気持ち、わかるね。
ラストチャンスだ。
気合いだ気合いだ気合いだ。
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