パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君22

2016年09月10日 | 野望
明日から新学期。春休み最後という日の朝。
電話が鳴る。
荒木さんだ。
焼肉ご馳走してくれるっていうんで、ありがたくごちそうになりに行く。
昼でも夜でもいいけど、どっちがいい?っていうから、じゃあ昼ってことにしてもらう。
電車に乗ってる時に気が付いたんだけど、今日って平日だよな。
仕事抜けて来るのかな。
夜のほうがよかったんじゃないかな、春休みで曜日の感覚が消えてたからなあオレ。

待ち合わせ場所にきた荒木さんは、カジュアルな格好だ。
今日お休みですかって聞くと、「ん。まあ話は焼肉食べながらしようぜ。」
こういう時に遠慮は失礼だよなと、都合のいい時だけ太郎っぽい思考でガツガツいただくことにする。
荒木さんはビールを呑みながら食べている。
「この前はありがとうな。って言っても、だいぶ日が経っちゃって。
何から報告したらいいかって感じなんだけど、まずは俺、会社辞めたんだ。」
いきなりの爆弾発言だ。
「辞めたって、それは千春さんと別れたからですか。」って聞くと
「あ、聞いてるんだね、そのあたりのことは。」と苦笑しながら、一気にしゃべった。
くれはちゃんとのこともあって、自分のせいで太郎と千春さんとの関係を壊すなんて耐えられないって思ったこと。
くれはちゃんとはしばらく会わない。これ以上くれはちゃんの中に、困った存在として居座りたくないと思ったこと。
会社を辞めて九州に帰ること。
なんと、荒木さんって宮崎の人だったんだ。
思わず「九州の星ってすげえ綺麗ですよね。」って言ったら嬉しそうに「だろ?九州はいいぜ。
太郎君が九州行ったって聞いた時、ちょっとヤバいって思ったんだよ。
このまま太郎君が帰ってこないかもって。」
オレが「でも、太郎は、東京も好きなんですよ。ま、オレもそうだけど。」って言うと荒木さんが
「時々俺がさ、東京の悪口言うとさ、千春がものすごくムキになって反論するんだよな。
それがおもしろくてよくからかってたんだけど、ちゃんと彼女のDNAが受け継がれてるんだな。
結局のところ、田舎だろうが都会だろうが自分のいる場所が好きでいられるってのが幸せってことだよな。
俺は、ここで一回田舎に帰って、いろいろ考えることにするよ。
そつのない俺だからさ、一応次の仕事も決まってるんだ。
ただ、今までみたいにそつなく生きるんじゃなくて、時にはワガママに自分の思うままに、愛する人のためにがむしゃらに、ってのが目標。
ん?今のフレーズ、なんか歌のタイトルみたいだな。
知らない?B'zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」っての。
そんなことはどうでもいいんだけどね。
あと10年でくれはが二十歳になる。それまでに500万ためて、成人式の着物をプレゼントする。
新しいパパが何と言おうと、それだけは譲れない。
俺に似ててさ、可愛いんだよ。振り袖似合うと思うんだ。あ、写真見る?」
定期入れに入ってるくれはちゃんは、ホントに荒木さんにそっくりで、そしてものすごく可愛かった。
「で、残った金は、大学の学費の足しにでもしてくれって言うつもり。
俺、恥ずかしい話、君から太郎君の学費の話を聞くまで、そんなに金がかかるって思ってなかったんだ。
親に感謝したことすらなかったよ。
くれはの人生を作っていくものの一部分だけでも関わっていたい。
味方がたくさんいるってことは、悪いことじゃないだろ。
パパというポジション争奪戦では、今のとこ2軍落ちだけど、あきらめたわけじゃないんだ。
くれはがいつか本心から俺に会いたいって思ってくれた時に会う。
もしかしたらもうパパというポジションじゃなくて、「優しいおぢさん」レベルかもしれないけど
ずっとずっと、俺が生きている限り、俺はくれはの味方でいる。

こんなこと言うと、街結君気分害するかもしれないけど、初めて君に会った時『あ、俺みたいだ』って思ったんだ。
イヤ、いまでこそおぢさんになったけどさ、俺、若い頃は結構イケてたんだぜ。なんつって、ウソウソ。
見た目のことじゃなくて、雰囲気っていうか、少し人と距離をおいてるようなところとか、
そうそう、まさにそつなくつきあってる、みたいなとこね。
でも、正月に会って、しゃべって、俺は大きな勘違いしてたって気付いたよ。
君は、俺なんかとは全然違う。
そのことも俺にものすごいショックを与えた。
高校生の男の子が、友達のために一晩寝ずにパソコンと格闘して、
自分より30も年上のおぢさんに説教する。
いや、君は説教なんかしてないんだけどさ、俺は、君が一生懸命語るのを聞きながら、どんなに怖かった鬼教師に怒鳴られた時よりも心がひりひりしたんだ。
くれはのことのせいにしたけど、あの時思わず涙が出たのは、今までの俺の生き方を悔やんだんだ。
あれは悔し涙だったんだ。
それからの俺は、見違えるほどすごかったぜ、自分で言うのもなんだけど。
次の日、千春と会う約束をとりつけて、そのまま彼女を空港へ送りつけて、俺も宮崎へ飛んだんだ。
3日有休をとって土日もあって、ちょうど一週間くらい宮崎にいたんだけど、何年も会ってなかった友達とかとも会って、
親戚とかにも会って、仕事も決めたんだ。
それで東京戻って、辞表出して、なんだかんだで3月末をもって無事円満退職ってわけ。
一応は、何事も円満が俺のモットーだからね。
それで、明日、宮崎に帰るんだ。
バタバタしてて、街結君にお礼の焼肉をってのがずっと延び延びになってて気がかりだったんだ。
急な呼び出しだったのに、来てくれてありがとう。
最後に会えて良かった。
君のおかげだよ。いろいろ。」

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