2011年の昨日、私は埼玉県鴻巣というところで、簡単な打ち合わせをしていました。
ガタガタと揺れだし、そのうち大きな揺れが来て、室外に出ました。午後3時前という
のに、空はどす黒く垂れ下がり、なんとも不気味な感じで“何が起きたのか?”しばら
くして、誰かが駐車場の車のドアを開けてラジオを流しました。東日本大震災でした。
その日、わたしは帰宅難民となり見知らぬ小学校の体育館で眠れない寒い一夜を明か
しました。 テレビやネットの映像を見て、津波の恐ろしさを始めてみました。
夜食として配られました。
あれから丸9年が経ちましたが、おりしも新型コロナウイルスで各地の追悼式などは
中止となるなど、暗い気持ちが漂う一方で、現地取材で今の状況が伝えられた復興状況
が報じられていました。
しかし、『岩手、宮城、福島県では、住宅再建が進んだものの、復興事業の長期化に
よる人口流出は深刻で、再生された街に空き地が目立つ』とあり、津波対策で大規模な
かさ上げを行った中心市街地には、未だ商店や住宅が戻っていないそうです。
社説の『32兆円の国費を投じる被災地の生活基盤整備は、終点が見えてきたといえ
よう。』 しかし『岩手県陸前高田市の造成地では、現在も空き地が目立つ。津波で
流された中心街に大量の土砂を運び込んでかさ上げし、60ヘクタール超の空地を作った
が実際に利用されているのは半分に満たない」なども目に留まりました。
福島には、今もなお4万人超の避難者がいるという。先ごろ避難指示が一部解除され
た双葉町や大島町では「戻らないと決めている」住民は6割に上るらしい。
飲食業を営む店主のインタヴューでは『住宅もない、公共施設もない、スーパーも
学校もないところに戻ってもやってゆけない』 というのももっともなことだと思い
ます。
こんな時、最近届いた会報に「グリーンインフラの未来像」(中村太士氏、北海道
大学大学院農学研究院教授)と題する記事が目に留まりました。
これまでの高度成長期に作られた既存インフラの老朽化は進み、維持管理・更新に
従来通りの費用が掛かると仮定すると、2037年には維持管理・更新費が投資総額を上
回り、必要な費用が得られなくなると国は試算していて、さらに人口減少に伴う税収
減と温暖化に伴う大規模台風、豪雨頻度の増加を考えれば、将来の新規の社会資本整備
を実施しながら国土管理することはもはや現実的ではないと指摘されている という。
で、2015年には国土形成計画、利用計画が閣議決定され、2019年7月には国土交通省
から「グリーンインフラ推進戦略」が発表されているのです。
グリーインフラの考え方 (国交省HPより)
国交省によれば、『グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用等のハー ド・
ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力 ある
国土・都市・地域づくりを進める取組である。』とされ、『グリーンインフラの「グ
リーン」は単に緑、植物という意味ではなく、 さらに「環境に配慮する」、「環境
負荷を低減する」といった消極的な対応を越えて、 緑・水・土・生物などの自然環境
が持つ自律的回復力をはじめとする多様な機能を 積極的に生かして環境と共生した
社会資本整備や土地利用等を進めるという意味を持つ』としており、また、『グリー
ンインフラの「インフラ」は、従来のダムや道路等のハード としての人工構造物だけ
を指すのではなく、その地域社会の活動を下支えするソフ トの取組も含み、公共の
事業だけではなく、民間の事業も含まれる』 と広い内容を持っているとされている
のです。
既存インフラの多くは、コンクリートを使っているので「グレーインフラ」とよば
れているところから、何となくグリーンインフラのイメージはつかめますが、今一つ
ピシッと理解できずにいます。
しかし、ここで、会報記事の中村教授の指摘は、自然災害との関連で、安全性と
その復興にかかわる行動における問題点が述べられているのです。
グレーインフラ(既存インフラ)は、想定災害規模以内は100%の安全度が見込ま
ているが、想定外の災害規模には全く役に立たず、今回防潮堤は、“はるか見上げる
高さに”かさ上げし、何㎞にもわたって城壁のように再構築されています。
防潮堤(大船渡)
(ネット画像より)
グリーンインフラは、安全度から見れば、計画規模に対しても、弱く不確実性は
高いけれども、閾値的な壊滅状態にはなりにくいのではないかと指摘されています。
さらに、グリーンインフラは、防災・減殺効果のみで評価すべきではなく、その
特徴は「多機能性」にあり、地域の「原風景を守る」ことにあり、農業等土地利用の
維持、湿地等の自然生態系の生物多様性豊かな地域社会を形成できるのではないかと
述べられています。
したがって、グレー、グリーンの両インフラを組み合わせたハイブリッド型のイン
フラを志向してゆくことが望ましいのではないか。
また、防潮堤のみならず、被災した市街地は、いち早く原型復旧に取り掛かられて
きました。『災害復旧は原型復旧が原則』すなわち、災害前の状態に戻すことですが、
人口減少する局面で、おまけに住民の多くが高齢者であれば、戻って家屋を新築する
人は少ないのではないか。『人口減少社会において、膨大な費用を原型復旧工事に
使うならば、その費用を移転や被災者再建に使った方が合理的である。 しかし、
復旧工事費用を他地域における被災者再建に回す仕組みは存在しない。 政治家は、
こうした災害が起こるたびにさらなる強靭化を叫び、首長は移転費用の負担や人口
流出を心配し、原型復旧を良しとしている。これでは気候変動、人口減少下における
国土管理に未来はない。』と。
原型復旧はなぜいけないのか? については、被災したインフラ施設だけでなく、
かく乱を受けた生態系も含まれているわけで、津波で海岸林が破壊されて、湿地や
砂地生態系が新たに形成されてしまっているにもかかわらず、あえて、元の海岸林に
復元しようとしているのです。攪乱後に残された生物遺産を徹底的に取り除き、整地
して環境を均質化し、生物遺産が生態系の回復に如何に重要かが理解されていないと
指摘されています。原型復旧工事では、外来種、異なる地域の種、異なる地域の土砂、
人工材料などが持ち込まれるのです。
『多くの原型復旧では、元に戻すことばかりが重視され、被災を受けた地域社会が
未来に対してどのように発展すべきか、という視点が失われている。』との指摘があ
り、教授の考える未来復興の原則として、①グリーンインフラと既存インフラのベス
トミックスを検討する。そして被災時(後)はその好機である。②多くの場合、災害
後の地形は安定しているため、2次災害が予想されない場所においては、生物遺産を
生かす復興を検討する。③生態系の回復を待つ。人為的干渉が必要な場合も、生物遺
産を生かした再生を目指す。④外来種、異なる地域の種、異なる地域の材料を持ち込
まない。(⑤,⑥は略しました。)
かなり難しい論点で、具体的にどのようにすればよいかなど議論のあるところだと
思いますが、大事なポイントが指摘されていると思いました。そして、現在の政治下
では、現実的ではないようにも思い、ここにもはるか未来を見た施策として正すべき
事項があるのではないかと思う次第です。
長い記事となり、おまけにピシッとした論調にならず申し訳ありません。