少し前に、いつものH氏から頂いた記事の受け売りですが、世界で取り組まれている基本的な問題の
一つである “貧困” についての記事がありましたのでご紹介します。
文中に出てくる「MPI」については、UNDP(国連開発計画)の人間開発報告書2010の“基本メッセージ”の中に、
“多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index: MPI)は、健康、教育、生活水準の面における
貧困の度合いと頻度を明らかにするものです。 MPIで見ると、104カ国の途上国で暮らす人の3分の1にあたる
約17・5億人が多次元貧困状態にあることが分かりました。
この人数は、同じ国々において1日1.25ドル未満で暮らしていると推計される14・4億人を上回っており、
所得が向上している国でも、貧困がまん延していることを示しています。
こうした指標を単一的あるいは複合的に用いることで、人間開発で成果をあげて、その度合いが高い国々にも
残っている大きな課題に、新たな光を投げることができます。 ”
とのくだりがあります。
生活のためには、お金が必要ですが、生活のための所得がある程度増えてもそれだけでは貧困は救えず、
生身の人間として生きるためには、突発的事象にも緩衝出来得る 社会基盤・保障 が必要なんですね。
しかし、一方では客観的には大変なお金持ちなのに、貧困(こころが貧困)な人っているんですけど、
これなんかは論外ですね。
では記事をどうぞ・・
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The Economist 2013/09/21-09/27号
成長か、社会保障か(p53-54) (Growth or safety net?)
【要旨】世界各国は極貧を撲滅するという目標を掲げており、最貧困層の所得増加に関しては早期に目標を達成した。
だが、本当の意味での貧困の解決には、単なる所得の増加ではなく、医療や公衆衛生、教育などの
社会的目標の達成が必要だという。
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「過去2、3年は、コミュニティにおいて妊産婦の死亡を把握していません」と話すのは、ネパールのタライ平原の
遠隔地にあるクリニックに勤務する医師だ。「医薬品が入手でき、医療サービスは無料、そして分娩に
24時間対応しているからです」。 これには同クリニックに勤務する若い母親も同意し、英国のシンクタンク
Overseas Development Institute(ODI)の調査員にこう話している。
「数年前に私が出産した時は、医療施設に連れていってもらえませんでした。今は医療施設が分娩に24時間
対応しているため、義理の兄弟の妻は入院させてもらえます」
ネパールの母子保健は劇的に改善した。1990年代前半、ネパールは世界の最貧国の一つだった。
現在でも、南アジアでは最も貧しい国だ。所得の増加率自体は高いが、速さがない。また、内戦があった。
それでも、医療への支出を倍増し、最貧の地域に支出を集中させることで、妊産婦死亡数は1998年から
2006年にかけて半減した。所得増加の数字が示す以上に、欠乏と困窮の状況が改善したのである。
MPI(多次元貧困指数)が示す広義の貧困指数では、2006年以降、他国を置いてネパールの低減がいちばん大きかった。
1990年から2010年にかけ、発展途上国において1日1.25ドル未満で暮らす人々の割合は人口の21%、
12億人にまで半減した。これは、1990年から2015年の間にそうした最貧困層の割合を半減させるという
189ヵ国による合意目標が、予定より早期に達成されたことを意味する。
実際のところ、こうした合意目標の設定が貧困の改善にどれほど役立ったかは不明だ。
それでも、ほぼすべての国で目標設定と貧困状況改善との相関性が強かったため、現在の合意が切れる
2015年以降の新しい目標設定を求める声が上がっている。9月25日にはニューヨークの国連本部に代表者が集まり、
事前に提案された「持続可能な開発目標」の項目について検討された。
コロンビア大学教授のジェフリー・サックスによれば、こうした目標には「技術的また組織的飛躍をもたらす
新しい時代の扉を開く可能性がある」という。
オバマ大統領は、2030年までに最貧困層を撲滅、つまり、世界中で1日1.25ドル未満で暮らす人々の割合を
3%以下に削減することを目指すと宣言した。 英国首相、世界銀行、そして多数の国際慈善団体もこの目標に合意している。
だが、ネパールの例から明らかなように、貧困の削減は単に所得の増加を意味しない。
欠乏には様々な種類があり、学校・浄水・医薬品・家族計画の不足などが含まれる。ODIのEmma Sammanは、
「1日1.25ドル未満という境界線を引いて貧困のない世界を目指すのが、貧困に立ち向かうにあたって
本当に最適な方法なのかは不明です」と話す。
慈善団体やその他の機関は、各国政府が集うニューヨークでの会議で、所得目標とは別の、明確な社会的
目標を採択するよう促した。セーブ・ザ・チルドレンは、2030年までに分娩時における予防可能な死亡をなくすこと、
飲料水への普遍的アクセスを確保すること、乳幼児の死亡率を1000人当たり50人から20人まで削減すること、
子どもの成長障害(栄養失調)を半減させることを目指すべきであるとしている。
極貧層の所得の増加よりも、貧しい人々が直面する社会的な欠乏(劣悪な教育や健康状況など)の軽減を目指し、
実現してきた国もある。前述のネパールや、バングラデシュがその例だ。バングラデシュでは、所得の増加自体は
それほどでもないものの、乳幼児・妊産婦の死亡率は目に見えて減った。 だが、これらは例外だ。
国連は現在の開発目標で、1990年から2015年の間に、乳幼児の死亡数を3分の2削減し、妊産婦死亡数も
4分の3削減するとしているが、目標達成にはほど遠い。どちらの目標も、現在までに達成されているのは半分以下だ。
公衆衛生や教育に関する目標達成も見えていない。
単なる所得増加ではなく、そうした高い社会的目標の設定を求める人々は、政府が「所得の格差を解決し、
ガバナンスを向上」させれば、状況はよくなるはずだという。 だが問題は、不平等を変化させるのは非常に
難しいことにある。裕福で権力を持つ人々は、わざわざ不平等を解決しようとは思わないだろう。
また、仮に状況が変化しても、極貧層が受ける恩恵はわずかなものだ。
ガバナンスに関しても同じだ。政府の責任能力、透明性、そして効率性を改善すること。どれも素晴らしい考えだ。
だが、コンゴやアフガニスタンなどの国では、ガバナンスを改善するといっても、そもそも政府のガバナンスが
ほぼなっていない、存在しないのである。
とはいえ、国連会議に意味がないわけではない。極貧撲滅の目標達成にはかつてなく近づいている。
ネパールのように世界の参考となる事例もある。だが、極貧状態を単に1日1.25ドル未満の生活と線引き
するだけでは解決しない問題があるのだ。
経済数値を超えた、社会的問題を解決していくにはどうすればよいか。世界中でまだ苦しい戦いが続く。
コメント:国民性や宗教、地理的・環境的な条件が異なる以上、人々の「豊かさ」や「幸せの度合い」を
世界一律で測るのは不可能といっていい。最貧国に対する国際的な援助については、所得増を目標とするよりも、
衛生、医療、食糧など命に関わる最低限のケアに注力すべきだろう。それ以上については、それぞれの
国・地域の事情、国民の価値観に沿った指標を設けていくべきではないだろうか。
ネパールの近隣国であるブータンのGNH(国民総幸福量)などにヒントがあるのかもしれない。
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