先(5/3)の「憲法記念日」の拙ブログに、憲法改正に関して少し述べていました
が、その中で「緊急事態条項」に関しては、項目だけ挙げていただけで、いただいた
コメントにも、「緊急事態条項の定義」についてよく議論して欲しい・・とあり、
確かにこの条項は、日本国憲法の根幹をないがしろ(骨抜き)にしてしまう可能性
があります。
にわか勉強ですが、ネットなどを参考にこの議論をまとめてみました。諸兄におか
れまして、さらにご検討されることを願っております。
(Google Playより)
もともと、「緊急事態条項は」2011年の東日本大震災をきっかけとして、緊急事態
に対処するため自民党内にて議論されてきましたが、直後の衆議院選挙では公約と
して謳い、これを基に、2012年に自民党が公表した「日本国憲法改正草案」に、緊急
事態条項が98条、99条として盛り込まれていることが議論の発端となっているのです。
すなわち、
第98条(緊急事態の宣言)
・法律で定める緊急事態が起こった場合、閣議決定により緊急事態の宣言を出せる
・緊急事態の宣言には、事前または事後の国会の承認が要求される
第99条(緊急事態の宣言の効果)
・内閣は、法律と同一の効力を持つ政令を制定できる
・内閣総理大臣は、緊急の財政支出を行い、地方自治体の長に対して指示を出せる
・国民保護のために発せられる国等の指示には、従わなければならない
・衆議院は解散されず、国会議員の任期および選挙期日の特例を設けられる
以上が議論のポイントであり、言い換えれば、
98条では、閣議決定(内閣)で、緊急事態の宣言が出来、99条の緊急事態下では、
内閣が法律と同等の効力を持つ政令を制定することが出来、財政支出や地方自治体の
長に指示が出せ、国会議員の任期を定めることが出来る・・こととなり、緊急事態の
名のもとに、内閣総理大臣に独裁的権力が与えられることになるのです。
つまり、憲法に「緊急事態条項」が盛り込まれれば、そもそも「憲法は、権力者が
暴走しないように守るべきルールを規定したものである」にも拘わらず、緊急事態下
では、権力者が守るべきルールも自らとり決めることが出来ることになるのです。
なので、国が暴走する危険性があるとの危惧が生まれているのですね。
「緊急事態条項」は、芦部信喜氏、『憲法 第六版』によれば、憲法学では「国家
緊急権」と呼ばれ、「戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など、平時の統治機構を
持っては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が
立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限」と定義されているとあります。
また、ウイキペディアにもこれと同じような内容の説明があります。すなわち、
『国家緊急権とは、戦争、内乱、大規模な災害・疫病・テロリズムなど、国家の平和・
独立・公衆衛生を脅かす緊急事態に際して、平常の統治秩序では対応できない際に、
憲法条項の一部を一時停止し、行政機関などに大幅な権限を与える非常措置をとる
ことによって、独裁を図る権限のことをいう。また、当該緊急時の特例を定める憲法
上の規定を緊急事態条項という』とあります。
そして、『1789年から2013年までに世界で制定された約900の憲法中、93.2%が
何らかの緊急事態条項を有するとされるが、一方で、緊急事態において、法律と同等
の効果を持つ政令を内閣が発出することができる旨を憲法に定めているのは7.4%に
とどまっているとされる』と結ばれています。
つまり、フランス・ドイツ・イタリア・スイス・スペイン・韓国など93.2%の憲法
には何らかの緊急事態条項が含まれていて、「憲法に明確な緊急事態権限について
定めることは、人権保障や民主主義、法の支配にとって有益だ」との見解を示す人も
いますが、緊急時における人権保護規定の停止や緩和規定が憲法に盛り込まれている
割合は63.7%であり、過大な権力を委任することには、特に第2次世界大戦後、慎重
になっている傾向が見られるとあります。更に、緊急事態において、法律と同等の
効果を持つ政令を内閣が発出することができる旨を憲法に定めているのは 7.4%に
とどまっている とあります。
憲法に国家緊急に関する規定が無い国は、アメリカ、カナダ、イギリス、日本など
少数です。アメリカでは、大統領に与えられているのは、議会を招集する権限だけ
だそうです。 憲法に国家緊急の規定があるフランスや韓国でも、大統領に与えられ
ている立法できる権限は厳格に制限されているそうです。
あの東日本大震災に対しては災害対策基本法で、また、新型コロナウイルスの感染
拡大の際は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正などで対応しています。
仮に現行法で対応できない場合が生じても、いきなり憲法改正に飛びつくのでは
なく、まずは法律改正を検討するのが法的な議論の筋ではないでしょうか。
コロナの時の例では以下のように、各国の対応が整理されています。すなわち、
1、憲法の緊急事態に関する規定で緊急事態宣言の発出や行動規制措置した国(イ
タリア、スイス、スペイン)
2、憲法に緊急事態に関する規定はあるが、新型コロナウイルス対応については法
律の規定により措置を行った国(中国、フランス、ドイツ、韓国、インド)
3、憲法に緊急事態に関する規定が無く、法律の規定によって行われた国(アメリ
カ、カナダ、イギリス、日本)
因みに、2022年参院選時の公約では、緊急事態条項創設に関する主要政党の立場
は次の通りとありました。
・賛成派 ⇒ 自民党・日本維新の会・国民民主党
・反対派 ⇒ 立憲民主党・共産党・れいわ新選組
ただ、現在の憲法では一つ大きな問題となる事象があるようです。それは、衆議院
が解散されているような場合で、衆議院が存在せず国会が開催できない期間に、国に
緊急の事態が生じた時にどのように対処するかの場合、参議院の緊急集会(内閣が
召集)を開いて国会の機能を代替することにより対処できるのですが、この規定は、
あくまで、衆議院が解散した時であり、任期満了(通常は、満了の30日前に選挙を
行うことで問題はありませんが)で、かつ国会閉会後の日数が取れない場合例外的
処置で選挙が行われる場合があり、この場合には、衆議院議員が存在しないことと
なり、この期間に緊急事態が発生した場合には対処不能となります。
しかしこのような事象が起こる可能性は極めて低いと考えられるため、事前に想定
すべき事案の法律等の整備をすることにより対応すべきかもしれません。
余談ながら、ネットに次のようなくだりがありました。
『2013年8月に麻生副総理がポロっとこぼした発言に・・「憲法も、ある日気がつい
たら、ドイツのようにワイマール憲法がナチス憲法に変わっていたのですよ。誰も
気がつかないで変わったんだ。あの手口を学んだらどうかね。」 ナチス憲法という
のは存在しない。ただ、当時、世界で最も民主的な憲法と言われたワイマール憲法が
ありながら、なぜ、ナチスの独裁政権が生まれたのか。実は、ワイマール憲法の中に
「緊急事態条項」があった。』のです。これを利用し、ヒトラーの独裁政治が可能と
なったのですね。緊急事態条項に「公共の安全・秩序に重大な障害が生じる恐れが
あるときは、基本的人権を停止できる権利を大統領に与える」とあったのです。
にわか勉強で、分かりずらく消化不良は否めませんが、要するに十分議論を尽くさ
ないと、緊急事態だからといって、平時のような処理では間に合わない、迅速にとり
きめ実行に移す必要がある・・ことから、「憲法」を改正するということに直結する
のではなく「憲法」の意味を今一度再確認するべきではないかと思えるのですね。
憲法改正には衆・参両院でそれぞれ2/3以上の賛成が必要であり、さらに国民投票
により過半数で決定されるとの高いハードルがありますが、今現在の議員数では、
上で述べた賛成派は、衆・参共に2/3をクリアしているのです。つまり、憲法改正に
とってはまたとない好機であると捉えられているかもしれません。この意味からも
国民一人一人の判断が重要となっていると思います。
【憲法改正②】第9条の本質に中田が切り込む!
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